第幕話 かっこいいでしょう?
「あ、そうだ。なあ、タタン」
握手を終えたあと、試神が言った。
「質問があるんだけどさ」
「業務に対してですか?」
いや、と首を振る。
正直、そこまで考えられるほどまだ思考が整理できていない。
「というか質問……というほどではないんだけど。ちょっと確認したいことがあって……」
「大丈夫ですよ、なんでもきいてください。答えられることなら今答えますし、すぐに回答が難しい質問でしたら、確認ができ次第すぐにお伝えしまう」
「いや、そこまでのことじゃないんだけどさ。契約書に書いてあった『魔王室』とか『創造根底館』って……その……あの……」
タタンが微笑みながら首を傾げる。
「創造根底館はここの名前で、魔王室はここから見える――最初に私が試神さんを飛ばした部屋の名前ですが、それがどうされました?」
「いや……やっぱりそうなんだなあって確認……」
「魔王室を聞いたのは初めてではなく、何回か話題に出たと思いますが」
「漢字を見たのは初めてだったからさ、衝撃を受けたんだよ」
響きからまさかと思ったが。
まさか本当だとは思わなかった。
タタンがここの責任者だと聞いていたのだはっきりと名言するのを避けたのだが、どうやら『衝撃を受ける』を肯定的な意味にとらえたらしく、タタンが今日一番の笑顔を見せる。
「かっこいいでしょう?」
「かっこいい……かなあ?」
「ちなみに魔王室にあるあの魔力が通っているガラス管の名前は『アシタガタリ』と言います」
「アシタガタリ……『明日語り』か。……それならまだなんとか」
「あれは名前が決まっちゃっているので、私が命名できなかったんですよねー。残念。私だったらもっとかっこいい名前をつけたんですが」
「命名……かっこいい……つける?」
なにやらよからぬ単語が聞こえた気がする。
「もし私が付けるとしたら、そうですねえ……『仰天串』とか『要透白煙魔芯柱』とかですかね。横文字を使うとすると『rough・laugh・live』とか韻を踏んでいてかっこいいと思いますが」
「…………なあ」
「なんでしょう? やっぱり試神さんも私が考えたほうがいいと思いますか?」
「ひょっとして、もしかして、可能性を潰すためのひとつとして聞くんだけどさ……創造根底館とか魔王室って名前を決めたのって……」
タタンは笑いながら首を傾げ。
ゆっくりと、けれどしっかりと、手を挙げた。
それを見て。
「……いや、もう、いいや」
試神が溜息を吐くが、タタンにはその理由がわからなかった。
―― 第一章 完 ――




