第131話 かんく
「創造根底館はタダでさえ人の入れ替わりが激しいとこだろ? あいつが死ねばまたすぐ新しい奴が入る。普段通りでいつも通りだ。そいつにまた営業をかけるしかねえな」
「簡単に言わないでくださいよ。ガブリンさんと会うのだって大変だったのに」
「俺様はこの前『アイアンメイド』とあったけどね。よかったら紹介しようか?」
「遠慮します。僕まで敵と思われたらたまったもんじゃありません」
むしろ、あなたの方なんじゃないですか、とユミズが言う。
「なにが?」
「神羅さんが死んで嫌なのは」
墓蒔はきょとんとした顔をして、それから。
「うはは、どーだろーねー」
「なんだかんだ、仲良さそうじゃないですか」
「良くはねえよ。あいつと俺様の関係は『悪友』。深くもなく他人よりちょっと上くらいのどうでもいい関係だ。会ったら挨拶くらいはするけどそれ以上のとこは踏み込まない。どこまでも適当につるんで上辺だけの会話をする。そのくらいの仲だよ」
でもまあ、と墓蒔が歯を見せて笑う。
「あいつがそう簡単に死ぬとは、思えんけどな」
「…………」
「ま、これは俺様の勘だけど」
と、そのとき。
―――かんく。
試神の声がして、二人の前から光りが生まれた。
電球を灯したような、目を細めたくなるくらいの少し強い光。
「おー、できたな」
と、試神が破ったページを振ってみせる。
結局ページそのものを光らせることはせず、最初にユミズが見せたような光りの球を生む魔法にしたらしい。
綿毛のよう、ふわふわと浮いた光りはページの扇ぎを受けて少し上昇し、すぐに消えてしまった。
「なあ、見てたか?」
「見てましたよ。おめでとうございます」
振り返って笑顔を見せる試神に、ユミズが拍手を送る。「一回覚えれば逆上がりのよう、もう何回もできるはずですよ」
「かんく」
試神がもう一回、同じ魔法を使う。
ユミズの言う通り、また綿毛のような光りの球が生まれた。
だが、先ほどのものより少し光りが弱い。やはり試神も強すぎると思い調整したのだろう。その分少しだけ長く存在していた光りの球だったが、もともとの魔力の少なさもあってすぐ消えてしまった。
「これで俺のスキルは二種類になったわけか、成長を感じるなあ」
「成長かどうかはめんどくせえから触れないけどよ。その『かんく』ってなんだ? そんな呪文が地球にはあんのか?」
「んー、知らね」
「はあ?」
「でも、多分地球にはないと思うな。なんか適当に思いついたことを言ってたらできたからさ」
「…………ふーん。適当に言ってたら、ねえ」
ユミズが使ったページを回収しに向かう。
試神がユミズに渡したページは、二枚だった。
「―――うはは」
小さく、笑う。
当然、二人はその笑いに気が付かなかった。
ピリリリリと電子音がなったのは、ユミズが試神から受け取ったページをリュックに戻したときだった。
「……すいません、僕の電話ですね」
ポケットに手を当てたユミズが気まずそうに笑う。
マナーモードしていなかった、もしくは電源を切り忘れたことを悔いているようだったが、試神はそんなこと全く気にしていなかった。
なんなら、試神の携帯も同じようにマナーモードにもしていない。
「会社からですか?」
ユミズはすこし逡巡したようだったが、電話が鳴りやまないので画面を確認する。
一回、頷いた。
「出ても大丈夫ですよ、俺、墓蒔と話してます」
これも少し悩んだように間を置いたあと。
「すいません」と言って、駆け足で離れていく。
友情崩壊ダンジョンに入る前に持っていた光源は墓蒔とユミズ、それぞれが持っているため、離れていくユミズの姿が見えなくなるということはなかった。それなりに響く洞窟内でも聞こえないほどの小声で通話をするユミズの背中を見ながら、その場で立ち止まり墓蒔がくるのを待つ。
「ユミズさん、会社からの電話だってさ。ちょっと待とうか」
「へいへい」
電子音が聞こえていたのだろう。墓蒔がなにも訊かずに同意する。
現状、今のメンバーで満足に魔法が使えるのはユミズだけだ。
彼を残して先に進もうという気持ちは、墓蒔にはなかった。
試神のほうも、ようやく辺りを照らす魔法を使えるようになったばかりである。役に立つことは確かなのだが、墓蒔もユミズも必要としていないのだからあまり意味がない。
(しかも、これで二つ目とか……)
知らず知らずのうちに墓蒔が溜息を吐く。
使える魔法を個数で表現することは好きではないが、しかしこれは仕方ないだろう。あまりに少なすぎる。
地球の人にとって、魔法とはそれなりに興味のあるオモチャではなかったのか。
少なくとも、墓蒔が目にした転生者は目の色を変えて魔法の練習をしていたはずである。
「…………」
「……なんだ、墓蒔?」
ジッと、『ハクアイ』を見ていることに気がついたのだろう、試神が本を後ろに隠す。
「別に盗ろうとか思っちゃいねえよ。あの人形じゃあるまいし、まったく惹かれん」
人形? と試神が少し首を傾ける。
が、すぐに思い出したようだった。
「そういえば、あの人形はどうしたんだ?」
「ちゃんと付けてるよ」
上半身をまくり上げ、後ろを向く。命人形・形身代わりが並ぶ中、一つだけ異様に目立つ人形―――人生において必要な不幸が揺れていた。
「お前それ持ってきてたのかよ」
「だねえ。俺様も汚れるのは嫌だし置いてこようかと思ったんだけど、なんかつけちゃったんだよなあ。腰に人形付けるの慣れちゃったし、その感覚でつけちゃったのかも」
嫌な習慣だな、と試神が苦笑する。
「でも気をつけろよ、それ。俺のときそうだったけど、ちゃんと結んだはずなのに、いつの間にか落ちてるときがあるから」
「なんだそれ、呪いの人形じゃあるまいし」
と言いつつ後ろ手で人生において必要な不幸を引っ張ってみる。しっかりと結ばれたそれは取れる様子はなく、とりあえず安心する。




