第129話 俺様のはデチューン
思い出すためなのか、一人ぶつぶつと試神が独り言を言い始める。
邪魔をしては悪いと思ったのか、隣にいたユミズが歩調を緩め、墓蒔の隣に来た。
「神羅さんって地球の方ですよね。そうなるとやっぱり、魔法は難しいんでしょうか?」
「さてね。俺様は地球人じゃないからわからん。けど、やってできないもんじゃないみたいだし、いずれはできんだろ。お前が自転車みたいっていうように、出来ちまえば楽なんだ。コツを掴むまでが難しい……逆上がりとかピアノを弾くようなもんだろ。俺様、どっちもできないけど」
「僕は逆上がりはできますけどね」
「運動神経があるつもりだが……そう考えると、なんとなく試神の言ってることが理解できる気もすんな。逆上がりのイメージはできるが、体がついていかないって感覚」
「要は力の入れ具合ですからね。体をひきつけてお尻を持ち上げる。口で言ったら簡単ですが、できない人はそこができないのですから、なにも伝わりません」
「俺様も逆上がり用の補助具をつかったことがあるけど、それでできてもダメだったな。お前のいうところの力の入れ具合がわかってないんだろ」
レイ。
試神の声がする。
「……レイって、閃光って意味だったか?」
「主に光りを放つという意味ですね」
しかし当然のように、そこから光りもなにも生まれなかった。
回収しようとユミズが動こうとしたとき、試神が破った一枚をしおりのようにページに挟み、別のページを開いた。そして一枚、ページを破る。
「フラッシュ」
ユミズ反射的に目をそらすも、ページはなにも反応をしなかった。
その隣で。
「……レクトとヴェルソ」
一切目をそらさなかった、墓蒔が言った。
「はい?」
「ユミズは、レクトとヴェルソって知ってるか?」
「そりゃあ、もちろん。あの本を担当してるんです、それくらいの用語、知っていて当然です」
「どういう意味だ?」
ユミズが首を傾げながらも、説明する。
「レクトは、紙葉の表側または右ページですね、ヴェルソはその逆、左側のページのことです。……というか、先ほど『ラストワン』は、そういう意味で神羅さんに訊いたんじゃないんですか?」
――レクトとヴェルソ、どっちの魔法を使えるようにするんだ?
見開きのページを見たとき、墓蒔が訊いたのだ。
意味をユミズに訊いたが、あんな質問、用語を理解していなければできるはずもない。
案の定、墓蒔は「まあな」と言って頷いた。「でもな、俺様、試神が理解してるとは思わなかったんだよ。ユミズは日常的に使ってるだろうけど、普段から使用する言葉でもないし、普通ページの右とか左とかいうだろうしな」
「…………」
「『レク……? お前なに言ってんだ?』って、てっきりそう返ってくるもんだと思ってたんだけどなあ」
だが、実際、試神はそれを訊き返すことなく、逆にユミズに質問をしていた。そして、先程から何度か見せている本を開く仕草。
「あいつが本の形にしたいって言ったのは、単なる思いつきじゃねえんじゃねえかって、思ってんだよ」
「……かもしれませんね。ですが、僕としてはなぜ『ラストワン』も、レクトとかヴェルソを知っているのかも気になるのですが」
「俺様は博識だから」
じゃあ試神もたまたま知っていたということではないか、ユミズが訊こうとして。
「…………」
不毛だと思ってやめた。
「うーん、ダメだなあ。墓蒔」
ジャリと音と立てて試神が振り返る。
「んあ?」
「ちょっとやってみてくれないか?」
「なにを?」
「魔法」
「……魔法?」
俺様が?
自分を指さすと同時に、『ハクアイ』が突きだされる。
止まっている試神に対し二人は歩いているので、墓蒔の胸のあたりに『ハクアイ』がぶつかる形になった。
「なんで俺様なん? 見せてほしいならユミズにやらせろよ」
「それはさっき見せてもらったじゃんか。だからもっとサンプルが欲しいんだよ」
サンプル? 首を傾げると「光りを生むっていろいろイメージがあるし、どんなもんがあるか知っときたい」
「知ってどうすんだよ」
「当然、魔法の参考にするんだよ。魔法はイメージなんだろ? だったら直接みたらより強くイメージできるじゃんか」
あとは、と試神が続ける。
「お前も魔法が使えないっていうから、どんなもんなのかと思って」
「……ははーん、俺様を試そうってのか、お前」
「そんな魂胆はないけどさ。そういえばお前が魔法を使うところ、見てないなって思っただけだよ」
貸せ、と言って『ハクアイ』をひったくる。
「あのな、お前の使えないと俺様の使えないは違うの。俺様のはデチューン、つまり枷であって得手不得手じゃないの」
殴打王を股に挟むと、『ハクアイ』を開く。適当なページを一枚破ると、これ見よがしに試神に見せつけた。
ただの紙だったそれが、徐々に発光していく。
墓蒔が見せたのはユミズのものとは違い、そのページ自体を光らせるものだった。
「な?」
「なるほど。光りの球を作らなくてもいいわけか」
光が――ページそのものが点滅する。「その通り」と言ってるようにも、魔法を自在に使えるとの誇示のどちらにもとれる点滅をしたあと、それはただの紙に戻った。
「なんか魔法っていうより機械的……タブレット端末の懐中電灯モードのような光りかただなあ」
「文句を言うのはまずちゃんと光りを生んでから言おうか。試神くん」
『ハクアイ』を投げて返す。
使用した紙三枚――墓蒔が使ったものと、試神が使用したものはユミズが回収した。
「俺もそっちにしようかなあ。……でも、ページ自体を光らすスキルってあったっけ?」
「『ページよ、光れ』とかでいいんじゃね?」
「なにが?」
「なにがって呪文だよ、呪文」
うーん、と試神が首を傾げる。どうやらお気に召さなかったらしい。
「それだったら別にわざわざ魔法を使わなくても、携帯で十分だしなあ」
「魔法なんてどれもそういうもんだよ。灯りの魔法だって、この前お前が持ってった頭に付けるライトがあれば不要なんだ。本末転倒なこというなよな」
それもそうか、と試神が首を振る。
魔法は便利な道具である。
そんな当たり前のことを忘れていた。




