第16話 魔力を貯める器官
続いては魔法のことですかね。
ですが、このあたりについては説明不要……というより私自身説明できる自信がないんですよね。魔力という大元があって、それを使用して魔法という力を使用しているのですがそれ以外に説明のしようがないというのが本音です。まあ大半の人が使える技術ぐらいに思ってくださればいいです。
ほら、体力ってあるじゃないですか。それは大半の人が自由に使えますが、それをどう使うのかはその人次第、みたいな感じです。
魔法自体はありふれた技術なので珍しいものではないですが、それをある程度極めると独自性がでてきます。ありていに言うと固有魔法ですね。それ自体がその人の名前の代わりになっている場合もありますので、『魔名』と呼ぶ人もいます。スキルなんて言い方をする人もいますが、私はその言い方は好きではありません。魔法は魔法だろうと。なんでわざわざ固有魔法やら魔名やら言い換える必要があるのかと思いますね。
閑話休題。
魔法を使うには当然魔力が必要で、その魔力は試神さんも見てもらったとおり、創造根底館の地下で精錬されています。原料は魔石と呼ばれる鉱石で、創造根底館の地下で発掘されるそれを加工することで魔力にしています。当然魔石も猛毒ですので、普通の人には扱えません。
創造根底館がここにあるのも、その魔石が多く採れる場所を選んだからなんですよね。
……はい? いえいえ、違いますよ。試神さんはそこで採掘のお仕事をしていただくのではありません。それはほぼ自動化されています。人のではなく、魔法で制御されたロボットですね。24時間年中無休で働いてくれるので、試神さんがしていただくことと言えばそのロボットが故障していないか見て回るほうではないでしょうか。ですが、もし故障していても修理しようとは思わず、こちらに持ってきていただければ修理の手配をしますので電気の知識も不要です。……ああ、壊れてるかの確認のため一度機器の再起動はして欲しいので電源の場所と操作は覚えてほしいですがそれくらいです。
……ああ、仕事は一人ではないですよ。そういえば、言い忘れてましたね。地下で働くのは試神さんだけではなく、ロロロさんという女性のかたと一緒です。まずはその方の指導の元、仕事のやり方を覚えていただければと思います。その方は試神さんのような地球の方ではなく異球生まれ異球育ちですが、その方の魔法……固有魔法によって働けるんですよね。珍しいのでその方一人しか働き手が見つからず困っていました。明日、時間があれば紹介しますよ。
あとは……。
え? 魔力を貯める器官……についてですか?
うーん……どうと言われましても、臓器のひとつと思ってくださって構いません。そこに魔力を一度ため、それを使用することで魔法を使うことができます。……なんですか? 貯める必要性? 空気中に魔力があれば直接使えばいい? なるほど、よく気づきますね。その通りはその通りなんですが、空気中には知っての通り魔力のほか、酸素や埃といった不純物が含まれていますし、なにより濃度が高くないですからね。使うには使えますが十分な力は発揮できないでしょう。酸素が薄いと体だって満足に動かせないでしょう? それと同じです。生まれつきのものなので鍛えてどうにかなるものでもないしですし。
――さて、試神さん。
「ん?」
突然名前を呼ばれ、顔を上げる。話しを聞くのに夢中でずっと前だけ向いてしまった。はたから見れば虚空を眺める怪しい人だっただろう。
キッチンから上半身を覗かせたタタンが手を広げる。
「食事の用意ができましたが、お腹の具合はどうですか?」
自然とお腹のあたりに手が伸びた。
気が付けばあたりにいい匂いが漂っており、知らないうちに影響されたのか、少し空腹を感じていた。
そんな表情を見て察したのか。
「では、一緒に食べましょうか」
ちょうどよかったです、とタタンが続ける。
「実は二人分よそってしまって、後で食べると言われたらどうしようかと思っていたところです」
Φ
でてきたのは肉味噌炒め丼だった。
どんぶりにご飯と、茶色い炒め物が乗っている。匂いでそれが味噌であることはなんとなくわかったのだが、何の肉で、野菜もなにが使われているのかはわからない。葉物と、根菜らしきもの、そしてキノコが見えるが、普段見ているものとは微妙に違うように見えた。
食材の形まで地球と一緒、とはならないのかもしれない。
「箸休めとしてお漬物もありますので、嫌いでなければどうぞ」といって二人の中心に小鉢まで置いてくれる。
「もし私が料理上手でしたら小鉢を複数出したり汁物を出したりするのですが、あいにくなにもなく、これだけで許してください」
「十分だよ」
「男の手料理らしくおおざっぱな味付けですが、量だけはたっぷりありますので、おかわりが必要でしたらいってください。ご飯もありますから」
ありがとう、とお礼をかえすが、必要ないだろうなと思う。出された丼でさえ結構な量だ。それに空腹というわけでもない。
それよりも気になったのは。
「……タタンって和食……というか日本が好きなの?」
「はい?」
「多分この調味料、味噌だよな? それに漬物とか。あとはあの和室もそうだし」
「好きというより、ここの文化と試神さんがおっしゃる『にほん』という場所の文化が近いのだと思いますよ」
そういえば、『にほんご』すらも知らなかったことを思い出す。
「おそらくここと、試神さんが住まわれていた場所が近いんでしょうね。だから似たような文化を歩んできたんでしょう。調味料や食材だって、同じ気候だから似たようなものが発展していくんでしょうし」
「俺としてはありがたいんだけどね。食べられればとりあえず生きていける」
異世界にきて、見ず知らずのものを食べろを言われないだけマシだ。
コーヒーにせよ味噌にせよ、見た目だけなら拒否反応を見せてもおかしくない。
「……さっきの異球についても説明だけどさ」
「なにか気になる点が?」
というより、と試神は少し言葉を区切った。
「タタンは何度かこういう経験があったのか? なんというか……説明に慣れがあった」
淀みないというのはもちろんなのだが、話すときになにを言えばいいのかわかっているような気がした。
本当にチュートリアルを行っているような、それこそCPUやナレーションが言うべきセリフを、タタンが言っているような気がした。
「普通、『私の世界』について話す機会なんてないだろう。誰に説明するっていうんだ。同じ世界に住んでるのに、わざわざ世界説明なんてするわけがない」
「異世界転生者とでも対面しなければ、確かに機会はないかもしれませんね」
軽く笑う。それから、冷めないうちに食べましょうか、とタタンに促された。
言われるがまま、スプーンを持つ。
「いただきます」
タタンが言って。
「いただきます」
試神も手を合わせた。
味付けは見た目通り、そして匂い通り味噌だった。慣れた、懐かしい味だった。
けっこう、味は濃かった。




