第119話 固有魔法 <喰えば金になる>
「……なんでしょう。僕はもう帰りますが」
「俺様たち、今からダンジョンに潜る………というか、なぜか知らんが潜らなきゃいけないんだけどよ」
「はあ、それは知ってますが。僕も見ていましたし」
そういうユミズの肩をポンと叩き。
「お前もこい」
「はあ!?」
自分でも驚く程声がでた。
「嫌ですよ! なんで『ラストワン』なんかと一緒に!」
「ここまで来たらお前も道連れだよ、いいから付き合え」
墓蒔に、試神は殺せない。
いや、殺すつもりがない。
それはもちろん、単純に殺りにくいというのもあるがそれ以上に。
創造根底館の職員だから、というのが一番にある。
一昨日、軽く相手をしたとはいえ、『アイアンメイド』―――創造根底館の職員というのは一筋縄ではいかない奴らの集まりなのだ。
試神がそうであるとは墓蒔も思っちゃいないが。
もし殺したとなれば、『アイアンメイド』含め何人が墓蒔のことを襲いにくるかわからない。
あんなものを一人相手にすれば十分なのだ。
それが複数、もしくは連戦なんてことになったら……想像するだけで疲れてしまう。
それは、遊びの範疇を超えている。
「それにお前、いいのか?」
「な、なにがですか」
「あいつがダンジョンに行く目的は、あの本の試運転だろう?」
肩に置いた手を引き寄せ、ユミズの顔を寄せる。
そして、耳元でそっとささやいた。
「いいのか? もしあいつがダンジョン内で死んじまっても」
「…………」
今から向かうのは十中八九、友情崩壊ダンジョン。
初心者用として比較的楽な方に分類されるダンジョンではあるが。
それでも―――死ぬ可能性は、十分にある。
「でもそれは、自己責任の範疇で―――」
「確かに」墓蒔が一度は納得してみせる。そのあとに続く言葉がわかって、ユミズは身震いした。
墓蒔は首を振ったかと思うと、にやりと笑って。
「けどな」
そう、わかりきった逆説をつなぐ。
「俺様と一緒に行くことをわかっていて止めないお前にも、多少責任があるかもなあ」
さあっと青ざめるユミズを見て、墓蒔の笑みがさらに大きくなる。
『ラストワン』と一緒にダンジョンに行くという意味を、ユミズはわかっている。
これがわかっただけで十分だった。
「それにだ、カブリンってやつが紹介したように、あいつはなにかと創造根底館のお気に入りなんだよ。そんな奴が死んでみろ。お前もただじゃすまねえぞ」
今まで数回、ユミズはガブリンと仕事をしたことがある。
だが、人を紹介してもらったのは初めてだった。
しかもそれが創造根底館の職員とは。
「…………」
「お前、ガブリンの固有魔法を知らないわけじゃないんだろ?」なあ、と墓蒔がさらに顔を寄せる。「金は好きでも、お前だって金になりたくはないよなあ?」
「……なんで、そのことを」
ガブリンの固有魔法 <喰えば金になる>
知っている人はほとんどいないと思われる固有魔法をなぜ『ラストワン』が……。
「俺様だって情報網くらいあるっつーことだよ。んなことより、いいのか。お前だって知らないわけじゃないんだろう? あの固有魔法の怖さを」
「…………」
知っている。
仕事をするうえで、何度も目の当たりにしてきた。
そして、創造根底館の職員としてのガブリンを見てきたからわかる。
一度目をつけられたら、逃げられないことも、わかっている。
「…………」
「よし」
肩を一回、強く叩く。
「決まりだな」
試神がダンジョン探索用に飲み物を買って帰ってくると、なにやら不思議な光景が広がっていた。
にこやかな墓蒔と。
顔に影を落としているユミズ。
そしてなぜか、墓蒔がユミズの肩に手を回し、試神を出迎えたのだ。
いきたくもないカラオケに無理やり付き合わされる優等生と、そんなこと気が付かず周りを連れまわす不良にしか見えず、試神の額に皴が寄る。
「えっと……」
「いい知らせだ、試神」
墓蒔がバンを一回、ユミズの肩を叩く。
「こいつもダンジョンについて行くってさ」
「え?」
そうとう強く叩かれたのにも関わらず、ユミズの顔は少しも歪むことなく暗いままだ。
「本当ですか?」
ユミズを見る試神と。
「な?」
墓蒔の目線が重なる。
二人の視線の先でユミズが疲れたように笑った。
「……まあ、はい。そうですね」
「えっと……大丈夫なんでしょうか? その、仕事とか」
ユミズとて今日、遊びできているわけではない。
そういう意味では試神もまだ仕事中ではあるが、こちらはまだ自由がきくほうだ。主な仕事は午前中で終わっているし、午後の予定はこの打ち合わせのみなので、もう終わったといっても過言ではない。
どちらかと言えば、ユミズのほうが忙しそうである。
しかしユミズはゆっくりと首を振って。
「ちゃんと上司に確認を取りましたから………………まったく問題ありません」
問題ない、その発言に力がこもる。
「確認って……」
「神羅さんが戻ってくるまえに、すませました」
墓蒔に「決まりだな」と言われた直後、一縷の望みをかけて、上司に連絡した。
今日の予定として、試神と会うために外出の連絡を申請を出している。だが、目的は打ち合わせのみだ。
ダンジョンに入ることも、アフターケアとして付き添いにいくことも当然想定していない。
だから、もし。
上司が戻ってこいと言えば、それを理由に帰るつもりだった。
こればかりは上司命令だから仕方ない。その結果、試神が怪我しようと、それは自分の責任ではない。
そう言える。
言い訳がたつ。
そう思っての電話だったのだが、実際は「一緒に付き添ってこい」だった。
ユミズがなんとしても試神に―――創造根底館の職員に自社製品を使ってほしいのと同じくらい、上司も同じ気持ちなのだ。
そりゃあ行けというだろう。
わかっている。
わかっているが―――気持ちを汲み取ってほしかった。
「三人でいいよな、試神」
「…………まあ、俺は何人で入ろうが関係ないし、むしろ大歓迎だけど」
本当にいいのか?
二人それぞれ、言葉ではなく視線で問いかける。
答えはもちろん、是、だった。




