第62話 で、どう?
踏んだ小石がまったくわからないほど厚く、そして硬い靴底。残念ながら足首までしっかり保護されているトレッキングシューズではないため、捻挫の怖れは残っているが、それでもいつも履いているスニーカーよりは全然マシだ。
欠点として少々重い点が上げられるが、致し方ない。それに軽すぎればちゃっちい造りになっているのではないかと疑わしく思えるため、このくらいがちょうどいいのかもしれない。今は乾いた土の上を歩いているため靴底にくっつかないが、これが少しでも濡れていたらと思うと辟易する。靴の高さがあるため多少の水たまりでは問題ないが、少し深いところだと靴の中にまで入ってきてしまうだろう。それなりに水が入りにくい構造になってはいるが、完全防水ではない。水に浸かれば当然靴下まで濡れる。
すでに汗でしっとりとしているのを感じているため、濡れるとなるとさらに不快になることこの上ない。スキーブーツのように、一回使ったら乾燥機かなにかで乾かさないと、次履くときまで濡れたままかもしれない。
(靴底が取れたら乾くのも速いんだけどな)
片足を上げてラバーソールの境を触れてみる。しっかりと造られたそれは簡単には離れそうにない。それが嬉しくもあり、溜息の原因でもある。
しかし、と触れてみて改めて思う。硬い靴底である。
バスケットシューズは履いたことがあるが、室内用で、かつ滑らないことを目的にしているためここまで硬くはなかった。その分足首までしっかり保護されているのだが重さはこのトレッキングシューズとあまり変わらない。
小石ではなく、試しに枝でも踏んで感触を確かめたかったのだが、見渡す限り土で覆われているため、枝はおろか落ち葉の一枚もない。石だって、本当ならば爪ほどの小石ではなく拳大のものを踏んで試したかったのだ。だが、きっちりと整備が行き届いているためそんな危ないものは落ちておらず、小石だって見つけるのにちょっと探したほどである。
リュックを背負い直す。中で500mlのペットボトルが暴れ、少し衝撃がくる。もう少し中身が詰まっていればこの衝撃もなくなるのであろうが、今はペットボトルしか入っていないのだ。暴れても仕方がない。飲めば当然軽くなるのだが、これは飲料用ではなく、重しのために入れているのでまだ飲むわけにはいかなかった。
「で、どう? 使い心地は」
3歩後ろにいたロロロが声をかける。
「問題なし、ばっちりです」
振り返り、神羅 試神が親指を立てた。
絶命洞窟内。
今日はダンジョン用装備のお試しである。
Φ
「生害所長の持ち物ってきいてたからどうなんだろうって心配してたけど、案外普通のものなのね」
試神が倉庫から装備を発見してから数日が経っていた。洗濯を終え、靴も洗って乾かし、責慈 心殺の服にポケットを追加してもらったあとである。
「普通じゃないってどんなものを想像してたんですか……」
言ってから。
「でも、よかったんですかね。ポケットとか勝手にいろいろ改造してしまってますが」
「いいんじゃない? もうここにはいない人だし、いまさら返してっていう人でもなかったし」
右腿のあたりに縫い付けられた細長いポケット。今ではそこに杖が収められている。腿の外脇のほうにつけてあるため歩いてもしゃがんでも邪魔にならず、パンツもゆったりとしているためうっかりすると入れているのを忘れてしまいそうなほどだ。
杖のポケットだけではない。
裾を引きずってしまいそうだったカーゴパンツはしっかり裾上げされており、長さはばっちりだった。ウエストも少し締められており、さすがにベルトをしないとずり落ちてしまうが最初より大きい気はしない。
サファリジャケットにも手を入れてくれており、背中にある布を少し寄せてくれたようで肩の位置がばっちり合っている。脇やウエストも少しずつ絞られており、最初羽織ったときより体が遊ぶ気はしなかった。
「いきなりそんな恰好してくるからびっくりしたよ」
「試せる場所ってここぐらいしか思いつかなかったんですよ」
友情崩壊ダンジョンがどんな場所かよくわからないが、テレビで見る限り洞窟と同じような感じだった。ここより少しゴツゴツしており、湿っぽいぐらいだろうか。
「靴ズレとかもないようなので安心しました」
アキレス腱のあたりも、ほかの箇所も擦れている感覚はない。さすがに靴のサイズまでは変えられないので、そこだけが心配だった。
逆に言えば、靴だけ試せればよかったのだが、ついテンションが上がってフル装備できてしまったのだ。
あたまの安全ヘルメットも、ばっちり着用している。
「メイドちゃんだっけ? 大した腕よね」
もちろん心殺のことだろう。メイド服を着ているだけでメイドではないのだが、いちいち訂正するほどのものでもない。
「服飾が趣味って言ってましたけど、本当にさらっと作ってくれて驚きました」
服を渡した次の日にはもう出来上がっていたのだから、驚きである。しかしまあポケットを付けるだけなら……と思っていたのだが、裾上げなどもしてくれていたのでさに驚きだ。
驚いて、そして少しだけ、怖かった。
「……この服、俺の体にぴったりなんですけど」
「それはいいじゃない」
「俺、採寸された記憶がないんですよねー……」




