第44話 なんで創造根底館で働いてるか知ってる?
「<ダイオード>が知られていることは驚いた……というか、もう知れ渡っちゃってるんだって思ったけど。こっちのほうはまだ知られてないようで安心したよ」
ロロロが防護手袋を外す。じっとりと汗をかいてしまったので、外すと汗が冷えて気持ちがいい。
試神に見せてもなんにもなかった素手だが……見せた途端、男性の呼吸がさらに浅くなり、痙攣を始めた。
「そっちの彼がなんで死んだかだけど、簡単に、魔力がなくなったからだよ。魔力で生きてたんでしょ? じゃあ、その魔力がなくなれば生きれないのは当然。だから、ああなった。そんで、キミが今そんなに苦しんでんのも同じ。魔力がなくなってくから、どんどん苦しくなる」
ロロロがかがむ。
素手がさらに近くなり。「――――ァ”ッ”!」と声にならないうめき声をあげた。
「言っとくけど、あたしが素手を見せて生きていられるのってすごいんだよ? 誇っていい。大抵……というかキミ以外は、こうやって手袋を脱ぐ前に魔力を吸いつくして死んじゃうから。その固有魔法……人生二回分だっけ? そのぐらいの魔力は確かにあったよ。でも、ごめんね、もう空になっちゃう」
固有魔法<ダイオード>。
「一定以上の魔力が体内に貯まらない魔法」
その真の効果。
「体は常に、魔力を一定値まで貯め続ける。つまり、外部から常に魔力を吸収し続ける」
眼鏡の奥から、震える双眸がロロロを見る。
だからどうしたと、訊いている。
「抵抗値ってわかる? 電気回路とかで流れにくさを表すんだけどさ。キミたち、器官に魔力を貯めるでしょ。そのときって、わずかに抵抗があるんだよね。川の流れに岩があって邪魔してる感じ」
でね。
「あたしの<ダイオード>は、抵抗値がゼロなの」
電気回路で二つの回路が並列に接続され、片方の回路の抵抗値がゼロだった場合。
もう片方の回路に電流は流れるか。
答えは――――流れない。
全部、片方の――抵抗のない回路に流れる。
「キミの魔力を貯める器官も一生懸命仕事しようとしてるんだけどさ。その端から全部あたしが奪っていく。奪って放出してまた奪っていく。キミたちの魔力は永遠に貯まらない」
普段は特殊な加工を施された防護手袋によって吸収を抑えているが、その加工というのもまた魔法なのだ。新品でガチガチに保護されたものならまだしも、使い古された手袋ならば、その程度の魔法は少し<ダイオード>の力を上げれば簡単に貫通してしまう。喰らい尽くしてしまう。手袋の魔力ごと、あたり一帯の魔力を吸いつくしてしまう。
「魔力が尽きるって、死んじゃうくらい苦しいんだって。まあ、あたしは知らないんだけどさ」
目がうつろになりつつある男性を見下ろす。魔力だけなので体力は残っているはずなのだが、体を動かすことすらできないようだった。
「異世界人くんは魔法が使えないから平気だったけど、キミたちは辛いよね」
いせかいじんくん? どういう意味だと眼鏡の男性が目で訴えるが、そんなこと答える義理もない。
教えたところで、どうせ死んでしまうのだ。
手を、彼の頭に近づける。
「――――――――ァ」
近づけただけでうめき声をあげる魔力吸収。
それを直接、触れられたりしてしまえば。
「だめだよ、さっさと殺さなきゃ」
なぜ、ロロロの魔力吸収が創造根底館の外に伝わっていないのか。
単純に、それを知ってしまった人は、みな死んでしまうからだ。
知っているのは創造根底館のメンバーだけだが、彼らも情報として知っているだけで実際に見たことはない。
そんな効果があると聞いているだけで、経験はしていない。
素手をみたことあるのは、試神だけだ。
「腕を斬り落としさえすればまだあったかもしれないけど、折ったぐらいで勝った気になるなんて、甘い世界で生きてきたんだね」
……もしかしたら創造根底館より、楽な暮らしができるかもしれない。
そんな考えが少し過ったが、すぐに消えてなくなった。
例え、どんな好条件を出されても、ここを離れることはないだろう。
――なぜなら。
「ねえ、なんで創造根底館で働いてるか知ってる?」
二つの死体に向かって問いかける。
「創造根底館でしか生きられないからだよ」
手袋を拾い、両手にはめる。グーパーを繰り返し、いつも通りの感覚が戻ったことを確認した。
が。
「手袋にかかってた魔法……全部吸っちゃったよね。あーあ、また所長に買ってもらわないと」
見かけ上は変わらないが、この手袋のまま外に行けば、それこそロロロがテロリストになってしまう。出て行ったところで簡単に魔力を吸われつくして死ぬようなメンバーではないと思うが、むしろ魔力吸収を感じて創造根底館から即刻離れると思うが……。
「戻ってきたときに殺されるよねー、きっと」
ごめんで許されるようなことはない。わざとではないと説明しても、そんなもの関係なしに脅威とみなされ排除されるだろう。
いくら創造根底館のメンバーとはいえ、本気を出したロロロの前では魔力を貯めることはできない。それはわかっているが――魔法で殺されない自信はあるが、そんな自信を軽々しく打ち破るメンバーが揃っているのも事実。
まったく……溜息しかでない。
「……異世界人くん追いかけたいけど……」
先に進みたい意思をなんとか堪えて逆方向に足を向ける。また休憩室に戻る。
さっき戻した手袋、箱に戻さずに持ってくればよかった。と、後悔しながら。




