第66話 このボタンですか?
探索ロボットを起こす間に、ロロロが携帯でどこかに電話をかけている。スピーカーモードではないため会話は聞こえないが、おそらく相手はタタンだろう。
聞き耳を立てる趣味もないため、適当な場所に手をかけると一気にロボットを起こす。これが中にパンパンに魔石を詰めていたら流石に一人で起こせなかったが、先ほど中を確認したところ半分も詰まっていなかったので試神一人でも十分起こすことが可能だった。
ドカン、バキンとおよそ精密機械には大打撃であろう音を立ててまっすぐになったそれを見ていると、すぐ隣にロロロが来た。
「ふーむ。まっすぐに立たせても動き出す様子はなし」
寝ている子の頬を叩くようにぺしぺしと軽くロボットを叩くが、反応はない。
「普段ならこれで動くんですか?」
「動く時もあった、ぐらいに言っておこうかな。壊れ方なんて千差万別だから。でも、転んで起き上がれなくなったことは今までもあったから、起こしたら動くかなって思っただけ」
横転しタイヤが空転している自動車を思い浮かべるが、まさかそんな単純なつくりではないだろう。ただでさえ道の悪い洞窟だ。ロボットの足がキャタピラになっているとはいえ、段差に乗り上げてバランスを崩すことはあるはず。そのときに自動で体勢を立て直せなくては、こんな場所で自律走行などできるはずがない。
前に試神に魔石を見せたときのように、背面のパネルを開ける。すぐ目につく一番大きなボタンを一回押して、少し待った。
「…………」
ロボットが動かないことを確認し、今度は少し長めにボタンを押す。それから同じように待つも、ロボットは動き出さない。
「ダメか」
「今のは?」
「なんかの影響で電源が切れたのかと思って、起動ボタンを押してみたの」
見える? と試神をコントロールパネルが見える位置まで誘導する。
前はよく見えなかったが、ロロロが押していた起動ボタンのほかに、なにやら点滅しているLEDやONOFF スイッチがいくつか見える。スイッチやLEDにはテプラで明示がされているが、アルファベット二文字か三文字程度の略語でしか明記されておらず、試神にはなにがどのSWなのかわからなかった。
「起動スイッチって、このボタンですか?」
「そう。押してみな」
いいのか、と目で確認を取ると、彼女が一回首を振る。おっかなびっくりそれを押してみても、やはりロボットは動かなかった。
「起動もそうだけど、一時停止もこのボタンね。動いているときに一回押せば一時停止。もう一回押せば起動再開」
「止めるときは?」
「長押し。ちなみに、完全に電源が切れてから再度起動させるときも長押し」
先ほどロロロが短押しと長押しを試したのは、どちらでも対応できるようにとのことらしい。
「ロボットの動作がおかしくなったなあ、ってときは、まずこの電源ボタンを操作してみて。変な動きをしていたら、一回短押しして動きを止めて、長押ししてシャットダウン。そのあと、もう一回長押しで再起動」
どうやらそれでほとんどのエラーは直ってしまうらしい。
電源を落とすと内部のデータに初期化がかかるようで、エラーもなにもない正常な状態に戻るとロロロが説明してくれる。
「初期化していいんですか? 動かなくなるんじゃあ……」
「初期化がかかるのはROMじゃなくてRAMだから大丈夫」
さすがに電源を落とすだけだからね、と笑うが、試神は首を傾けるだけだった。
「簡単に言えば、工場出荷時の状態に戻すってことかな。エラーと一緒に内部に蓄積された地形データも消えるだろうけど、ほかのロボットからデータをもらってまた動き出すよ」
「なるほど……。さっきロロロさん長押ししてましたよね。再起動は成功したんですか?」
「うーん、それがうまくいっていないっぽい」
「電源が落ちないってことですか?」
そうなのよねー……と腰に手を当てて、ロロロが疲れた息を吐く。
「長押しして待ってみても、LEDのライトが消えなかった。ディスプレイがないからわからないけど、なんかの処理中なのかもしれない」
「……シャットダウンしようとしたけど、開いているファイルがあります、的な?」
「そうだね、その理解で正しい。でも、これはテレビの電源ボタンを押すような感覚だから、ファイルが開いてようがなにしようが、切れるはずなんだよね。だから、どちらかといえば処理を受け付けない状態になってるかも」
テレビのONOFFボダンを押して画面が消えなければ、確かにそれは異常だ。それに、地球にいたときにテレビの映りが悪くなったとき、一回電源を消してまたつければ直ったことも思い出す。今回もそれに近いのだろう。
「で、これが強制終了」
ボタンを長押ししつつ、隣にあったトグルSWを二つ、同時にONにする。モーメンタリSWのようで、手を放すことなくしばらく上にし続けると、強制終了が完了したようだった。小さな音を立てて電源が切れ、見えていたランプやLEDの光が全て消える。
「パソコンとかでもそうだけど、あんま強制終了はお勧めしない。基板が壊れるからね。するときは今みたいに、ボタン長押しでも電源が切れなかったときかな」
少し時間を置いて、ボタンを長押ししてロボットを起動する。
これで直るかと期待したが、LEDやほかのランプが点灯してもロボットは動き出す様子はなかった。
「変化なし」
「……さっき俺、ロボット起き上がらせたときにすごい音しましたけど、あれで壊れましたかね?」
「あたしも見てたけど、あの程度では壊れないよ。壊すとしたら、今やった強制終了のほうがダメージはでかい」
動き回ることが前提のロボットなので、多少揺れた程度で壊れるような基板のつけ方はしていない。ケースで保護されているし、ブラケットで筐体にしっかりと固定している。それに、魔法でもしっかりと保護されているのだ。魔王室の上から下まで落とされたとしても、ロボットの外側は壊れるだろうが内部にダメージが行かず、の板は無事なよう作られている。
「で、これでダメなら次。エラーの内容を確認しよう」
「なんか、どこかの解説動画のようですね」
「異世界人くん作る? 需要あるかもよ」
誰に?




