第50話 花子さんから?
「服はいいとして、じゃあ遊べる店。こういう日にふらっと入って時間を潰せるような店、どっかない?」
「映画館とかレンタルショップとかいくらでもあると思いますよ。私はそういう店に入ったことないので紹介はできませんが」
「え? 休みの日とかいかないの?」
「休みの日になんで外出するんですか?」
冗談ではなく真面目に訊かれているようなので沈黙する。
「お前別に引きこもりってわけじゃないよな?」
「用があれば外出しますよ。食料だって買いに出ますし、家具とか家電もネットだけじゃなくて店舗で見て確認したりしますよ」
別に強がりで言っているわけでも、嘘でもなさそうだった。話では接待もするようだし、見たわけじゃないが来客対応もこなしているようなので人と接することができないわけではなさそうだ。
なのに。
「たまの休みの日に、友達と外に遊びに行ったりとかしないのか?」
「ともだち」
「もしくは同僚とか」
「どーりょー」
「急に馬鹿になったのか、お前」
知能指数が小学生まで落ちた気がする。
「そういえば……あのメンバーで食事会とか久しくしてないですね。千差さんの歓迎会以来でしょうか」
「社会人とかだったら呑みにとかもあるだろうけど……そっちもないよな」
「私、未成年ですよ?」
あなたと同じ、と睨まれる。
「……………………」
「まさかと思いますが」
「いやいやいやいや! 吞んでない呑んでない! 単に訊いただけだって!」
「まあ、別に試神さんが地球で隠れてお酒を呑もうが煙草を吸おうが勝手ですが」
「してないから!」
うそ発見器でもなんでも使っていいから!
「まあ冗談はさておき、休み自体あまり取れないので娯楽には疎いかもしれませんね」
「そういえば、花子さんもそういってたな」
「あまりに知らなすぎるのもまずいので、定期的に知識は仕入れてますよ。話のタネにになりますし、あって困るものでもありませんからね。世間話として、話を合わせるくらいなら十分できます」
「威張って言うことか? それ」
それとも社会人としてはそれくらいで十分なのだろうか。
「ふーん、じゃあ今日はなかなか思い出に残る日になったんじゃないか?」
「なぜです?」
「休日でもないただの普通の日に、友達で同僚と俺と外に買い物に出たから」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「なにその長い沈黙」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………まあ、そうですね」
「ものすごい眉間に皴が寄ってるけど」
「単に驚いてるだけです」
驚く?
「なにに?」
「いえ、忘れてください。ですが、そうですね、確かに……思い出には残ると思いますよ。特に試神さんはいろいろ面白い方なので、嫌でも忘れはしないでしょう」
「光栄……なのか?」
忘れたいけど忘れられないと言っているようにも聞こえるんだが?
「えっと、それで、コーヒーカップを買うんでしたよね? 雑貨屋含め知っている限り……それでも2、3店舗ですが……見て回りますが、それでいいですか?」
「十分」
「では、こっちです」と先頭を歩き出すタタンに、「ああ、あと」と試神が呼び止めた。
「なんですか?」
「コーヒーカップとは別に行きたい店があるんだけど、いいか? ケーキ屋なんだけど」
「ケーキ……ですか。新しいコーヒーカップを買うから、お茶がしたいということですか?」
ああ、なるほど。それにはそういう意味もあるのか。
なんでケーキ屋? と試神も思ったが、そう考えるとなかなか自然だ。
「実は、花子さんからケーキ買ってきてくれって頼まれてる」
「花子さんから?」
「この店行ってくれって、メモもらってる」
ポケットに入れていた紙をタタンに渡す。
タタンが着替えて戻ってくる前に、花子から渡されたものだ。
「ガトー・デフォンドレモント・デ・プリ」
「知ってる?」
「ええ。高級ケーキ店ですね」
苦笑いでメモを握りつぶす。詳しくは見ていないが店名だけじゃなく、買ってきてほしいケーキ名も書いていたような気がする。
専門店らしいのはなんとなくわかっていたのだが、その前に『高級』がつくとは試神も聞いていない。
「ちなみにメモだけ渡されて、金はもらってない」
「……まあいいでしょう」少し逡巡があったのち、タタンが頷いた。「留守番してもらってますし、私が奢ります。数種類書いてありますので、おそらく試神さんと私の分も含まれているでしょう」
「ちなみにだけどそのケーキ、いくらぐらいになりそうなん? 高級ケーキって、地球でも縁がなくて……円もなくて知らないんだけど」
この店だと、そうですねえ。とタタンが顎に手を当てる。
「1カットでスーツ買えるんじゃないですか?」
「いらない! 俺いらない、そんなケーキ!」
「食べなかったら花子さんの胃に消えるだけですよ」
「高級のレベル超えてるって! 高級小豆とか高級生クリームとか、そういう頭にだけついてる名前だけの『高級』がいいって!」
「私も食べるの久しぶりですねー。値段が値段なだけに、接待のときにも出し辛くてあまり買わないんですよね。もうちょっとお手頃だったらいいんですが、下手に出すと向こうが委縮してしまって」
「ケーキよりもスーツのほうがいい!」
「それは直接花子さんに相談ください」
握りつぶしたメモ用紙をポケットに落とすと、また先頭を歩き出す。今からそのケーキ屋に? とも思ったが、どうやらそれは最後らしい。そんな高級なものを持って買い物をしたくないので安心する。
「まさかとは思いますが、ケーキが食べたいから外に使いをだしたわけじゃないですよね、花子さん」
独り言のようにぼやくが、試神は笑うしかできない。
半分当たって、半分間違っている。
それを知っているのは、試神だけだった。




