第65話 人を呼んでいるかのように
形を変え、中にあったものも、一新される。
――リセット。
その言葉が一番正しいように思える。
その言葉が一番的を得ていると思える。
「…………」
ダンジョンに挑む側の心理としては、それはありがたいことなのだろう。
中に残したものが消えるという特性上、拠点を作ったり、罠をしかけたりすることはできないが――
――ときには仲間を見捨てたり、連れていけない死体を残していくことになるのかもしれないが――
毎回真新しい気持ちで挑めるというのは、魅力的に映るはずだ。
異物までも更新されるとなれば、毎日のように潜る人がいてもおかしくない。
珍しいものがあれば集めたいと思うのは人の心理として当然であるし、それがお金に結びつくとなれば、本気で取り組む人がいるのは当然だ。
『初心者用』との言葉があるように、難易度によっても差があるのなら、実力を試そうということであちこちのダンジョンに挑むという気持ちも十分理解できる。
これがゲームではなく、実際にあるものだから、驚きだ。
まるで。
――ダンジョンが意識して、人に合わせているかのように。
――ダンジョンが意思を持ち、人を呼んでいるかのように。
「ダンジョンが――誰かの固有魔法ということはあるんでしょうか?」
「あー、どうだろう。そういう考えを持って研究している人はいるよ」
わりと突拍子もない意見かと思ったが、ロロロは特に驚いたりしなかった。
「でも、そうだとするとあまりに歴史が長すぎるから、もっと別のなにかだという意見が多いけど」
「別のなにか?」
それはなんだ、と訊こうとしたところで、ロロロは首を振って先に回答をする。
わからない。
それが回答なんだろうが。
(なぜだろう)
言いたくない――という意思が見え隠れしているような気がする。
『意見が多い』ということでなにかしらの答えがあることは確かなのだが、それを言わないということはなにか意味があるのだろうか。
「友情崩壊ダンジョンが初心者用って言われる大きな理由はさ」
そんな心情を察したのかわからないが、ロロロが話題を切りかえる。
「ダンジョンからの帰ってきやすさにあるんだよね」
「帰って……?」
首を振って、ロロロが絶命洞窟を見渡す。試神もそれを真似てぐるりと首を回した。
「ダンジョンは日ごとに姿かたちを毎回変えるんだけど、いくら変わっても大元は変わってなくて、特に友情崩壊ダンジョンは、こんな洞窟みたいな形をしてるの。それで、一本道が多くて、道に迷い難い。タイムリミットまでに帰ってこれる人が多いから、初心者用って言われてる」
奥にボスがいてそれを倒せばダンジョンクリア、ではないのだ。
奥に行くのは異物を探すためであり、強敵を倒してレベルを上げて、ではない。
ボスなんかいても、その日中にダンジョンから出て来なければいなくなってしまう。
「……あまり口に出したくないですけど、もし迷ったらアウトですか?」
「奥深くまで行かなきゃ大丈夫だよ、ほかのダンジョンはわからないけど――といっても、あたしもほかのがどうなってるかなんて全くわからないけど――帰ってきやすいって言われてるくらいだから、迷うことなんてないでしょう」
「そうだと……いいんですけど」
誰も行ったことない宝島。
そんな言葉が試神の頭に浮かぶ。
誰も行ったことない宝島などありえない。なぜならそんな噂が存在している時点で、宝島から帰って来ている人がいるからだ。
よく聞くような矛盾点を付いた話だ。
確かにそれはその通りで、間違いではないのだろう。
だが。
だがそれは――誰も行ったことない宝島の存在を、完全に否定ことはできない。
その『帰ってきた人がいる宝島』であっても、帰ってきた人が名乗り出るまでは、本当に『誰も行ったことない宝島』だったのだ。
簡単に行けるのかもしれないが、帰ってこれないだけで。
過去に行った人がいたのかもしれないが、誰も帰ってこなかっただけで。
だから――迷った人が全員帰ってこれないのならば。
帰ってきやすいは正しくもあり、間違っていることになる。
「大丈夫だよ、そんな顔しなくたって」
安心させるようにロロロが肩に手を置く。
「相当奥に行って一人取り残されない限り大丈夫。それに、一人じゃなくてパーティー組んでいくんでしょ? 流石に誰か一人くらいダンジョンに詳しい人はいるだろうから、その人の指示に従っていけば事故は起こらないよ。詳しい人がいなければ……それこそ全員初心者の集まりだったら、みんな怖がって奥までいかないだろうし。今の時期だったら人も多いから、迷ったら叫べば誰かしら気付いてくれるよ」
ここみたいに、人が来にくい環境じゃないんだからさ。ロロロが言って、試神は首を振る。
そして、「いざという時は携帯を使って、タタンに助けを求めます」と続けた。
「この携帯で俺の位置、わかるんですよね」
「そうね。普通の携帯ならともかく、支給されたものは絶命洞窟でも場所がわかるくらいの特別なやつだから、ダンジョンでも問題なく位置情報はわかると思う」
「それなら大丈夫です」
試神がポケットに手を当て。
「あれ?」
というのと。
ロロロが唐突に足を止め
「あれ?」
と言ったのが、まったく同じタイミングだった。
そして。
「異世界人くん」
「はい?」
「初仕事かもしれないよ」
ロロロが指さして、試神もようやく気が付いた。
絶命洞窟の先に、採掘ロボットが一台いた。
いつも試神たちを追い抜かしてはマシュマロのほうに消えていくそれは。
今は横に倒れて、動かなくなっていた。




