第140話 湯水の如く
「うはは、なるほど、それがお前の武器なのね。へー、結構サマになってんじゃん」
「それはどうも。ですが、余計なお世話は結構ですよ」
「そういう武器をもってるってことは、援護射撃を期待していいのかね? 背後からあいつ諸共ズドンなんてことは……まあ、あんたならしないか」
墓蒔の言葉に、「さあ」とユミズが答える。
「さっさと地上にあがるためなら、するかもしれませんね」
ユミズが射幸を脇に抱え、塹壕から顔を覗かせる。墓蒔も顔を出すと、「ああ、なるほどな」と声を出した。
先ほど、クレイマンが頭を投げてからこれまで、一切追撃がない。
こちらの会話を待っていた、なんてことはありえないだろう。変身バンクを待っている悪役ではないのだから、そんな理由はない。
追撃してこないのは、それなりに理由があるのだ。
「あちらさんも準備万端なようで」
「……準備?」と、ヘルメットを深く被り直した試神が二人の間から顔を出す。
さっきまで、クレイマンは一体だった。
しかし今は、数えきれないほどのクレイマンが退路を塞ぐようにひしめき合っている。
お互いの体がくっつかないように距離を保ってはいるものの、それでも腕をふりあげただけでもぶつかってしまいそうなほどの間隔しかない。大きさは最初に見たクレイマンと同じくらいだが、個体差があるのだろう、わずかに大きいのや小さいのもいる。
今はどれも微動だにしないが、薄暗い洞窟内なのもあいまってかなり不気味だった。
いったい、何体いるのだろう。数えようとした試神だったが、その脇からどんどん頭が増えていくのが見えて断念する。
「いつの間に増殖……分裂したんでしょうね?」とユミズに訊いた。
「そりゃあ、先ほどの会話の間でしょうね。友情崩壊ダンジョンは洞窟状。周りは土だらけです。自分の体くらい簡単に複製できるでしょう。そしておそらくですが、ある程度は自由に動かせるのかもしれません」
「それは……」
「あれはただのフェイクではなく、攻撃のひとつだということです」
へー、と言いながら墓蒔の体を見る。
泥だらけの体。
先ほどクレイマンの頭を殴ったときに泥に埋もれていたので、汚れていない場所なんてない。それに、フルスイングしたときに爆散したのであちこちにクレイマンの頭を思われる泥が飛び散っている。
……ひょっとして、あれらも動かせたりするのだろうか。
「おそらくそれらは大丈夫と思いますよ」
試神の視線に気が付いたユミズが言った。「『ラストワン』が殴ったとき、魔力が抜けたんでしょう。今のところ、それはただの泥です」
今のところ。
付け足したその言葉の通り、もしクレイマンがまた攻撃でもして魔力が戻れば、それらは動き出すのだろう。
「で? ユミズ。見ての通り、向こうは数だけは多いが、なんか策はあんのか?」
「そんなもの、強行突破に決まっているでしょう」
さも当たり前のように言って、ユミズが塹壕から体を出した。
「さ、もう十分休憩しましたよね」
立ったまま片手で、射幸を構えた。
「走りますよ」
Φ
課金武器シリーズ。
ユミズが今の会社に転職して、最初に担当した商品がそれである。
『課金武器』の名の通り、お金をかければかけるだけ強くなるのが最大の特徴の道具であり、これまで様々な武器、防具が発売されている。
非常にシンプルでわかりやすいのだが、やはり実費がかかるところがネックなのかそこまで人気はない。
ユミズが担当したときもすでに何種類か世に出ていたらしいが、ユミズはそれを知らなかった。あまり売れてなかったため浸透していないのはもちろん、ユミズはユミズで別の武器を使っていたため、ほかの武器に興味がなかった、といってもいいかもしれない。
そんな中で射幸を握ったのは、この課金武器たちををなんとか理解しようとしたからに他ならない。いいところを知ればもっと効率よく売り込めるだろうという考えのもと、これまで一回も触ったことのない長銃タイプの武器を選んだ。
それほどまでに、売り込むのが難しい商品なのである。
そもそも、『お金をかければかけるだけ強くなる』というのが、探索者にアンマッチなのだ。
武器の威力や防具の耐久性が欲しいダンジョン初心者は総じてお金に余裕がなく、逆にお金に少し余裕が出てくるころには愛用の武器がすでに決まっており、今更変更したりしない。それに、そちらの方がお金がかからないのだから、わざわざ変える理由がない。
武器に頼らない探索者に売り込もうにも、彼らはそんなもの端から必要としておらず、固有魔法で十分対処できてしまっていたりする。
ユミズですら、自分の担当でなければ自社製品だとしても使ってみようとは思わなかっただろう。
そして。
使い始めてすぐ、これは想像以上に使い勝手の悪い武器だということがわかった。
そして。
使い始めてすぐ、これは想像以上に自分によく合う武器だということがわかった。
「僕はですね」
と、照準を合わせず、ただ前に銃口を向けてユミズが言った。
「おそらくですが、人並み以上にお金に執着があると思っています。特に家が貧乏だった、とかではないんですがね。小さいころからお金に強い関心があり、手っ取り早く稼げるからという理由で探索者になろうと思ったほどです」
試神と墓蒔からは、ユミズが背を向けているため表情がわからない。
けれど。
「僕はお金が大好きなんですよ。少しずつ増えていく貯金残高を眺めるのも好きですし、小銭を手の中で鳴らしながら歩くのも好きです。そして――」
その声色は、悦に浸っていた。
「貯めて貯めて、一気に使うのも大好きなんですよ」
銃声は一発だけだった。
しかし、飛んでいった弾はひとつではない。
形状的にはマスケット銃に近い射幸。しかし、課金により
撃ちだされた弾は――数えることはもちろん、弾道を目で追うことさえできなかった。
弾の数に加え、弾速も課金によってあげており、その結果撃った瞬間には着弾していたのだ。
ユミズから一番近くいたクレイマンが一体、銃声が消えていくのと同時にバラバラに散っていく。
「なるほど。これくらいでよさそうですね。よかった、案外安くすみそうです」
笑いながらそう言って。
続けて二回、三回と引き金を引いた。
照準を合わせる必要もない。
そのくらい、金をかければ勝手に合わせてくれる。
二体、三体とクレイマンが減っていき。
「それでは、景気よく行きましょう。――湯水の如く」
引き金を引きながら、銃を振るう。
ドガン。
そんな音が一つして。
生み出された無数の弾が、前にいたクレイマンを搔き消していった。
「さて、それでは行きますか」




