第122話 俺様にも一つ寄こせ
やがて。
「はあーーーー」
と、長い溜息が聞こえた。
「その通りです。今でこそこうやって営業職をやっていますが、昔は僕も探索者でした」
「今はもうからっきし?」
「時間もありませんからねえ。それに、ダンジョンに潜るより、仕事してるほうが楽に稼げるんですよ。今でもどんな異物が発見されたかチェックくらいはしてますが」
「それも仕事につかえるか見るくらいってことか。うはは、なるほどね」
稼ぐという言葉が出てくるあたり、ユミズは異物ハンターだったのだろう。
実力はわからないが、ハンターは高価な異物を求めて高難易度のダンジョンに挑戦するものだ。そこで『ラストワン』の噂を聞いたとなれば、それなりに戦力として期待できるかもしれない。
……それこそ、マンガみたいにわかりやすく『Sランク』なんてもんがないから、感覚でしかねえんだけど、と墓蒔が嘆息する。
「しかし……友情崩壊ダンジョンは僕も入ったことがないので、どこまで役に立てるかわからないですよ」
「一回一回形が変わるダンジョンで、道案内を頼もうなんて思っちゃいねえよ。ただあいつが満足するまで一緒に歩いてくれればそれでいい」
これが普通の人―――ダンジョンに初めてかそれに近しい人ならわざわざ墓蒔も引き入れたりはしなかった。
魔法という面では助かるかもしれないが、ダンジョン内の知識がないならばそれはそれで墓蒔の手間になってしまう。
「それに昔は潜ってたって言っても、おまえそこまで歳いってないだろ? すぐに感覚を思い出すさ」そこまでいって。「え? まさかかなりお年を召されていらっしゃる?」
「そんなわけないでしょ」
「俺様18だけど、おまえは?」
「へー、『ラストワン』ってかなり若いですね、知りませんでした。それでここまで『ラストワン』の悪名が知れ渡ってるなんて、将来有望ですね」
「ちなみにおまえの性別もよくわかんねえんだけど、男なん?」
「そういえば、タタンさんも同じくらいでしたよね。僕が直接かかわることはないと思いますが、そのあたりの年代の人がなにを好むか少し調べといたほうがいいでしょうか」
「…………」
「あ、もし仮に探索者をやめて就職したいとなっても、うちは受けに来ないでくださいね。根回しして書類選考で落とすつもりなんで」
「…………わーったよ」
何を言っても返してくれないとわかり、墓蒔が舌打ちをする。ユミズにもしっかり届いていたはずなのだが、こちらを見向きもしなかった。
「しかし……普通の人は『ラストワン』にあまり馴染みがないということは迂闊でした。神羅さんが親しくしているので邪険に扱わず同席を許しましたが、それがアダとなりましたか」
「別にアダというほどミスしてるわけじゃねえだろ。ちょっとそこにつけこませてもらっただけで」
今回<ラストワン>の発動は見込めないのだから、協力者の人はどうやっても確保したい。
「……殺しはしないんですよね。僕も、神羅さんも」
ユミズが確認する。
「生きて帰ることが約束されるなら、僕も最低限協力はしますよ」
「うはは。さすがに俺様も、今日も創造根底館にケンカをふっかけようとは思わん。お前を殺したら、今度はガブリンとかいう奴が出てくるだろうし」
『アイアンメイド』に加え、さらに『喰えば金になる』の二人を相手にするつもりはいまのところ墓蒔にはない。
さすがに墓蒔も疲れているのである。
今日は、ほんとにリフレッシュのつもりできたのだ。
さくっとダンジョンに入って仲間を殺して、<ラストワン>を発動して気持ちよくなって帰る。それだけだったのに。
こんなことに巻き込まれるなんて。
なんとも―――運が悪い。
「……というか、よくガブリンさんの固有魔法を知ってましたね。あの人が魔法を使うところなんてほとんどないですし、もし発動したらみんな食べられて、証言者なんていないはずなんですが」
「おまえだって知ってるんだ。『みんな』食べられるって言っても、食い残しはあるんだろ。その喰いカスを調べて聞き出すくらいは、俺様の情報網も厚いってことよ。ま、名前だけしか知らねえけどな」
しかし、それだけでもだいぶ想像がつく。
『アイアンメイド』と違い、それなりにわかりやすい名前だ。
「喰えば金になる……うはは、なかなかいい魔法だねえ。金に困らなそうだ。俺様の記憶じゃガブリンってやつは創造根底館の『掃除人』らしいが……なるほどね。しかしなんだ、固有魔法を聞く限り案外簡単に殺せそうな気もするが……当然そうはいかねえんだろうなあ」
「創造根底館の一人ですよ、当たり前です」
「同じ創造根底館の一人でも、試神はあんな簡単に殺せそうなのに」
「冗談でもやめてください、もしきかれていたらどうするんですか。僕まで標的にされます」
辺りを見るが、まだ試神の姿はない。
すでに電話を始めてからけっこうな時間がたっていると思うが、交渉が難航しているのだろうか。
「このまま後日、とかになればいいんですが」
「そこは俺様も同感だね。けどまあ、すぐに戻ってくんだろ。その前にさ」
スッと、墓蒔がユミズの前に手を出した。
右手、である。
……ひょっとして握手を求めている?
ユミズの前の手はそうとしか思えない。
仲間殺しの異名を持つ『ラストワン』がこんなことをするとは意外だが、今日ばかりは確かに同盟を組んだ仲である。
それに、墓蒔のほうから求めてきたのだ。
気持ちはこもってないにしても、形だけの握手というのは悪くない。
ズボンで手汗をぬぐい、ユミズが手を掴もうとして。
「試神に渡したような武器、俺様にも一つ寄こせ」
そんなわけないと思い知った。




