第123話 商品名、殴打王
「なんでですか! 嫌ですよ!」
「仕方ねえじゃん、俺様、今の段階じゃ魔法が使えねえんだから」
「異物を使ってください!」
「それだけじゃ無理かもしんねえから、武器を寄こせっていってんの」
異物は言ってしまえば、固定化された魔法のようなものだ。
それにしか使えない道具、と言ってもいいかもしれない。
墓蒔はポケットの中にいくつもそんな便利な異物を持っているものの、当然それには限りがある。
無限に入るポケットなんて存在しないのだから、当たり前だ。
制限のあるなかでどれをチョイスするか、それもまた一つの楽しみではあるものの……。
「異物のほとんどは使い捨て。しかも効果は基本的に一つにつき一人だ。んなもん、いくつあったって頼りないにきまってるだろ?」
「うぐ……」とユミズが言葉に詰まる。
ユミズとて、冒険者だったことがあるからわかる。
異物というものは、あまり使い勝手がよくないのだ。使い捨てというものあるが、効果の届く範囲が狭いのである。
あくまで補助的な役割しかできないものが多く、異物のみで戦うというのはあまり向いていない。逆に逃げることや陽動などは得意なのだが、それでも三人が逃げる時間を稼ぐことは難しいだろう。
それに異物の動力は魔力ではないため、自由に操作することがそもそも難しい。0か100かは得意な反面、試神に渡した本のような微妙な調整はもっとも苦手としているところだ。
携行灯のよう、傷によって出力が変わるなど、いろいろ不安定なのである。
「お前のそのリュック、魔法を感じるな。ということは異物じゃない。異物じゃねえが……このズボンと同じ、それなりにたくさん入る魔法がかけられてる代物なんだろ? おまえは自分を営業って言ってたが、本ひとつ持ってくるためにこんな巨大なリュック必要ねえし、わざわざこんなとこまで持ってくるくらいなんだ。武器のひとつくらい、入っててもおかしくねえ大きさだよな」
「…………それは」
実際のところ、本一つもってくるために巨大なリュックは必要ない。
便利なことは確かなのだが、今日必要なのは試神に渡す本とノートパソコンだけでよかったため、手提げでも問題なかった。
これは、話しのタネ用のアイテムだ。
「おおきなリュックですね」「ああ、よく言われます。ですがこれは自社製品でして」といった具合に引き出しのひとつとして使うためにもってきた。
そのはずなのだが。
「……―――ああもう! わかりましたよ!」
そんなこと言って「そうなのか」と引き下がる相手ではない。
それに、武器が入っていないわけでもない。
悪いね、と軽薄に笑う墓蒔の隣でリュックを開ける。
なにが入っているのか。
興味があって覗き込もうとしたが、ユミズが体を張ってそれを拒否した。
企業秘密のものでも入っているのだろうか。強引に見ることもできたが、そんなことして今更険悪な仲になりたくもない。
「―――こんなもんで、いいでしょう」
そういいながら、墓蒔に向かって、それが投げられた。
受け取りやすいよう、山なりに放られたそれは―――
「バット?」
受け取ったそれは、使い古された木製のバットだった。
一本の木を削って作られているのか、つなぎ目らしきものは見当たらない。年季は感じるが……これはおそらくそう見えるように作られているだけだろう。実際はかなり新しいはずだ。かなり堅い木らしく、傷らしきものは見当たらない。細いが、意外に重いため、中身までしっかり詰まったものらしい。
「商品名、殴打王。……まあ、見た目通り、野球で使うようなバットです」
「ほー。確かに、魔法を感じるな。杖……みたいに内部に魔力を貯めるもんではないのか」
「ええ。魔法を使うものではないので。それは、魔法を打ち返します」
「ボールみたいに?」
「その通りです。単純でしょう?」
ちょっと振ってみてください、ユミズが言って、墓蒔が構える。
野球の経験があるのか、バットを持つ姿はなかなか様になっていた。
ぶん、と一回、振ってみる。
空気を割ってすすむ重い音がした。
『グリン』ヒットの名の通り、にやにやと笑いながら、墓蒔が両手でバットを掴む。
「なるほど、こりゃシンプルでいいな。打ち返さなくても、これで殴ってもいいのか?」
「『殴』打王ですから。かなり頑丈な作りなので、粗忽にあつかってもまず壊れません」
だから渡したと言わんばかりの言い草だが、墓蒔が気が付くわけもない。
何回か振って「気に入ったぜ」と笑った。
「一応渡すは渡しますが、使わないにこしたことはないので、極力異物を使ってくださいね」
「確約はできんが、約束はしてやるよ。俺様も異物のほうが使い慣れてるし、いざ実践となったときにちゃんとスイングできるかわからん。そもそも友情崩壊ダンジョンで、敵のような存在に出会うほうが稀だしな」
会ったら、それは運が悪すぎます。
ユミズが言うと墓蒔も同感したように頷く。
「しかし、このバット、持ち運びには困るな。背中に背負うような袋みたいなもんはないのか?」
「ありませんよ、そんなもの。ベルトの隙間にでも通しておいたらどうです?」
「んな隙間ねえよ」
といいつつ、どこかに通せないかとシャツをまくりあげ、ベルトを見せる。
無理やりできないか試してみるものの、やはり通せるような隙間はない。
そもそも―――
「なんでそんなたくさん人形をぶら下げてんですか」
「んー? これはこれで重要なもんなのよ」
「まあなんかしらの異物だということはわかる……ん?」
「んあ? どったの?」
「いえ………ひとつだけ、魔法を感じたので」
墓蒔が腰にぶら下げている人形は、ほとんど同じものだが。
ひとつだけ、ほかと異なるものが、混じっていた。




