第20話 向こうは今、どうなっているのだろう
目が覚めると、午前三時だった。
時計がないと思っていたら、ベッドわきに小さなデジタル時計が埋め込まれていたのだ。窓がないので外は見えないが、まだ日が昇る前だろう。
「……ちょっと、すっきりしたかな」
眠気が抜け、体も軽くなっている。どうせならこのまま眠ってもよかったのだが。
「制服のままは、やだなあ。皴になる」
すでに朝と呼んでもいい時間ではあるのだが、このままスラックスにワイシャツで寝るのは息苦しい。だが、着替えはあっただろうか。
バスルームを見に行ってみようかとベッドからおりる。と、テーブルの上、紙袋が増えているのに気が付いた。帰り際、タタンから渡されたほかに3つ、増えている。
なんだろうと覗くと、中には新品の下着とタオル。それから歯ブラシなどの日用品が入っていた。
いつの間に。紙袋を退かすと、メモ用紙が一枚、置いてあった。
『ノックをしても反応がなかったので、中に置いておきます。適当に選びましたので趣味が違うかもしれませんが、つなぎとしてお使いください。こちらは支給ですので、お金はいりません』
これはありがたい、遠慮なく使わせてもらおうと思い裏を見ると、そこにも手書きのメモがあった。
『魔法で移動させたので、部屋には入っていません。念のため』
(……別に見られて困るものはないのだが)
「こっちもプライバシーとかいろいろあるのかね」
肌着と一緒に入っていたパジャマなどを持ってバスルームに向かう。
ありがたいことにユニットバスではなかった。浴槽もあったが、今からお湯をためる気にもなれずシャワーだけ浴びる。目がさらに冴えた気がするが、だとすればこのまま起きていればいい。仮眠など含めれば結構な睡眠時間になっているはずだ。
問題はどう時間を潰すかだが。
「……携帯は、ないもんなあ」
テレビもないし、読み物もなかった気がする。さすがに雑誌や漫画といったものも紙袋の中にはなかった。
「漫画とか、そういう似たようなのはあるんだろうか」
なかったら、地球から持ってこれるのだろうか。
そう考えたとき初めて『あれ、そういえば』と気が付いた。
もしかしたら、地球に戻れるのだろうか。
「………………」
向こうは今、どうなっているのだろう。
神羅 試神という人間が消え、混乱しているだろうか。
行方不明者として捜索願が出されているだろうか。
タタンの話では地球を監視しているわけではないとのことなので、調べることはできないだろう。
……いや、もしかしたら、魔法なら。
「もし調べられたら……」
もし試神の両親が心配していることを知ってしまったら。
もし、戻れるがどうするといわれたら、そのときは。
「戻らなきゃ、いけないんだろうなあ」
他人事のようにつぶやく。
それがきっと、当たり前の行動なのだろう。
「……タタンがこのことを聞かなかったのは、わざとだろうな」
まったく、その心遣いに頭があがらない。
体を拭き、肌着に袖を通す。歯を磨くとなんとなく眠る気分になってきた。
ベッドに潜り込んだところで。
「……そういえば、目覚まし」
どうやって起きようか、と思う。ベッド脇の時計は操作ボタンらしきものはなく、アラーム機能は期待できなさそうだった。
「まさか」
タタンが送ってくれた紙袋を探す。すると、奥の方に時計がひとつ、入っていた。
「……ほんと、準備がいいこと」
説明書はないが、操作方法はなんとなくわかる。
アラームをセットし、ベッドに潜る。
地下にあるため電気を消すと真っ暗になるため、電気はつけたまま横になった。
久しぶりに、ゆっくり眠れたような気がした。
―― 第二章 完 ――




