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第13話 できればその住まいは

 創造根底館の長であり、この建屋の唯一の役職者であるタタンにとって、業務時間というものはあってないようなものだった。


 本当のことを言ってしまえば今日だって休日の予定だったのだ。けれど転生者の『来客』の予定があったためこうして出てきている。連日の出勤ということもあり、ほかの部下たちは優しさから「出ようか」とも言ってくれたりもしたのだが、断った。休日とはいえタタンに急を要する用事などなかったし、予定らしい予定も特にない。あったとしても平日に十分対応可能なものばかりだ。


 それに、部下に出勤してもらうとなると、必然的に役職の自分も出勤するはめになる。それではあまり意味がない。来客やその他の対応は多少楽になるかもしれないが、来て間もない転生者の対応など一人で事足りる。

 むしろその程度で創造根底館の職員を駆り出しては、過剰戦力になりかねない。

 そういうわけで自分が出るしかなかった、というのが本当のところである。

 

 休日の出勤なので本来ならは休日手当がつくはずだが、役職者のタタンにそんなものなどない。残業代など、そういうものはみんな役職手当に含まれている。

 そんなこともあり、ほかの人に出てもらうより自分が出る方が安上がりということもある。部下の給料はタタンの懐から出ているわけではないのだが、業務時間や残業時間などは厳しくチェックされている。転生者対応による休日出勤でとやかく言われることはないと思うが、なにかあったときに言い訳や資料など作成するのはなかなか面倒だ。内容が内容なだけに、誰かに頼むわけにもいかない。


 損な役割と思うこともないが、もらえるものはもらっているので、まあ折り合いはつく。

 18という年齢でも一切の不自由なく、むしろお金を余らせる生活ができているのもこの役職のおかげであり。

 まだ成人前でありながら親元から離れて一人暮らしができ、仕送りをしながらも6LDKほどの住まいを支給されているのだから、文句は言えない。

 ただまあ……一つ、不満を言ってもいいのであるなら。

 

 できればその住まいは、創造根底館から離れた場所にして欲しかったなあ。


 それくらいである。


 Φ


 学校と同じような音のチャイムがして、タタンと神羅 試神は自然と上を向いた。

「さて、6時ですし、帰りましょうか」

 帰る。その言葉で、先ほど読んだ契約書には9時から18時が就業時間と書かれていたことを思い出す。普段部活をしていた試神には少し早い時間だ。


「事務所の鍵を閉めますので、出てください」

 タタンがデスクに潜り込み、下からカバンを取り出した。ブラウンの小さなそれをポンチョの上から肩にかける。準備はそれだけのようで、特に着替えたりはしないようだった。

「事務所は大体定時にしまりますので、そのつもりで。あまり残業ないんですよ、うち。残業がある場合は最後の人が戸締りを確認しますが、それはそのときに教えます」

 試神を入口のほうに追いやると、魔王室が見えるウィンドウのカーテンを閉めた。自動ではなく、もちろん魔法である。この程度のことでは試神はすでにおどろなくなっており、いちいち確認もしなくなっていた。


 事務所の電気を消し、廊下にでる。窓などない事務所は、それだけで真っ暗になった。

 廊下だけは電気がついているので見えなくはないが、事務所の灯りが消えただけで薄暗く感じてしまう。

「そういえば、コーヒーカップ洗ってないぞ」と試神は言ったが、「明日まとめてあらいますよ」と言ってタタンが自動扉の電源を入れる。

(……誰かの机に置きっぱなしのままだが、いいんだろうか)


 今からでも取りに戻ってもいいのだが、コップを置きっぱなしなのはタタンも知っていることなので大丈夫なのだろう。タタンは扉がしっかりとしまったのを確認したあと、いつの間にか持っていた鍵束からひとつ、鍵を取り出し、施錠する。

「本当でしたらほかの部屋も施錠確認するのですが、今日はここだけしか使ってませんので割愛で」

「玄関は?」

「あそこは基本開けっ放しです」

「……不用心な」

 ははは、とタタンは笑った。

「ここに盗みに入る人なんていませんし、大丈夫ですよ。本当ならこんな鍵さえ要らないくらいなんですから。魔法でどうでもなっちゃいますし」

 確かに、と思う。試神が何度も経験した移動魔法でもあればこんな施錠はいくらあっても意味をなさないだろう。

「警報装置もありませんので、外出したいときはいつでもどうぞ。早朝のランニングでも深夜の買い食いでも、好きな時に出て行ってかまいません。廊下の電気は常夜灯がありますので、真っ暗で足元が見えないということもないと思います」

「警報装置もないのか」

「こんなところに盗みを入る人は以下略、です」


 鍵の束をポケットにしまい、タタンが試神のほうを向く。

「じゃあ、行きましょうか」

「ああ、また明日な」

「はい……って、また明日?」

 試神が手を振るが、タタンはきょとんとした顔を返すばかりだった。

「試神さん、さっそく外に行かれるんですか?」

「いや、部屋に戻るよ。金もないし、夜に知らない町に出ようとはさすがに思わん」

「じゃあ帰りましょうよ」

「あん? そうだよ、だからここでお別れじゃんか」

 話しがかみ合わず眉根を寄せていると、「ああ!」と、タタンが手を打った。

「そうだ、言い忘れてました」

 タタンが人差し指を立て、そして下に向ける。


「私もここに住んでるんです」

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