第146話 バッター大きく振りかぶって
わざと攻撃させ、それを査定させて金額を見る。
簡単に言ってしまえば、墓蒔の作戦はそれだった。
だが。
「それくらい、僕も考えつきましたよ」
なにせ自分の固有魔法なのだ。
墓蒔より詳しいのは当然である。
「ですが、攻撃の威力で査定する以上、金額に差が出ます。正直、それだけで本体を判断するのはかなり難しいですよ」
偽物のクレイマンは側だけで、本物はおそらく中身が詰まっている。そんな状態で攻撃しようとすれば、威力に差がでるだろう。
だが、それだけで本体を見極めるのはおそらくできない。
「相手がどんな攻撃をするかわかりませんし、査定結果は刻一刻と変わっていきます。最初は殴ろうとしていても、途中から蹴る攻撃に変わったとすれば、それだけでだいぶ差がでますよ」
同じ『殴る』動作にしても、まったく同じ動作で殴るなんてことはできないだろう。そうなるとどうしても金額はばらけてしまい、判断ができなくなる。確かに質量が多い分、ほかのクレイマンより査定金額は大きくなるだろうが。
「刻々と変わっていく中で、一番大きな金額のクレイマンを見つけようだなんて――」
「バカ。違えよ」
「……は?」
「探すのは、その逆だ。そんで、攻撃の威力で査定すんじゃねえ。攻撃しようとする『敵意』を査定しろ」
――本体なら、周りを操るのに必死で、こっちを攻撃する意思はどうしても弱くなるだろうからな。
そして、それは墓蒔の言ったとおりだった。
査定の結果。
一体だけ、極端に値が低い個体があった。
それに、目印をつけたというわけである。
「<ラストワン>が使えたら、楽なんだけどなあ」
近くにいた数体をさらに薙ぎ払い、墓蒔が本体に駆け寄っていく。
殴打王で魔力の抜けた泥。その上を進むようにしているので、下から足を取られるということはなかった。それでもだいぶ進みにくく、目印がついたクレイマンの前には、まだ十体近い『偽物』がいるのを考えるともう少し時間がかかりそうでもある。
だが、ここでもたもたしていたら試神の魔法が切れてしまう。それに、クレイマン自身も目印が付くことを嫌い、弾丸をはがそうとするだろう。
そうなると、また紛れてわからなくなってしまう。
「こんな泥臭い役割、俺様のキャラじゃねえんだけど――なッ!」
力任せに目の前のクレイマンを殴って壊す。
殴りきれなかった何体かは、次の瞬間には体が吹き飛んでいた。
ユミズが撃ったのだ。
「いいのかよ、金が傷つくぜ」
「そのクレイマンの体を査定した結果、安いことがわかってます。おそらく、お金は入ってません」
それなら全部撃ちぬいてくれと思うが、『おそらく』といっている辺り金額がまちまちなのだろう。少量入っているなどしているのかもしれない。
ユミズはユミズで試神を守ることを優先するのだから、こっちに少し撃ってくれただけでもありがたいのかもしれなかった。
「――うっしゃ! あとちょっと!」
殴打王を振り回し、とうとう目印がついた固体が見えた。
あとは殴るだけ。
そう思った矢先。
「……――墓蒔さん、危ない!」
ユミズが叫ぶのが聞こえた。
「――んあ?」
危ないって、なにが?
足元には注意を払っていた。だから殴打王で殴ったあとの泥しか踏んでいなかったし、少し経ったあとの泥はまた魔力が戻っている可能性もあるから踏まないよう避けていた。
左右も注意を払っていた。殴打王を振り回し、近寄るものは見境なく壊していった。
抜けていたのは、頭上だった。
注意を怠っていた天井から、クレイマンが生えてきたのだ。
墓蒔を押さえつけようと、頭を下にして、腕を伸ばしながら生えてくる。
――やべえ! 天井からなにかが降ってくる。
墓蒔もそれに気が付くもそれを――天井から降ってくるクレイマンを見ることができない。ふいうちとはいえ、一回殴ってしまえば終わりなのだが、今はその時間が惜しかった。
目の前で、本体についていた光りが消えたのだ。
試神の魔法の時間切れ。
今目を離すと、上をむいて殴るだけのほんの些細な時間でも、ほかに紛れてわからなくなってしまう。
異物で対処するか? にしてもなにを使えば。
殴打王だけで対処しようとしていた自分に臍を噛む。もしクレイマンに掴まれても、少しくらいなら動けるはず。だとしたらその間に仕留められるだろうか。そんなことを思いながらそれでも本体に向かって進んでいくと――。
べしゃ、っと音とともに、上から泥が降ってきた。
(くだけた? クレイマンが?)
ユミズの撃った弾丸だろうか。しかし発砲音はしなかった。
とすると。
墓蒔がわずかに視線を横にずらす。
クレイマンを視界に外さない程度にずらしたそこに。
腕を振り切った、試神の姿が見えた。
なにかを投げたあとのように見える。
試神が持っていたもので、クレイマンを砕けるようなものと言えば――
「『ハクアイ』か」
墓蒔の後ろで、なにかが泥に落ちた音がした。おそらく『ハクアイ』が落ちたのだろう。しかし、それを見るわけにはいかない。
こっちはやらなければいけないことがあるのだから。
「うはははは! いいねえ、やっと面白くなってきた!」
殴打王を振りかざし、本体周りにいた偽物を薙ぎ払う。
正直な話し、敵意がないからといってこいつが本体である確証はない。ユミズは本体に多少魔力を感じると言っていたが、魔法が不得意な墓蒔はそれがわからなかった。
こいつも偽物の可能性も、もちろんある。
だが。
こいつが、本物であると謎めいた確信があった。
それはきっと、墓蒔だけではなく試神もユミズも同じだっただろう。
「即席のパーティーにしては、なかなかのチームワークなんじゃねえの!」
墓蒔がクレイマンの前で振りかぶる。うっかり敵の近くの泥を――殴打王で殴っていない魔力が残ったままの泥を踏んだため、足が固定された感覚があったが。
そんなもの、今更どうでもよかった。
「バッター大きく振りかぶって――」
ここまでくれば、もう避けることはできない。
「――打ちました!」
殴打王。
グリンとは、ニヤリと笑うという意味がある。
墓蒔は、その言葉通り。
口元に大きな笑みを浮かべながら、クレイマンの頭部を力任せに振りぬいた。




