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第17話 誰でも使うことはできますよ

「転生ってさ」

 どんぶりを半分ほど食べたとき、試神が口を開く。


「さっきの口調だと特別なもんじゃなくて、普通にあるもんなのか? 俺を召喚した……隊? は大人数やってたみたいだが……それも日常的に行うもんなのか?」

「あれは特別な例だと思ってください。普通はもっと慎重にやります」

 タタンが苦笑いを浮かべる。


「ちなみに、試神さんを召喚した部隊の名前は『高級高度行動隊』と言います。どこかに雇われているのではなくフリーの戦闘部隊という感じですね。傭兵のちょっと頼りないバージョンでしょうか。それなりに数は多いようですが、戦力としてはあまり価値はないかと」


「調べてくれたのか?」

「隊の名前はここに来た方から聞きました。……なぜかわかりませんが、勝手にべらべらしゃべってくれたので」

「きっとそれくらいしか会話の種がなかったんだよ」


 もちろんそんなわけはなく、情報を教えれば恩赦があるかもとの淡い期待のもとだったが、タタンからしてみれば制服からある程度予想はつくため大した価値にならない。もともと死ぬために送られた連中だ。重要な情報なんてなにも持っていないだろうし、教えられている中には嘘も混じっているはずなので聞くだけ無駄と思い、拷問すらしていない。

 手早くバラバラにしてグチャグチャにしただけだ。

 ()()()()()()()()丁寧に殺しただけだ。


「転生や召喚はめったに行われませんが、異世界に召喚するという技術に限っていえば、それほど珍しいものではないですよ」

 すでに食べ終え、コーヒーを飲んでいたタタンが答える。


 同じ量あったはずなのに、試神が半分食べる前にはもう食べ終えていた。「早食いは社会人の習得すべき技術のひとつなんです」と言っていたが、それが本当か試神にはわからない。


「特に地球からの転生と召喚は、わりかし確立された技術、システムだと思ってください。先ほど質問がありました世界説明の経験についてですが、答えは『はい、何度かあります』。ですので慣れていたと思われるのでしたら、その経験が生きているのでしょうね」

「……めったにないのにそんな経験があるのか?」と試神が口に出して。「そうか。そういえば、チュートリアルとかやってるもんな」と自己解決した。


「そういえばそうですね。それで慣れたのかもしれません」

 口笛でも吹きそうなほど取ってつけたように言って。

「転生や召喚の魔法は、ある程度の領域まで極めれば誰でも使うことはできますよ」

 と、タタンが続けた。

「異球と地球で言葉も通じますし、表と裏の関係上呼びやすいというのがあるのでしょう。必要であれば――まあ必要であるから転生召喚を行うのですが――地球の方にない特徴の方が欲しければ地球以外からの異世界から呼ぶこともあります」


「地球以外の異世界?」

「あってもおかしくないでしょう?」

 タタンは笑い、コーヒーをすする。

 下唇についたコーヒーを舌でぬぐったあと、タタンは続けた。


「もしかしたらどこかで転生者に会うかもしれませんが、あまりないと思ってください。出会えたらラッキーですよ」

「別にラッキーでもなんでもないよ」

 強がりでもなんでもなく試神はそう言って、どんぶりをかきこんだ。


「試神さんは、転生者があまりお好きではありませんか?」

「…………」

「いえ、あからさまに不機嫌になったので」


 試神がスプーンを止め、「悪い」と謝った。「そんなつもりはなかったんだけどな」

「別に人の好みに口を出すつもりはありませんよ。私もあまり好きではないので」

 最後の言葉が本心なのか単なる相槌のようなものなのかわからない。どんぶりで視界を遮られている試神からはタタンの顔が見えなかったこともある。

 それに、そこをあまり深く掘り下げたくもない。


「……まあ、そうなんだよな」

 だから、勝手に話しを続けた。


「どうも転生っていうのは転生された側のことを気にして、あんまいい気になれない。転生するほうもされるほうも、いいことなんて多分ひとつもないと思うんだ。そこにメリットがあったとしても、デメリットが少なかったとしても、思うだけで、願うだけで、叶えようと努力するだけで――そこで終わらせるべきだと俺は思うんだよな。過去の自分があるのに、それを全部捨てて新しい体に入って生きるのは残酷だよ。転生前と転生後の、二つの記憶が残っている分、よりそう思う。前の体を塗りつぶして、書き替えて、置き換えて、組み替えてまで生きたい人生なんて、ないと思うんだよな。それなのに、その高級高度なんちゃら隊って奴は嬉しそうにしてたからさ。信じられなかった。ほかの転生者もそうなのかと思うだけで、気分が悪くなる。そういう奴らに会いたいとは思わん」

「了解です。なら、これから転生者の話題は避けるようにしましょうか」

「うーん……」

 そうしてもらえるのはありがたい話ではあるのだが。

「そこまでされると逆に気にするんだけど」

「じゃあ、私にどうしろというんですか……」


 肉味噌炒めを数口食べたのち、また試神が口を開く。

「転生して喜んでた奴らさ、みんな魔法が使えるって言われてはしゃいでたんだ」

 ちらっとタタンの方を見る。

「魔法ってそんないいもんかね」


「私は生まれたときから魔法がある環境でしたので、よくわかりませんね」

 突然できたものならともかく。

 徐々に発展してきたものならともかく。

 最初からそこにあったのだから、有難みもなにもない。


「試神さんも魔法を使ってみたいですか?」

「俺は使えないんだろ?」

「方法はありますよ」

 さらりと言われる。


「……俺は魔法が使えないんじゃなかったのか?」

「もちろん、今のままでは無理です」

 ちょっと待っていてください、と言ってタタンは立ち上がる。


 少しして、部屋の奥から杖を一本、持ってきた。

 親指ほどの太さの杖だった。長さはひじから指先ほど。見た目は木の枝そのものだったが、わざわざタタンが持ってきたものだ。そんなわけない。


「試神さんが魔法を使えないのは、先天的に、魔力を貯める器官をもっていないからです」

 では、簡単な話し。


「魔力を貯める器官が体の中に無ければ、外に魔力を貯めることができる道具を持てばいいんです。その杖は魔力を少し保持できるので、それを代わりにすれば魔法は使えますよ」


 杖を受け取る。手触りも木の枝そのものだ。林の中に落としたら、まぎれてわからなくなりそうな気がする。

「そんな便利な道具があるのか?」


「あるにはありますが、あまり使いませんね。ワケあって貯められる魔力が少ない人とか、魔力の少ない地域にいく人が予備バッテリー代わりに持っていくぐらいでしょうか」

「貯められる魔力はどのくらいなんだ?」


「これは少ないですよ。玩具みたいなものなので。人が貯められるのを100とすれば5とか10程度じゃないでしょうか? ですが、練習で使うには十分だと思いますよ」

 杖を二、三回振ってみる。細さの割にそれなりの硬さはあるようでしなりはしなかった。かといって端をもって曲げたりは怖くてできない。

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