第130話 早く死んじゃいそうですねえ、あの人
「ページそのものを光らせる程度でしたら、魔法ではなくそういう機能として付けられますので、必要でしたら行ってくださいね」と、ユミズが言った。「たとえば洞窟内などの暗い状況で、開いたページが読めないということもあるでしょう。なので開いたページが光って、今なんの魔法を使おうとしているかわかるようにするくらいはオプションとして用意しておきます」
今試神が持っているような、なにも書かれていない白紙のページなら加工もなにもしていないので厳しいかもしれないが、パッケージ化した暁にはそのページになにかしら文字や印が書かれていることだろう。
そのとき――加工する段階で、そんな処理をすることはそう難しくない。文字や写真を光らせてもいいし、ページが発光処理をすることも可能だ。その場合は中に貯めてある魔力を使うことになるが、微々たるものなので大した問題ではないだろう。
発光させるにしても、眩しいくらいに光らせてはページが読めなくなるのでほんのりとしたもので十分なはず。
「もちろん、専用にそのページを作ってもいいですけどね。声をトリガーにすることもできるので、もしピッタリの呪文が見つかり、それを発動条件にしたければそのように言ってください」
「声……ですか」
「先ほどから呪文を唱えていましたし、開く動作のほかに声での発動も神羅さんにあっていると思いますね。特定のページのみ声で操作したいなどの要望も実現可能です。辺りを照らす魔法のみ声だけ、とかですね」
確かにそれならいちいち開く手間は省ける。
省けるが……。
「お客様の中には、声で発動させるようにしているところもありますね。楽というのと、セキュリティ面が高いからでしょう。声紋での判別になるので、登録した人以外が魔法を使えなくなります。先ほど神羅さんが『ハクアイ』を渡してましたが、使用者の声が違うので魔法を使うことはできなくなるはずです」
試神が条件に示した「開くだけ」で魔法を使えるというなら、先ほど墓蒔がやってみせたように持ち主が誰でも関係ない。持ち主以外誰にも使わせたくないというなら、そういう機能は必要だろう。
特に、ユミズが対象にしているのは個人ではなく主に企業向けだ。
社員以外使用不可など、そういうところにも気を配らなくてはいけない。
「指紋、静脈認証、網膜認証。他人に使用されたくなければそのようなものも使用できますよ。どうされます?」
「いえ、大丈夫です」
即答、だった。
「誰でも使えるよう―――ページを開くだけで使えるようにしてください」
「……いいんですか?」
「ええ。俺には必要ないんで」
「ほんとにいいのか? もし敵に奪われたりしたら大変じゃね?」
「敵って、誰だよ」試神が溜息を吐く。「そもそも普通に生活してる中で、そんな敵って呼べる奴と出会うことってあるか?」
墓蒔は少し黙り。
「まあ……俺様もある意味『敵』って呼んでもいい立ち位置にいると思うけど」
「お前はどちらかというと『悪友』って感じだろ」
それだけ言うと試神が一人、前を歩き出した。もう話は終わり、ということらしい。
「……創造根底館って、敵だらけじゃないんですか? むしろ平穏という言葉が一番似合わない場所だと思いますが」
こっそりと、ユミズが墓蒔に耳打ちする。
墓蒔は、なんでそんなことを自分に言うのかと言わんばかりにユミズを一瞥したあと。
「さてね。地球で育ったせいか、あいつの頭ン中がお花畑なんだろ。もしくは、『敵』と認識したくないかのどちらかだ」
脳を汚したくない。
病的なまでにそれを守る試神なら、『敵』そのものを無くしてしまう可能性がある。
初対面で殺そうとした墓蒔を赦したように。
受け入れて飲み込んで認めて許容してしまえば。
仲間にしてしまえば、敵ではないのだ。
「……なかなか、変わり者ですねえ、神羅さんは」
「今更気が付いたのか? 話しを聞く限り、あそこ――創造根底館がどういう場所か把握してるかも怪しいな。危険皆無の魔力生産工場と思ってるかもしんねえ。あいつのことだから、わざわざ調べたりしねえだろうし」
「それはないでしょう」とユミズが笑う。「自分が働く場所です。働く前にリサーチはするでしょうし、評判を調べたりもするでしょう」
「そうなんだけどな」
試神の背中を見ながら墓蒔が溜息を吐く。
普通ならそうするが。
それをしそうにないから、わざわざ口にしたのだ。
「殺し合いを正しく認識してるかも怪しいところだな」
「認識とは?」
「殺されれば死ぬ」
魔法をゲームのように認識しているなら特に。
殺されれば死ぬ。
死ねば死ぬ。
死んだらそこまで。
そんな当たり前のことすら、わかってないのかもしれない。
そんな当たり前も、目を閉じて耳を塞いでしまっているのかもしれない。
「ですが、殺すなら目の届かないところで、とか言ってませんでしたか?」
「……やっぱ、きいてたのか」
墓蒔が目を向けるが、ユミズは顔色ひとつ変えない。
そんな会話をしたのは、試神が墓蒔を連れて待ち合わせ場所に来た直後――ユミズに会う前のことだ。
姿を隠していたのかわからないが、はやり遠巻きに観察していたのだろう。もしかしたら、約束の時間までに墓蒔―――『ラストワン』が離れることを思ってのことだったかもしれないが、試神がそれをしなかった、ということだろうか。
「それこそ、あいつの頭の中でどう認識してるのかわからん。地球だって、殺人は普通に起こるもんだろ? けど、それはニュースでみるもんであって、身近で感じるもんじゃない。その延長線って考えるのは、特に異常なことじゃねえだろ。殴り合いのケンカだって珍しいって話しじゃねえか。そんな奴がどうしていきなり命のやりとりなんてもんを想像できるんだ?」
「なるほど……」ユミズが試神に目を向ける。「なんとなく、早く死んじゃいそうですねえ、あの人」
「うはは。嫌か?」
「当たり前でしょう。せっかくものを売るんです。長く使ってほしいじゃないですか」
「創造根底館との縁も切れるかもしんねえしな」
墓蒔が言って。
「…………」
ユミズが黙った。




