第動話
右手を上げる。
注目を集める。
実際には周りには誰もいないけれど。
実際には見えていないだけだけれど。
周りの至るところにいるのだけれど。
右手を上げたまま。
少し静止し。
十分に注目を集めたあと。
上げた右手を動かし。
動かし。
動かして。
動かしたあと。
それから、下した。
注目がなくなる。
右手に集まった視線が消えて。
さっきまであった気配も消えた。
誰もいない場所に、自分しかいなくなった。
さっきまで仲間がいた場所は、もう自分しか残っていなかった。
体温すら残っていない。
人がいた痕跡は、なにも残してない。
いる前といた後でなにも変わっていない。
小石ひとつ取ってみても、位置が変わっていない。
そういう連中だ。
そういう奴らだ。
そういう仲間だ。
音もなく息を吐く。
周りの空気を一切動かさず、息を吐く。
誰も焦ってはいなかった。
誰も緊張してはいなかった。
普段通りで。
いつもと変わらなかった。
それでいい。
それができるのであるなら、杞憂はひとつ減ったようなものだ。
ほかにいくつも心配はあるが。
不安にまみれているが。
懸念しかないが。
それでも、それを見せることはしない。
焦りも緊張も見せなかった仲間のように。
こちらも平常を気取るだけだ。
なぜなら。
もう動いてしまったのだから。
自分の指示で、動かしてしまったのだから。
これでもう引き返せはしない。
どうなるかはわからない。
どうするかもわからない。
どうして欲しいのかだけは聞いているが。
それを遂行するためにここにいるのだが。
果たしてそれが成功するのかは正直わからない。
音もなく息を吐く。
音もなく息を吐く。
音もなく息を吐く。
目の前にある巨大な工場。
天まで伸びる巨大な煙突。
天の果てまで伸びる白煙。
見ていた時間は、そう長くなかった。
音もなく息を吐き。
音もなく動き出し。
音もなく、創造根底館の中に入った。




