第144話 壁から生えてきたんだよ
攻撃を買い取る。
それは言い方を変えれば、お金がある限り攻撃を無効化することができる、ということだ。
自動で発動するものではなく、査定から始める関係上わずかなラグは絶対に起きてしまうため、見ただけで殺すような即死系のものや背後からなど死角からの攻撃に対しては弱いという弱点はあるものの、ほとんどの事態に対しては対処できる固有魔法であるとユミズは考えている。
墓蒔の<ラストワン>ほど完全なものではないが、簡易的な無敵を手に入れたようなものだ。
相手は攻撃できず、こちらからは好きなように攻撃できる。
金の力で身を固め、金の力で相手を殲滅できる。
負けようのない、はずだが。
「あとで全額回収できることを前提にするなら、こちらへの攻撃は買い取りますが、先ほどのような銃弾……クレイマンを一掃するようなものは期待しないでくださいね」
「なんでだ? 金がかかるからか?」
それもありますが、とユミズが首を振る。
「下手に攻撃して、お金を傷つけたくありません」
あの泥の塊は財布なんて持っていないだろう。とすれば、あの球体のどこかにお金がそのままの形で埋まっているはず。
それに銃弾の雨を浴びせてしまえば、当然傷つく。もちろん硬貨を傷つけない硬度の弾丸を生成することもできるが、あの中にはお札も含まれているはずなのだ。それを破かない程度となってしまうと、泥すら貫通させることができない。
「ちなみにですが、僕の査定効果は当然味方にも通用します。なので『ラストワン』がクレイアイに対して変な攻撃をするようなら遠慮なく買い取りますので、悪しからず。もちろんその後、どんな手を使ってでも回収しますけどね」
「……っつーことは、やっぱ俺様、<ラストワン>発動できねえじゃねえかよ」
「手加減すればいいんですよ。攻撃するなとは言ってません。その」と言って、墓蒔が持っている殴打王を指す。「バットで一回は殴らないといけないんですから。攻撃を通すため、僕も援護射撃はするつもりですが……本音を言うと攻撃すらしたくないのであまり期待しないでくださいね」
銃弾だけではクレイマンを倒せない。やはり、墓蒔が持っている殴打王で殴らなくてはダメなのだ。
それはわかっている。
わかっているが。
「……それができたら苦労しねえんだけどな」
ふわっと、墓蒔の後ろ髪が揺れた。
敵かと思い身構えるも、それはただの風だった。
ユミズが生んだ風だった。
異物で生んだ煙。あれを退かそうということらしい。
「さて、今度はなにがでるか」
ユミズが言って、風を吹かせる。
煙が流れ、奥に見えたのは、やはりクレイマンだった。
大きさは、最初にみたのと同じくらいだろうか。それが、何十体と乱列している。前は大きかったり小さかったりと様々だったが、今度はどれも同じ大きさをしていた。
そして、その頭は――前はのっぺらぼうのようになにもなかった頭には、大きな単眼があった。胴体の上に目玉が乗っているようにもみえる。
「第一形態プラス第二形態って感じか?」
墓蒔が言って。
「となると、あれ全部が視界を獲得したと思ったほうがいいんですかね」
ユミズが返す。
「まあ、試してみればいいだけなんですが」
言うが早いか、ユミズが一発、銃弾を放つ。
お金を傷つけたくないという理由のため、威力を削った小さい弾丸だ。
弾速も落とした弾だったが、クレイマンは避けることなく弾丸を腹で受け止めると、上半身と下半身に分かれて倒れた。
「……あれ?」
ユミズが呆けると同時。
「ユミズさん! 目を閉じて!」
試神が叫んだ。
目を閉じろ。
試神が言った理由はわからないが、尋ねるより早くぎゅっと目を瞑る。
「かんく!」
瞼の裏で見えたのは、閃光だった。
光を生む魔法を使ったのだろう。なぜと思うより前に、今度は打撃音がする。
自分が殴られたのではない。とすると……?
べしゃりという音に驚いて目を開けると、そこには砕けたクレイマンの半身が落ちていた。
「……神羅さん、これは」
答えたのは墓蒔だった。
「さっき、壁から生えてきたんだよ」
泥のついた殴打王をぬぐい、また前を向く。
ユミズが撃ったと同時、友情崩壊ダンジョンの壁がわずかに震えたのが見えたのだ。それからは墓蒔のいうよう、クレイマンが出てきた、ということである。
「あいつら、壁を移動する力をつけたらしいぞ」
「……なるほど」
そうなると、今こうしている瞬間も安全とは言えない。
しかしそれでもわかったことがある。
「神羅さん、『ラストワン』。今撃ってわかりました。あいつら、中身は空っぽです」
「あ?」
「おそらく側だけなんでしょう。中身は詰まっていません」
さきほどの弾丸はクレイマンの体を二つにしたが、そんなことができるほど威力も貫通力も高めた覚えはない。お金は正確だ。力と違い、うっかり力を込め過ぎたということはないのだから、こちらの想定以上に向こうの体が柔らかいということになる。
「なるほどな。こいつもぺらぺらなのはそういうことか」
墓蒔が殴り落としたクレイマンを足でつつく。近くでみるとわかるが、人型の抜け殻のように中身がぬけている。
おそらく、最初にクレイマンに弾丸の雨を浴びせたときも同じく空っぽだったのだろう。予想以上に安くすむと思ったわけである。
そしてさらにわかったことは。
「ユミズさん、あのクレイマンですが、おそらく視えていません」
「……視えてない?」
「光りをぶつけたとき、まったくひるみませんでした」
目があるから閃光がきくだろうと思い放った光の魔法。
しかし、試神のいうようひるむ様子は全くなかった。
それに、先ほどのユミズの弾丸も。
まったく避けることなく、当たっていた。
「となると、視覚はない……」
「そうじゃなくて、本体一人だけしかもってないってことだろ」
うははと笑い、墓蒔がバットで肩を叩く。
「本体だけが見えてて、ほかのハリボテに指示を出す。単調な動きしかできないのはそういうこったな。そんでおそらく、クレイマンが操れる泥の量も限界がある。中身が詰まってないのはそういう理由じゃね?」
「……なるほど」
「ま、全部憶測だけどな」
ずり、と音がした。
見ると、クレイマンたちが前進を始めている。
先ほどは足を滑らすようにしていたクレイマンだったが、今度はちゃんと、足を上げていた。
進化している。
成長している。
学んでいる。
それも、ものすごい早さで。
「いい加減にしねえと、手が付けらんなくなるな」
墓蒔と、それからユミズが構えなおすがクレイマンの進軍は止まらない。
あのどこかに本体がいるのだろうが、見分けがつかない。




