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第22話 ぜつめい……どうくつ?

 苦同が握手を離すと代わりに女性が試神の前に立った。遠目でもわかったが、やはり背の高い女性だ。試神も170近くあるが、女性の方は180近い。


「はじめまして、話は聞いてるよ。異世界人くん」

 と、苦同に負けず劣らずの快活さで女性が笑う。


「名前は聞いてるとは思うけど、ロロロ。自分でも言いにくい名前だと思うし口が回らない人も多いから、『3』つの『ろ』で、『ミロ』って呼ぶ人もいるかな」

 あの人とか、と言って苦同を顎で指す。


「だって、ミロさんの名前で何回舌噛んだかわからんすもん」

「別に怒ってはいないよ、ただ営業なのにそんな滑舌で大丈夫かなって思うだけ」

「このしゃべりと滑舌は俺っちのキャラっす。覚えやすくて印象に残りやすいって好評なんすよ」


「……キャラ付けだったんですか、そのしゃべり方」とタタンが驚いた顔を見せる。

「そうっすよ。でも、昔もこれに近いしゃべり方だったんで、気にする人も、もういないっすかね」

 数年かけてのキャラチェンっす、と苦同が腰に手を当てる。


「ミロさんと初めて会ったときは、もうこのキャラは完成してたっすね」

「じゃあ、ここにいる人、みんな昔の姿知らないじゃん」

 ね、気さくに話しかけてくるロロロに対し、試神は曖昧に笑うことしか返せない。さっきの三人の会話も、試神はロロロのことをなんて呼ぼうか考えるのに必死であまりよく聞いていなかった。初対面の女性に対しいきなりあだ名で呼ぶなど、試神にはできない。

「えっと、これからよろしくお願いします。ロロロさん」

「そうだね、長い付き合いになるかもしれないし、こちらこそよろしく」


 握手を求められ、慌てて返す。苦同は素手だったが、ロロロは分厚い手袋をしていた。防護手袋、というのだろうか。その上から握手をしているので、手を握っている感じがしない。

 向こうも向こうでちゃんと握る動作ができないのか、しっかりと握手を交わす前に手を離してしまった。


「で、所長。あたしは今日は異世界人くんを案内すればいいの?」

「どうしましょうかねー」

 語尾を伸ばしつつ、タタンが首を傾げる。

「ロロロさん。仕事、あります?」

「あるにはあるよ。いつも通りの通常作業が」

「それだとただの見学になりそうなんですよね」

 いいんじゃないすか、と言ったのは苦同だった。


「見たことないんすよね? 絶命洞窟」


「ぜつめい……どうくつ?」

 思わず復唱してしまう。なんだその物騒な名前は。


「ああ、そういえばまだ言ってませんでしたね。昨日少し話した魔石が採れる場所であり試神さんが働くであろう場所の名前ですよ。生物が入ればみんな死んでしまうので、絶命洞窟。行けばわかると思いますが、地下を掘り進んで広げているので見た目も洞窟そのものなんですよ」

「………………」

「ああ、安心して」とロロロが言った。「まんま洞窟だけど崩れたり酸素不足で窒息とかはないから。絶対ないから。ありえないから。そのあたりは魔法でコントロールしてるから平気」


 そうは言っても、魔法の力をどの程度信じていいのかわからない試神は安心できない。

 だが、ロロロの手前、頷いておくことにした。



「灯りも十分だから大丈夫だと思うけど……ああ、閉所恐怖症だと厳しいかな? 異世界人くんは大丈夫?」

「大丈夫だと思います。今まで狭いところでパニックになったことはありません」

「ならよかった。でも気分が悪くなったら言ってね。すぐに魔法で移動させるから」

 その場合は魔王室に送ってくださいね、とタタンが釘を刺す。「いきなり事務所に送るのだけはやめてくださいよ」

「わかってる、そんなへまはしない。というか、絶命洞窟からの移動魔法ってガチガチに制限かかってるんでしょ? あたし程度の魔法の腕前じゃ絶対にこっちに送れないって」

「ならいいんですけど」

 タタンが嘆息し、苦同が苦笑いする。


「そういえば、ロロロさんはどうしてその魔王室でも平気なんですか? 俺は魔力を貯める器官がないからってことですけど、ロロロさんは違うんですよね」

「ああ、それはあたしの固有魔法……異世界人くん的には、スキルって言ったほうがわかりやすいかな? なんにせよ、それのおかげだよ」

 スキル、と繰り返す。どうもまだその単語が、頭の中でうまく結びつかない。


「ええと、それはロロロさんが使える特別な魔法ってことであってます?」

「そう、その通り」

 ロロロの視線がタタンに向く。どの程度まで話しているのか目で確認しているようだった。

「試神さんには固有魔法の名前で一応説明はしてますね。ですが、当然ロロロさんの固有魔法については話してませんし、そもそも固有魔法についてもあまり詳しく教えていません」


「そういえば、所長はスキルって名前が嫌いだったね」

「嫌いではないですよ、私が使わないだけで」

 まあいいや、とロロロが試神に向きなおる。


「あたしの固有魔法は<ダイオード>。といっても、目に見えるものじゃないから『これだ』って見せることはできないんだけどね。発動だけで言えば常時発動してて、今も使ってる状態なんだけどさ。簡単に言えば、あたしの魔法は『貯められる魔力の上限が決まってる魔法』なんだよ。一定以上は貯められないって言ったほうがわかりやすいかな」

「……一定以上、貯められない」

「ここ以外でいったいなんの役に立つ魔法って感じだよね」

 出てきた言葉とは違い、自嘲の一切感じさせない笑顔を見せる。


「どんなに魔力を吸収してもあたしの魔力の上限は決まってて、それ以上になると勝手に外に逃がしちゃうの。だから魔力が濃い魔王室でも絶命洞窟でもパンクしないで生きていられる」

「こちらとしては大変ありがたい魔法なんですよ。ロロロさん以外、そんな魔法を使える人はいないので、替えが利かないんです」

「……なるほど」

 ロロロの話をきいて、「それはほんとに魔法なのか?」と思ったが、タタンも同意しているのでそういう魔法なのだろう。試神の感覚では『そういう器官がない』と同様に『そういう機能を持った器官』がある、と分類したほうがいい気もするが。

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