第63話 もし会えたら
股下も肩幅も、計られたこともなければ身長を教えたこともない。裾だけならまだ、以前履いたときに軽く折っていたのでわからなくもないが、肩の位置などはどう合わせたと言うのだろう。
「あれですか? 見ただけでモノの長さがわかる魔法とかあるんですか?」
「ないとは言えない」
使ったとも言えない、とロロロが笑顔で言い切る。
「まあ、メイドちゃんと異世界人くんは背丈も近いし、なんとなくわかるんじゃない?」
「近いですか?」
背中合わせになったことはないが、試神のほうが高いのは確かだ。ロロロほど明らかに差があるわけではないが、同じとひとくくりにされるほどでもないかと思う。
「あたしから見ればほぼ同じだよ」
「ロロロさんは大きいですからね」
「それか、好きなキャラクターと同じ身長で、その衣装から逆算して作ったのかも」
それはあるかも、と顎に手を当てた。
モデル並みの体型とは言えないが、それでも特殊な体つきをしているわけでもない。アニメや漫画のキャラは多少体格や体形が良すぎるとしても、それをもとにすればできなくはないだろう。
「でも、だとしたら異世界人くん、気を付けないといけないかもね」
「なにがですか?」
「メイドちゃん、結構ここに長く務めてるけど、裾上げとか誰にもやってあげたことなかったし、しかもそれが所長から言われたとかでもなく、自分から言いだしたんでしょ? 相当気に入られてるよ、キミ」
「……はあ」
それが? とばかりに首を倒す。
「もしかして、一緒にコスプレしてって誘われるかも」
「なんでですか!」
「身長だってちょうどいい感じだし、体型が把握されてるってそういうことだよね?」
「知らないですよ、そんなの!」
「まあ今回のお礼だと思って、一回ぐらい付き合ってあげなよ」
もしかしてのことだからさ、と肩に手を置かれるが、その『いつか』がくると思うと恐怖でしかない。普通にまだ着れる服ならいいが、アニメキャラの服というのは時に斬新すぎる場合があるのだ。
時代を二回りぐらい先取りしたファッションの服を用意されたらどうしたらいいのだろう。
もしそうなれば、そのときは――。
「……仕方ない、千差さんを売るか」
「あの人、そういう空気には敏感だから、近づいただけで逃げると思う」
他人の感情を空気で察する魔法。
千差 苦同の固有魔法がそれなら、多分話を切り出しただけで勘づかれて逃げられてしまう。
だが、ほかの人を生贄に出すのは無理だ。
フクロウは子ども体型であるし、花子だって同じだ。あまりに背が低すぎる。
逆にガブリンはがっしりしすぎているし、ロロロは背が高く、なにより胸があって男性のコスプレは無理だろう。唯一なんとかなりそうなのはタタンであるが、心殺より背が低いとなるとそれなりに服を選ぶだろう。中学生ぐらいのコスプレならなんとかなるかもしれないが、それ以上は試神にお鉢が回ってくるに違いない。
「まあ、コスプレは冗談だとしても、気に入られてるのは本当だよ」
「そうなんでしょうか」
「さっきも言ったけど、裾上げとかやってあげた人、今までいなかったからね」
そこまで踏み込む人もいなかったとも言えるが。
「しかもそれ、生害所長のものでしょう? 異世界人くん以外だったら、頼まれても嫌がったんじゃない?」
試神が服の袖を摘まむ。もしそれが本当なら、服の調整なんて頼んでしまって悪かったように思えてしまう。
「……生害さんって、そこまで嫌われてたんですか?」
「んー?」
「なんとなく、そんな気がして」
最初、この服を取りにいったときも。
この装備があった棚も。
そして『生害』という名前を出したときも。
なんとなく、空気がざわりとした気がしたのだ。
空気が淀み、流れが悪くなるような。笑顔が消えて真顔になるような。
「ロロロさんは生害さんって、どんな人か知ってますか?」
「知ってるけど」
上を見て、少し間を置く。
「あたしはほとんどこっちにいるから、挨拶ぐらいしかした記憶がないんだよね。世間話なんてしなかったし、あの人も魔王室には来れなかったからさ。ここを辞めるってなっても『ああ、そうなんだ』ぐらいにしか思わなかったなあ」
なにか思い出話を探しているのだろう。そのまま上を向いて言葉を探していたが、結局なにも出て来なかったようだ。首を振って、試神に笑いかける。
「でも、カリスマ性はすごい人だったよ」
「それは……なんとなくわかります」
会ったこともどんな人かもわからないが、人の記憶に残る人だったのだろう。
「みんな、タタンのことを『所長』って呼ぶんで」
ここは創造根底『館』なのだが、前の果報拡散支援生甲斐所を引きずって『所』長と呼んでいる。三年も経つのに、だ。
「あー、なるほど」と、同じくタタンを所長と呼ぶロロロも、所在なさそうに笑った。
訂正する気も、それが悪いって言う気もないんですがね、と試神は言う。
タタンでさえ特に気にしてないようなのだから、別に試神も気にすることではないのだろう。
「この服も、もし会えたらお礼を言いたいんですが……」
「言わなくていいと思うよ。どうせここのお金で買ったものだし」
「ダンジョンのどこかで会えるんでしょうかね」
さすがに友情崩壊ダンジョンで会えるとは思えないが。
「えー、会いたいの?」
「積極的に会いたいとか探そうとは思いませんが。たまたま会えたらいいなあ、ぐらいですよ」
ああ、あと。といって試神がポケットに手を入れた。
「もし会えたら、これを返そうかな、と」
「……人形?」
「リュックに入ってたんです」
布を合わせてつくられた手のひら大の手作りの人形だ。心殺には捨ててもいいと言われていたのだが、大事なものだったらと思って持っていた。




