第124話 可愛いだろ?
「それは魔法で作られたものですか?」
「これ? ……ああ、確かにこれだけは異物じゃねえな。このまえ試神からもらったんだ。不気味で可愛いだろ?」
「不気味と可愛いは両立しないと思いますが……神羅さんからもらったというなら、僕からはノーコメントとさせていただきます」
「まあそう言うなって」
お前にも見せてやるよと腰から外し、ユミズに放り投げる。
「…………これは何かを模したものですか?」
「さてな、しらね」
既製品ではなく手作りのようなので見たことないのは当然だとしても、なんの魔法がかかっているのかよくわからない。魔法で作られているだけ……にも思うが、それだけだとすると感じる魔力の量が少し多い気がする。
詳細に調べればわかる気もするが、そこまでする気にもならない。
「なんだ、じっくり見て。人形の不気味な可愛さにお前も心奪われたか? 苦労してもらったんだから、やらねえぞ」
「要りませんよ」
放り投げ返すと、墓蒔が人形をもとあった位置につけなおした。それと同時、まくり上げていたシャツを戻す。
「やっぱ付けれそうな場所はねえな。結局、手に持つしかないか。だいぶ邪魔だけど」
「お似合いじゃないですか? どこぞの不良みたいな感じで」
「……褒めてんのか、それ?」
ユミズが返答をする前に。
「ごめん、遅くなった!」
試神が帰ってきて。
「………………」
「………………」
二人が絶句した。
「こんなに手間取るつもりはなかったんだけど、タタンの奴が嫌に気にかけてさ。今日もダンジョンに潜るんですかってすごい聞いてきて、まいったよ。ユミズさんと一緒だっていって、なんとか許可をもらったんだ」
「………………」
「………………」
「やっぱ、墓蒔の名前を出さないでよかったわ。もし出していたら、確実にダメだっただろうな。まあ当たり前なんだけどさ。許可はもらったけど、あんま遅くならんよう釘をさされたから、さっさと言って性能を確認して帰ろうか」
「………………」
「………………」
「あれ? なんで無言……もしかして、怒ってます?」
「いえ」と言うユミズに。
「お前はマジで頭どうなってんの?」と墓蒔が言った。
「なにがだよ」
「何がだよじゃねえよ。お前のその頭にあるもの、なに?」
ホームラン予告をするように片手でバットを持ち、先端を試神の頭に向ける。
なんだ、そのバット、と試神は少し疑問に思ったが、追求はしなかった。相手は墓蒔なのだ、バットらしき異物の一つや二つ、持っていても不思議ではない。
やんわりと手でバットを避けながら、二人に近寄る。
「おいおい、どうしたんだよ。頭にあるものなにって、ヘルメットに決まってるじゃんか」
別れるとき、試神は頭になにも付けていなかった。
それが今、試神がいう『ヘルメット』が頭に乗っかっている。
ただし、それは以前、墓蒔と一緒に潜ったときにつけていた黄色のものではなく。
「可愛いだろ? クマさん」
折り畳み式の、クマの絵柄付きのヘルメットだった。
「可愛いとかそういう問題じゃねえだろ! なんでんなもん着けてんだよ! というかなんでそんなもん持ってんだよ!」
「安全対策に決まってるだろ? 本当は着替えてきたかったんだけど、さすがにそこまで待たせるのは悪いから、わざわざタタンにヘルメットだけ送ってもらったんだ」
「今買ったんじゃなくてまさかの私物!? お前感性どうなってんだよ!」
「安全はなにより優先される、これは基本だよ、墓蒔くん」
「―――んあああああああ!! うぜえ! マジでうぜえ! 今日だけで何回お前のうざさが更新されんだよ! うぜえなんて口癖でもねえのにこんなにうぜえっていう日が来るとは思わなったくらいにうぜえ!」
「ギャーギャー騒ぐなよ、子どもっぽいぞ」
「お前にだけは言われたくねえよ!」
力の限り叫ぶ横で、ユミズが苦笑いを浮かべている。なんとなく言葉を選んでいるようにも見えるが、しかしこれでも試神の中では最大限頑張ったほうなのだ。
本当なら、買いに戻りたかったぐらいである。
「というか、一昨日お前が被ってたもんはどうしたんだよ、あれがあんだろうが!」
「墓蒔、お前は知らないだろうがな。ヘルメットってのは、強い衝撃を受けたら交換が必要なんだよ。内部の構造の衝撃吸収材が変形してダメになるからな」
「…………だから?」
「お前に穴に突き落とされたとき、衝撃を受けたかもしれないだろ? だからあれはもうダメと思って捨てた」
目に見えた打撃の跡はなかったが、だとしても中身まではどうかわからない。
それに落ちたとき、ヘッドライトがなくなっていたのだ。どこかでぶつけた可能性が高い。
ということで、今日の朝、絶命洞窟に潜るときから試神は別のヘルメットを付けていた。
最初はクマの……今つけているものでロロロの元にむかったのだが、「新しいのがあるから」と別のものを渡され、またしても使うことができなかったのだ。
その新しいものは絶命洞窟隣の休憩室にあるため、さすがにタタンでも持ってこれなかった。ロロロもすでに帰宅済みであるため、試神の手元には最初に用意したクマのヘルメットしかなかったのである。
「じゃあ今日はもうやめようぜ、というか、やめよう。こんなやつ、隣に置いてダンジョンに潜りたくねえ」
「ここまで来たんだ、もういいだろ」
「よくねえよ! こんなこと知り合いに見られたら恥ずかしくて死ねるわ!」
「軽々しく死ねるとかいうなよ、不謹慎だぞ」
「―――っあああ!! マジムカつくマジムカつくマジムカつく! なあ、ユミズ! このバットであいつの頭殴っていいよなあ!?」
許可なのか確認なのか、けれど返答を待つ気がないようにバットを振りかぶる墓蒔の横で。
「神羅さん」
「はい?」
「こちらをお使いください」
にこやかに、ユミズがヘルメットを差し出して来た。
いつも使っているような、黄色の―――安全規格の通ったものである。
「あれ? どうしたんですか、これ」
「僕のリュックに入っていたんです、そちらより、こっちのほうが安全性は高いですよ」
「……確かに、そうですね。でも、だったらユミズが使ったほうが」
「僕は魔法がありますから、ご安心なく」
「え? でも」
「どうぞ、お使いください」
魔法がある。確かに、そう言われると、ヘルメットがある試神より安全なのかもしれない。
「……じゃあ、これ、お借りしますね」
「どうぞどうぞ、遠慮なく」
こうして、ようやく準備が整った。




