第127話 どんなイメージとか
「『ハクアイ』に閉じられているページ自体は、魔力を蓄えられるといっても材質は紙と変わりありません。ですが、一応水や火に強い作りにしていますので濡れただけでふやけて破けたり、燃えて魔力が漏れ出す、ということはあまりないかと思います。ですが防水、防火程度と考えてください」
「耐水、耐火ではないんですね」
「ほかにも耐電でもないんですが……まあそれを言いだすとキリがないんでやめときましょう。とりあえず一般的に使用する限りでは問題ないと思ってください。ハサミや刃物なんかには普通に弱いですが」
「それは……まあ」
「その代わり、その表紙は結構頑丈なつくりにしてありますので、多少なら攻撃に耐えることができます」
これが? と試神が表紙を手でなぞる。普通の皮張りにしか見えないのだが
なんらかの処理が施されているのだろう。
その隣で、「しかし」とユミズが半笑いを浮かべる。
「見ての通り、天と地、それに小口は守られていませんので、そこを攻撃されると脆いのですので過信は禁物です」
「そう……でしょうね」
そもそも、A4サイズの本で防御を取るほうが難しい。
盾にするにしても小さすぎて使い物にならないはずだ。中に紙もあることだし、もし本そのものを使うとなれば、中の紙を全部使い切ったときくらいではなかろうか。
試神が左手に『ハクアイ』を持ち、適当なページを開く。大体中間あたりで開いたそれを親指と小指を使って、ひらいたまま固定した。
それを見て。
「……そういえばよ、試神」と墓蒔が声をかける。
「開いたページで魔法が使えるっていうけど、今みたいな見開きのページのときはどっちを―――レクトとヴェルソ、どっちの魔法を使えるようにするんだ?」
「……そっか。俺の感覚だと見開きで一つの魔法を使う感覚だったけど、ページごとに魔法をパッケージ化するなら、それじゃダメか。墓蒔の言う通り、二つの魔法が発動する……?」
確認するように試神が目線をユミズに向ける。
「どちらの魔法を発動するかは、開いたときに神羅さんが選ぶようにしていただければ問題ないと思いますが、ページごとに魔法はわけて欲しい、というのが本音です。もともと神羅さんにお渡しした商品は破くことを前提にしているため、見開きというのはまだ想定外のものが多いんです。ですが、技術的には見開きで使用することも可能なので、一度使いたい魔法がある場合はご相談ください。工場と相談してみます」
「まあ、見開きだと製本するのも大変そうですしね」
「つーかさ、その本だけで何百もの魔法を持ち歩くことになるわけだろ? そんなに覚えられんのか? 仮に覚えられたとしても、いざ使うとなった際、そのページを探すだけでも一苦労だろ」
「そこはまあ……頑張るよ。栞を挟むなり付箋を付けるなり、工夫のしようはある」
試神はそういうが、墓蒔の頭の中には綺麗な装飾の本にライオンのたてがみのように付箋が貼りつけられているものがばっちり想像されてしまい、辟易する。自分のものじゃないとはいえ、そんなものを見かけたらもっと綺麗に使ったらどうかと小言を言ってしまいそうだ。
「それよりも墓蒔、お前はどうなんだよ」
「んあ?」
「お前だって、そんなバットじゃなくてこういう本を持ったほうがいいんじゃないのか? お前も魔法が使えないんだろ」
「俺様は普段は異物があるし、お前と違って道具がなくても少しは魔法が使える。それに、『ラストワン』が発動したらそんなもんいらなくなるからいーの」
墓蒔がバットで肩を叩く。いたずらっぽく笑いながらやるその姿は不良にしか見えなかった。
「というか、どこから持ってきたんだよそのバット」
「俺様がいい子にしてたから天使様がプレゼントしてくれたんだよ」
「プレゼント?」
試神の視界の外でユミズが首を横に振っているが、残念ながら墓蒔が意図的に情報を遮断する。
「俺様のことはいいから、お前はお前でさっさと目的を果たせよ。早く帰りたいんだろ? 人のことを気にかけるまえに、自分のことをとっとと終わらせろ」
墓蒔が素振りを始める。ダンジョンを行き来しているため、やはり足腰がしっかりしているのだろう。軸にブレがない。
「……さて、神羅さん」とユミズが言ったので振り返ると、なぜか疲れたような笑みを浮かべていた。「そろそろ実践的に魔法を使ってみますか?」
「え?」
「友情崩壊ダンジョンもだいぶ進んでみましたし、このまま歩いても使う機会はないでしょう。『ラストワン』の言う通り魔法を……そうですね、試しに、辺りを照らす魔法でも使ってみたらどうですか?」
友情崩壊ダンジョンは洞窟型のダンジョンのため中は暗い。
辺りを照らすものがないと、ほんとに真っ暗になるのだ。
一昨日、ヘッドライトをなくしたときに経験したからよくわかる。
今は墓蒔の携行灯とユミズの魔法によって見えているが、試神一人ではせいぜい携帯であたりを照らすことしかできないだろう。
一昨日なくしたヘッドライトの代わりはまだ見つかっていないし、携行灯を墓蒔からもらっているわけでもない。
「辺りを照らす魔法……」
「なんでもいいんじゃね? 最悪、さっき地上で見せてくれたような火を出しても、灯りの代わりにはなる」と、素振りを続けたままの墓蒔が言う。
「それじゃあ意味ないだろ。燃やすための炎と照らすための炎は違う。将来パッケージ化するかもしれないからこそ、そこは明確にしておきたいんだよ」
うへー、と墓蒔が素振りをやめ、舌を出して苦い顔をした。
「やっぱめんどくせーな、お前」
「うるさいな。そのあたりが一緒くたになってる魔法側に問題があるんだよ。それに、そろそろ俺も新しいスキル……魔法を覚えたかったところだし、ちょうどいい」
灯りを付けるくらいで新しい魔法って言われてもねー、と墓蒔の発言は無視し、『ハクアイ』のページに触れる。
辺りを照らす魔法。
それを使うためページを破ろうとして、
「………………」
そのまま固まった。
「……それで、灯りを付ける魔法って、どうやって使うんだ?」
「紙を破ればいいんじゃねーの?」
「いや、ほら。どんなイメージとか」
イメージ。そう言われても墓蒔も困ってしまう。




