第24話 才能?
普段は絶命洞窟に行くには移動魔法を使用するとのことだったが、今日は試神もいるので徒歩での移動になった。魔王室から事務所への移動は厳禁だが、事務所からの移動は問題ないらしい。それでも一応のルールとしていきなり魔王室に行くのではなく、その一つ前のクリーンルームに行くようにしているとのことだった。
「異世界人くんは魔法はからっきし使えないんだっけ?」
二個目のエアシャワーを抜け、クリーンルームに入ったとき、ロロロが訊く。ちなみに、逆から――すなわち絶命洞窟から事務所に向かうときは風を思い切り浴びなくてはいけないのだが、入るときはないもないらしくスムーズに移動できる。
「魔力を貯める器官がないからそうみたいですね。ああでも、昨日もらった杖みたいな道具があれば平気みたいです」
「杖?」
このくらいです、と手で長さを表現する。
「なんかバッテリーみたいに魔力を保持できる道具って言ってましたよ?」
杖の名前とか聞いておけばよかった後悔する。それだけではわからないと思ったのだが、ロロロはなんとなく察したようだった。
「なるほどね。それで、使えたの? 魔法」
「炎は出せましたよ、親指の爪くらいですけど」
「マジ!」
足を止める。「すごいじゃん、才能あるよ」
「才能? なんのですか」
数歩先で止まった試神が振り返る。
「魔法の才能に決まってんじゃん」
「……炎だせただけですけど」
「初めてでできることがすごいの。走り方を教えただけで世界記録を塗り替えたようなもんだよ」
「はあ……そうなんでしょうか」
驚いているようだが、正直、それが本当なのか揶揄っているだけなのかよくわからない。昨日のあれも、試神が言った通り本当に『炎を出しただけ』なので、『魔法を使った』という感覚がいっさいないのだ。
肩を落としたロロロが歩を進める。
「なんだ、じゃああたしよりもすぐ魔法はうまくなるかもね。あたし上手いほうじゃないし……そろそろ本格的に練習とかしないといけないのかなあ」
「へー、ここの魔法には練習とか鍛えるとか、そう言うのがあるんですね」
「あるにはあるけど、うまくなるとは限らないけど」
頭の良さとか、絵描きの腕前とかと同じだね、とロロロが言う。
「ある程度まではみんな行くけど、その先は正直才能がもの言う世界だと思う」
「……なるほど」
「そういえば固有魔法……スキルはこの場合身につくのかな? こればっかりはあたしも経験ないし聞いたことないからわからないけど……固定の魔法具を使えば可能かも。その場合、もっと高級なやつとか、高性能のものが必要だけどね」
「タタンが業務用の奴をくれるとは言ってましたけど」
「期待されてんだ、業務用と言わずプロ用のやつわたせばいいのに」
「業務用とプロ用って、なにが違うんですか?」
「値段」
即答される。
それはそうかもしれないが、だとしたら安いのでいい。
いまのところ魔法をうまくなるつもりなんて、試神にはなかった。
「で、所長がくれた杖は今も持ってるの?」
「いえ、部屋においてきましたけど……」
「うそ! なんで!」
驚かれて、試神もびっくりする。
「そしたらキミ今丸腰じゃん!」
「丸腰って……あれ? もしかして戦う必要があるんですか?」
「いや、ないけどさ」
身構えるが、ロロロはあっさりとそれを否定した。
「魔物もなにも存在できない、死に絶えるから『絶命』洞窟なのであって、あたしたち以外に生きてるものはいないけど……それでも不安じゃない?」
「そう言われても、そんな非日常的な存在、マンガやゲームでしか見たことないので想像できないというか……」
(名前だけは聞いたことあるけど、見たことないから実感が湧かないというか……)
「それなら会った時に驚くかもね」
「驚くと同時に少し喜ぶかと思いますよ。ああ、これが、実物なんだって…………というか、ちょっと待ってください。さらっと流しましたけど魔物がいるんですか? この世界」
タタンは昨日、そんなこと言っていなかったんですけど?
初耳の情報に口をパクパクとさせるが、「いるけど、そう簡単に人前にはでてこないよ」とロロロは軽く流した。
「少なくとも、創造根底館がある関わり禁止地区周辺にはでない」
かかわりきんしちく。
聞きなれない単語に一瞬固まる。
が。
幸いなのか、恐ろしいことに慣れてしまったのか、すぐに漢字に変換することができた。
「ちなみにその『関わり禁止地区』って、タタンが名付けました?」
「よくわかったね、その通り。その前は創造根底館周辺とか言われてたけど、このほうがわかりやすいって言ってね。まあ、十中八九『そっちのほうがかっこいいから』だと思うけど」
「なんでそんな物騒な名前を……」
「怖いところに親しみやすい名前をつけても仕方ないでしょ。ケガじゃすまない場所だし。子どもが怖いもの見たさに探検に来られても困るから、名前で威嚇するのはいい考えだと思うけどね」
一理ある。
確かにそんな名前のところにいきたいとは思わないし、聞くだけで危険だとわかる名前でもある。
それはわかるのだが。
「……本音は?」
「こんな恥ずかしい名前、そう思わなきゃやってられない」
「よかった、安心しました」
自分のセンスが間違っているのかと思って胸をなでおろす。異球ではこういうセンスが普通なのかと思った。
「にしても、ここの名前もそうですけど、そう簡単に名前って付けられるもんなんですか?」
「このあたり一体――関わり禁止地区は創造根底館の持ち物だから、名前は所長がある程度自由に決められるのよ」
もちろん社会的にみてあまりに不適切であったら認められないけど、とロロロが付け足す。
「関わり禁止地区とか、絶命洞窟とかは不適切ではない?」
「許可されたってことはそうなんだろうね。というか、周りを見てもその程度は当たり前のような気もする」
「これが当たり前……。大丈夫なんですか? それ」
「魔力をある程度極めると、そういう思考になるのかも。前の社長も似たような感性だったし」
ますます魔法を使いたくなくなってきた。
「ちなみに一つ前の名前は?」
「果報拡散支援生甲斐所」
流石に一回では漢字変換できない名前だ。
何回かきいて、ようやく文字が浮かぶ。
「本当は名前が変わったからタタンくんのことは『所長』じゃなくて『館長』って呼ばないと行けないんだけどね」
そういえばそうだ。
所長という名前に馴染みがなくて気にしなかった。
「まあ、タタンが気にしてなければいいんじゃないですか?」




