第28話 綺麗でした
ロロロがロボットの後ろに回る。人が歩くよりずっと遅いので、追いつくのは容易だった。
背中のあたりにあるパネルを開け、一番大きなボダンに触れると、ロボットが停止する。だがランプがピカピカと点滅しているところを見ると完全に停止させたわけではなく、一時停止したようだった。
「魔石を見つけると、この子たちは体の中にしまうの」
そういうと、背中のあたりにある凹みに手をかけ、ロボットを観音開きで開けた。
電気回路で埋まっていると思ったロボットの体内に基盤も配線もなにもなく、ただ、上半身の⅓を埋めるほどの鉱石――魔石があった。
魔石はまるで、宝石のようだった。
赤、青、白など色は様々だ。それに大きさも一定ではなく異なっている。大きいものではこぶし大ほどのものもあり、小さいのはそれこそ欠片に等しいものもあった。
「触って……いいですか?」
「もちろん」
中にあるかけらをひとつ、つまむ。
手触りは石だ。とがっているので少し痛かった。手のひらにのせ、観察すると赤い魔石であることがわかった。
「こういうのが絶命洞窟内にあるんですか?」
ロロロが頷く。
試神はそっと魔石をロボットに戻した。ロロロもロボットを閉めると、またロボットが動き出す。トンネルの向こうに消えたころ、ロロロが言った。
「魔石は言ってしまえば魔力の塊でさ」
「はい」
「人が魔法を使うでしょ? その魔法はどうなるかっていうと空気に溶けるのよ。移動魔法でもいいし、炎を出してもいい。とにかく使った魔法はどうなるかっていうと、また魔力に戻るんだよね。異世界人くんに渡したその傘だって魔法だけど、それだって少しずつだけど魔力に戻って空気中に霧散していく。それでその魔力はどうなるかっていうと、空気中にとどまっているわけじゃなくて、絶命洞窟に戻ってくるんだよね」
「戻ってくる?」
「吸収……してるのかな? 魔力が絶命洞窟に帰ってきて、それが集まって結晶化するの。それが魔石。そしてそれを燃やして魔力にする」
「それじゃ……永久機関なんじゃ」
「そうかもね」
後ろからまたロボットがきて、試神たちが端による。さっきと同じ形のロボットだったが、違う個体であろう。同じようなものがいくつもこの中を巡回しているに違いない。
「なんでここなのか、どうして結晶構造をとるのかまだわかってない。地上で魔石になった例はないし、結晶以外……たとえば液体とかになったって報告もない。そもそも猛毒だから研究があまり進まないのもあるんだろうね。わからないことだらけなの」
ロボットが視界の向こうに消える。そのあとを続くようにロロロが歩き出した。
「異世界人くんはさ」
「え?」
「魔石見て、どう思った」
あまり悩まず答えた。
「綺麗でした」
手に持って、眺めて、観察して。
欠片だったが、はっきり、そう思った。
「宝石みたいでした」
ロロロが微笑む。
「そう。それならいいんだ」
Φ
それから、ロロロの案内のもと絶命洞窟を見て回った。
洞窟内はおおむね同じ太さで作られており、途中ひろかったり狭かったりする箇所はない。ロロロの話によると「今掘り進んでるところは狭いけど、なにがあるかわからないし、そんな場所にまだ行かせられないよ」とのことだった。
どうやら絶賛拡張工事中らしい。
「魔石を探して新しい道がばんばんできるから、地図が作れないんだよね。あたしたちが通ってる主要なものだけでいいなら書けるんだけど、それって結局一本道だからさ、地図の意味ないし」
本格的に書くならきっと3D図にしないといけないだろうし、とロロロが人差し指を下に向ける。
「今だって、あたしたちの下を掘り進んでるかもしれないよ?」
「……いきなり地面が抜けたりしないんですか?」
「ちゃんと所長に許可は取りながらやってるし、数センチ下を掘るなんてことはないように考えてるから大丈夫。もしギリギリになったとしても魔法があるからまったく問題ない」
それに、とロロロが握り拳を試神の前に突き出してきた。
「本格的に道を作るならともかく、掘り出すためならこのくらいの大きさのロボットが進むだけだからね。側溝に足が取られるくらいにはなっても、体ごと落ちることはないよ」
そういう彼女はまだ分厚いグローブをつけたままなので、かなりの大きさがあるように思うが、実際はもう少し小さいのだろう。
「ならいいんですが……怪我だけはしたくないんで」
試神が頭の上部に手を置く。なにも見えないが、触れている感触がある。
「その傘ならまだまだ余裕で持つよん? ここは魔力が無限に供給されていくから、そう簡単に消えることない」
「んー、それもまた怖くて……ですね」
こんこんと傘を叩きながら、試神が嘆息する。
「魔力が無限に供給って、かなり危なくないですか?」
「……へえ」
「……なんですか? なにか間違いました?」
「ううん」首を振る。「大正解」
偉いねえ、とロロロが頭に触れようとして、試神の頭の傘を撫でた。
なでなで回避である。
「下手な人がここで魔法を使うとそれこそ魔力を過剰に取り込んで想定以上の魔法になるから、避けたほうがいいね。だから異世界人くんが絶命洞窟で魔法を使う時は必ずあたしが近くにいるときで使用すること。一人で暴走されても助けにいけないからね。でも、だからってなにがなんでも使うなってことでもない。身の危険を感じたら使ってもらってかまわない」
「最初の通路から落ちたときとかですか?」
「そうね。ちょっとだけ飛ぼうとしたら勢いが良すぎて天井に頭ぶつけて頭蓋骨かち割るくらいするかもしれないけど、せいぜいそれくらいよ」
(……それは致命傷ではないだろうか)
「首の骨が無事ならオールOK」
「……例えばそれで全身不随とかになっても治してもらえるんですか?」
「動けなくても魔法があるし大丈夫。それに保険はばっちりおりるから」
全然大丈夫に思えない。それに治すと言ってもらえないのにすごく不安を感じる。




