第27話 ようこそ絶命洞窟へ!
「ロロロさん」
「んー?」
少し声が遠いと思ったら、彼女はだいぶ先にいた。
知らずうちに試神が足を止めており、だいぶ距離が開いてしまったのだ。
試神は距離を詰めつつ、質問する。
「ここ、ほんとに崩れないんですか? 土がむき出しになってますが、天井が崩れてきたりとか」
「ああ、大丈夫。そういう落石とか崩壊はしない。魔法で固めてあるから大丈夫」
そういわれても、不安は不安である。
試神の表情から心情を察したのか、ロロロは続ける。
「ここ、魔王室より魔力が濃い空間なんだよね。だから、強い魔法が永続的に使えるのよ。地上だと定期的に魔法をかけなおす必要があるけど、ここなら平気。ここだから平気。あたしも長いこといるけど、土が落ちてきて体に当たったなんてこと一度もないし、過去にもなかったみたい」
彼女の言い方からして嘘ではない。それはわかる。わかるが。
「乾いた色の土をしているので……不安に思っただけです」
「うーん……じゃあ、こうしよう」
ロロロが試神の前に立ち、そして、頭に手を置いた。
「ろ、ロロロさん!?」
「動かない」
言われて、固まる。
分厚いグローブをつけたまま、ロロロが手を左右にを動かす。
何回か動かす。そのたびに、試神の頭も左右に揺れる。
見えないが、わかる。
頭を撫でられている。
18にもなって。女性に頭を撫でられている。
「あの……」
「なに?」
「すごい……恥ずかしいです」
「直接触れてるわけでもないし、誰も見ちゃいないよ」
――そうなのかもしれないが!
「それに、別にあたしは安心させようと思ってこうしてるわけじゃないよ。魔法をかけてんの」
「魔法……?」
「こんなもんでいいでしょ。グローブ越しだから精度は不安だけど、まあいいか」
頭から手が退いたのを見て、ヘルメットを外してみる。見たところなにも変化がないように見えるが……。
「別になにか生やしたわけじゃないよ」とロロロが笑う。「作ったのか傘かな。頭の上に透明の傘を作ったの。強度はそこらへんのヘルメット以上だから、異世界人くんより大きい岩が降ってきても守ってくれるよ」
なるべく頭を動かさず、目線だけ上に持っていこうとする。それをみて、さらにロロロは笑った。
「大丈夫、宙に浮いてるようにしたから、頭を動かしても動かないよ」
それを聞いて顎をあげる。だが、なにも見えない。ほんとにあるのかと思って手を伸ばすと。
「あ」
なにかに触れた。自分の目線の高さの位置くらいまで、柄のない傘をさしているように半円のなにかがある。しかも相当硬く、押したところで位置がズレることもない。一歩自分が下がると、透明な傘もちゃんと動いた。
「これで安心?」
「あ……ありがとうございます」
頭を下げる。
透明な傘が当たるかと思ったが、大丈夫のようだった。そのあたりは考えているらしい。
「ここにいるぐらいは持つから安心して。もし切れたら言ってくれれば張りなおすし」
「はい」
「まあ、異世界人くんの言う通り舗装できればいいのかもしれないけど、難しいんだよね」
ロロロがあたりを見渡す。
「それは、業者がはいれないから、ですか?」
「そうじゃなくて、魔石が掘れなくなっちゃうんだよ」
魔石。そうだ、絶命洞窟は魔石が掘れる場所だった。
「魔石ってさ、タケノコみたいに地面からひょっこり出てくるから、舗装ができないんだよね」
細い通路の先にはもう一つドアがあり、そこを抜けると、確かにその先は狭いトンネルだった。
狭いと言っても事務所前の廊下ほどあり、大人二人が手を広げて並んでも両壁に触れられないほどの広さがあるのだが、さっきの空間を見ると相当窮屈に感じる。
トンネル内は、やはり土がむき出しになっていた。手で触れるとひんやりと冷たく、軽く指でほじると簡単にボロボロと削ることができた。指を見るとちゃんと土で汚れている。
壁でそうなのだから、おそらく天井も同じようになっているはず。だが、試神の内心は穏やかであった。怪我の不安はまったくない。傘があるのはもちろんだが、ロロロが隣にいてくれるのが相当きいている。
(……今日会った女性に、そこまで信頼を寄せるのもどうかと思うけど)
「本当はここまで来てようやく、『ようこそ絶命洞窟へ!』って感じなんだよね」
ロロロが防護手袋をつけたまま器用に靴ひもを締めなおす。魔法を使っているのもあるのだろうか。試神より何倍も太い指なのにも関わらず、蝶結びをするのは思わず見入ってしまった。
「さて、じゃあ案内開始……と言いたいとこなんだけど、地図みたいなものはないんだよね、ここ」
手を広げながらロロロが言う。手ぶらできていたのでなんとなくそんな気がしており、試神は大して驚かなかった。
「でも迷わないとは思う。基本一本道だしね。入口もここしかないし、外に通じるような出口もないし」
「出口もないんですか?」
「あったらそこから魔力が出ちゃうでしょ」
「あ、そっか」
自分がなんともないので忘れがちだが、ここは猛毒が充満しているのだ。
「もちろんさっきあたしたちがいた事務所に戻れるエレベーターは奥にもあるけど、外に直通つながっているものはない。不便だけど、魔王室とクリーンルームを通らなくちゃいけない仕組みになってる」
「なんか……それを忘れて事務所にテレポートしそうです。そんな魔法使えないですけど」
「軽くテロだね、それ」
(そうならないように気を付けないと)
「……ん?」
そう胸に刻んでいると、後ろから、音が聞こえた。
見ると、トンネルの奥から何かが近づいてきている。
「……あれは、ロボットですか?」
「そう。採掘ロボット」
端によって、と言われ、採掘ロボットに道を譲る。
前を通るロボットは、試神と同じくらいの高さであり、上半身は人型のようなものであったが、腕は4本あった。上部の頭らしきものが細かくあたりを動いているのは振動で揺れているのではなく頭を振っているのだろう。下半身はキャタピラになっており、トンネルを見るとキャタピラが通った跡が無数に残っている。地面だけじゃない。壁や天井にも跡があった。
「魔法で動いてるからね、そりゃあ壁走りもするよ」
「魔石があるからですか?」
「そう。縦横無尽にこの子たちが動き回るから天井にも床にも電灯がつけられないの」
「言われてみれば……」
ここに来る前の空間もそうだったが、ドーム型の天井はライトがひとつもなかった。壁に埋め込まれているわけでもない。
「そういう魔法が使われているんですね?」
「正解。さっきもいったけど、ここは無限に魔法が使える場所だから停電なんて心配はいらないし、電球を変える必要もない。まあ、この子たちは視覚で魔石を探してるわけじゃないから、灯りはあたしたちのためにあるんだけどね」




