第128話 ライト
「ユミズ、ほら、教えてやれよ」
「……え? 僕ですか?」
「そうだよ、なに蚊帳の外決め込んでんだよ」
そんなつもりはありませんでしたけどね、といいつつ肩をすくめる。けれど、その顔はどう見ても乗り気ではなさそうだった。名前を呼ばれても頭をかくばかりで、視線を下に向けている。
「こんなかでまともに魔法が使えるのがお前しかいねえんだから仕方ねえじゃん。試神は見ての通りだし、俺様だって普通に使うって感覚がわからんし。『ラストワン』発動時はそんなもん考えることすらないまま魔法が使えるから、イメージもなにもないんだよな」
「そう……言われましてもね」
やや悩んだ末、ユミズが人差し指を立てる。
そこにひとつ、光りの球が生まれた。
親指の爪ほどの大きさの、綿毛のような真っ白のふわふわとした灯り。
それほど強くない光なのだろう。直視しても目が痛くない。
「こんな感じですが、いかがです」
「すいません……もっと詳しく」
「ですよね」
光りの球を握るようにして魔法を消す。
やはりそれほど光量もなかったのだろう。消えたあとでも周りの明るさは変化がなかった。
「誤解しないでほしいのは、別に神羅さんにいじわるしているわけではないということです。魔法は結局のところ勘が全てみたいなものがあるので、うまく説明できないんですよね。灯りが欲しいな、という感覚で魔法を使えば、灯りができる感じです」
「難しい……」
試神が顎に手をあてて少し考える。が、悩んでいても無駄と思ったのだろう。
思えばタタンも、杖を渡したときは魔力の扱い方を教えてはくれたか魔法に関してはあまり教えてくれなかったのだ。
こればかりは自分で慣れるしかない。
片手で本を開くと、おもむろに一枚、ページを破く。
「…………」
だが、なにもでなかった。
「ダメじゃん」墓蒔が言って。
「ダメですね」ユミズが同意する。
「お前は今、なにか魔法を使おうとしたのか?」
「ユミズさんのような灯りを出そうと思ったんだけどな」
イメージだけで魔法を使うのはやはり難しい。
思えば、最初に火を出したときもイメージはできていたのだが実際はうまく行かなかったのだ。
「魔力の操作が難しいんだよな、慣れない」
「それこそ感覚だよ」墓蒔がバットを地面に打ち付ける。「俺様、いちいちそんなとこ気にしてねえし」
「僕も同じですね。魔法を使おうかと思う時、最初に考えるのは魔力というより、やはりどんな魔法にしようかというイメージです」
その考えでいうと、試神にはイメージが足りていないということになる。『ハクアイ』によって破ったページに魔力は絶対あるのだから、それで魔法が使えないのは単純なイメージ不足が原因ということにほかならない。
(……ちょっとショック)
くしゃっとページを握りしめる。
(イメージには自信があったんだけどな)
「自転車を乗るような感覚で、『魔法を使う』という感覚を一回わかってしまえばいいだけなので、練習あるのみですよ。あとは……イメージがつきやすいものでやるしかないですね」
「魔法のイメージって?」
それができないのだから困っている、という視線をユミズに向けると、「そうですね」と彼は指を顎に当てた。
「神羅さんが杖ではなく『ハクアイ』―――本の形をしたものを持つ理由がゲームから来るのでしたら、呪文を唱えてみるというのも手かと思いますね」
「呪文……」
なるほど、と思う。
試神が読む漫画なども、大抵はなにか言葉を発しながら魔法を使っているものだ。もちろん演出的な意味合いがあるのかもしれないが、だとしても漫画のキャラクターになりきるようにすれば、もしかしたらうまくいくかもしれない。
試神がまた一枚、ページを破り。
「ライト」
とりあえずそう言ってみたものの、紙は光らず、ただの紙のままだった。
ただの紙に戻ったそれをユミズが回収する。先ほど試神が握りつぶしたものも一緒にリュックの中にしまった。「先ほども言いましたが、このあたりはもう慣れの領域なので、ひたすら反復練習するしかないですね。幸いにも紙はまだまだ余裕がありますし、別に魔法を使うだけなら『ハクアイ』でなくとも普通の杖でもいいので、存分に試してみてください」
魔法を使うだけなら杖でもいい。
ユミズの言うことはその通りで、反論のしようがないのだが。
杖を持っていても全く魔法を使おうとしなかったのが試神なのだ。
そっかなるほどじゃあ今日からバンバン魔法を使おう、なんてなるわけない。
(……というか、練習とかそういうのがないようにパッケージ化したスキルが欲しかったんだけどなあ)
「つーか、お前さ」墓蒔が『ハクアイ』を指さす。「ダンジョンに入る前に火だしたとき、とくになにも言ってなかったじゃんか。だったら別に呪文とか要らねえんじゃね?」
「まあ……そうなんだけどな。でも俺的には、口に出したほうがいいかもって気がしてる」
「ライトとか?」
思い切りしかめっ面で言われた。
どうやら墓蒔は呪文を言って魔法を使うのはお気に召さないらしい。
「なんていうのかな、方向性はあってると思うんだけど、感覚が違うんだよな。『ライト』だとピンとこなかったって言えばいいのか。ほかのなにかでうまくいくかもしれん。……たとえば」
そしてまた一枚、ページを破る。
「光」
同じ意味だが、言語が違えば。
そう思ったが、やはりダメだった。
「これもだめか。……あとなんかあったけな」
「あとなんかって、そんな呪文の候補があんのか?」
「ゲームや本、漫画に小説。教材となるものはいろいろあるだろ?」




