第38話 キミを守れないじゃん
あのあと。
タタンが転生者二人を魔王室送りにしたあと、液体になったそれを最後に片付けたのはロロロだった。
あらかじめ気を利かせたタタンが二人分の液体を魔法で一つにまとめてくれていたのだが、流石に猛毒に『成って』しまったそれを普通に処理することはできなかった。
休憩室の下水に流すこともできたが、二人分ということもあり絶命洞窟に撒いて終わらせた。排水処理にはそれなりの魔法とお金が使われているのだ。
もうどこに撒いたか覚えてないが、試神に言わなくて良かったと思う。
もし知ってしまえば、二度とここには入って来れなくなるだろう。
即死とわかっていないからこそ、二日も足を踏み入れることができたのだ。
「もし毒を受けたらかあ……。考えたことなかったけど、その場合は所長に連絡するよ、異世界人くんを危ない目に合わせたくないし」
「危ない?」
「……そう」
心臓が一瞬跳ねあがる。息を吸う。
「だって、そのときってさ、あたし魔法が使えないんだよ? なにかあってもキミを守れないじゃん」
もし帰宅途中や事務所でその魔法を受けたならまだいい。そのときは<ダイオード>が機能せず、魔王室で死ぬはずだ。そこで死ぬなら、タタンやほかの人が上手いこと処理してくれるはず。
問題は、絶命洞窟内でその魔法を受けてしまった場合。
敵が絶命洞窟に侵入しているのにも関わらず、ロロロが対処できない場合。
試神一人で、対応できるだろうか。
魔法を無効化する魔法は試神には効果がないが。
それは決して事態を好転させる材料とはいえない。
「いや、そのときは俺が守る側だと思うんですが……」
やはり杖を持ってくればよかったかな、と試神がつぶやく。
おそらく『守る』というのを落石や転倒を想定しているのだろう。緊張感のいっさい感じさせない顔で俯く。
「近くにいれば呼ぶかもしれないけど、やっぱり一番は同僚より上長かな。悪いニュースほど、そうしちゃうよ」
まだ納得していない試神より一歩先を歩く。
息を整える。
久しぶりに、じっとりと嫌な汗をかいていた。
手袋の中が濡れて気持ち悪い。外したかったが、隣に試神がいるため……できな……い。
「いや、異世界人くんだからできるか」
「はい?」
「いや、なんでも」
試しに、左手のグローブを外してみる。一瞬ぎょっとした試神が視界の端に映ったが、体調が悪くなったわけではなく、単に驚いただけのようだった。
「ずっとつけてたからさ、汗かいちゃった」
プラプラと手を振る。外気に冷やされた手が気持ちいい。
「通気性悪そうですしね、それ」
「そこが特徴でもあるんだけどね」
試神がなんともなさそうなことを確認し、こっそり息を吐く。
それから、視線をゆっくり動かして周囲を確認した。どこかかからひょっこり採掘ロボットが出て来ないか、十分に確認をする。
「もう片方も外したらどうです?」
促されたわけではないが、もう片方、両手分のグローブを外す。
「……ふう、スッキリした」
掌を見て、握っては開いてを繰り返す。
試神の様子は――特に問題ないようだった。
すでに興味がないのか、絶命洞窟の先をほうを見つめている。もしかしてロボットが隠れていたのかと思ったが、なにもいなかった。
手の汗が乾いたところで、またグローブをはめる。中はまだ湿っぽかったが、今の心境で魔法はあまり使いたくないので仕方ない。
「……またそれ、つけるんですか?」
「持ってても邪魔でしょ」
「じゃあ俺のリュックにいれます? まだまだ余裕ありますし」
「大丈夫、あたしが持ってきたんだもん。あたしがもつよ」
グーパーを繰り返し調子を確かめる。大丈夫、多少ガタが来ているが、壊れてはいない。
「さて、そろそろ『マシュマロ』が見えるころよ」
「え? もうそんな位置にいます?」
「話しながらだからね、わからないかもしれないけど結構歩いているんだよ」
歩くスピードを少しあげる。試神がついてこれないかと思ったが、ちゃんとついてきた。それどころか、先を行こうとすらしている。
なんだかんだ、楽しみだったらしい。
……子どもっぽい、とロロロが思う。
そして。
そんなんで、この仕事に耐えられる?
とも、思う。




