第118話 てなわけで、墓蒔
「つーかそもそも、魔石なんてもん、もらえたとしてどうやって持って帰んだよ。あんなん誰も触れたくないだろ? まさか、それもこいつに運んでもらおうとか考えてんのか?」
「……俺?」
墓蒔が指を向けてきて驚く。
確かに、魔石は普通の人には運べないらしい。だが、試神なら持ち運びは可能だ。ここまでいろいろやってくれたのだ。それくらいやってもいいかな、という気はする。
どうやって魔王室から持ってくるかは別にして、だが。
「いえ、さすがにそこまでは頼めません。それに、もし魔石を置くとなればそこはおそらく機密室。部外者を入れることはできません。一回一回特別な許可を取ればもしかしたら行けるかもしれませんが……ことあるごとに神羅さんをおよびしなければいけなくなるのは現実的ではないでしょう。気が引けるというより、業務上難しいです。魔石は専用のカプセル……魔力を外に放出しない特別製のものにいれて運ぶつもりです。実際に使う時は遠隔式のアームでカプセルを割り、使用後はまた戻すといった感じですね」
「魔石を閉じ込めるアイテムなんて、そんなもんあるのか? 異物にもなかった気がするぞ、そんなもん」
「開発途中ですがね。魔石なんてエネルギーの塊、どうやってか使いたいと思っていろんな企業が試行錯誤してますよ。完成したという噂が聞きませんが、もし魔石をいただけるのでしたらほかの製品の生産を止めてでも全力で開発を終わらせます」
冗談のようにいうが、おそらく本気なのだろう。
これがあるかないかで大きく変わるのだから、当然だ。
「まあ、魔石をいただく話や魔王室に紙を置かせていただけないか、という話をする場合は僕ではなく上司―――より上の役員クラスがお話に伺うと思いますし、そのときは神羅さんではなくタタンさんが対応されるのでしょう。僕は神羅さんの件のみの担当なので、あとは取り次ぐだけです」
「……そうなるでしょうね」
まだ創造根底館に入って間もない試神に、そんな話しできるわけがない。
タタンがそんな話しをしているところも想像できないが、多分なんてことない顔をして対応するのだろう。
「……長くなりましたね。魔石や魔王室の件はひとまず忘れてください。とりあえず神羅さん、それを使って感想を教えてください。今は確かに触ってはみましたが、持って歩いてみたりしたらイメージと異なる箇所がでてくると思います。もっと小さいほうがいい、本も3㎝くらいの厚さがいいなど、そもそも仕様の見直しから入る可能性もあります。それに、ページの厚さも、魔法を使わなければ何ミリが一番肌にあうのかわからないままです」
「そうですね」
本の大きさ、厚さはおそらく問題ないと思う。重さに関しても、なんとなく想像がつく。だが、ページの厚さまでは考えたことはなかった。
今が最薄だとして、どのくらいがいいかはやはり使わないとわからないままだ。
「……てなわけで、墓蒔」
「んあ?」
欠伸をしていた墓蒔が間抜けな声を出す。
「今から一緒にダンジョンに行こう」
「……―――はあ!? なんでだよ、やだよそんなこと!」
眠そうにしていた墓蒔の顔に一気に赤みがさす。
胸倉をつかむ勢いで距離を詰めてきた墓蒔に、試神は「まあまあ」と言いながら両手を前に出して距離を取った。
「そう言うなって。別にいいじゃんか。お前もいきたかったんだろ? ダンジョン。だったら今日はこのまま俺に付き合えよ」
「やだって! もう俺様帰るんだよ」
逃げるが勝ちと言わんばかりに席を立つ墓蒔の腕を。
「そんな嘘いいって」
と、逆に距離を詰めた試神がにこやかに掴んだ。
「最初に約束したじゃんか。これが終わったら一緒にダンジョンに潜ってやるって」
「お前が勝手に言ってるだけで、こちとら約束した覚えはねえけど!?」
「この前は装備というか服装というか、頭からつま先までガチガチに決めてきたけど、今日は見ての通り学生服だし……運動靴じゃないからそんな深いところまでは潜れないかもしんないけど、勘弁な」
「なんでそんな『悪いな』っつー顔ができんだよ! お前が勝手に行きたいって言ってるだけで俺様は一言も『一緒に行こう』なんて言っちゃいねえんだけど!」
「遠慮すんなよ。それに、どうせ別のやつ捕まえてダンジョンにいくんだろ? そんなことはさせねえって。今日はもう諦めて、俺と一緒にパーティー組んじまえよ」
それにさ、と墓蒔を掴んでいる反対の手で、『ハクアイ』を指さした。
「お前もみたいだろ? この本を使うところ」
トントン、と二回、表紙を叩く。
「お前には特別に特等席で見せてやる」
「うぜえ! 超絶うぜえ! 心の底から湧き上がるうざさ! てか、なんでお前の方がノリノリなんだよ! 行くなら一人で行けや! 俺様は一度お前を殺そうとしたんだぞ、普通はそんなやつと一緒に行くのを避けるのが普通なんじゃねえのか!」
―――『ラストワン』って呼ばれてるんだって?
そう訊いたことはもちろんのこと、『仲間殺し』、その意味を試神は身をもって知っている。
はずなのだが。
「その件に関しては、俺のほうはすでに許してるからなんら問題ない」
「こっちが大問題だわ!」
ひとしきり叫んだのを見届けて、試神が席を立つ。
ついでに腕も離したため、諦めて帰るのか、と墓蒔が思うのも束の間。
「ちょっとダンジョン探索用に飲み物買ってくる。すぐ戻ってくるから、逃げんなよ」
「はあ!? なんで俺様が……ってちょっと待てって!」
止めるまもなく、試神が離れていく。
口をぽかんと開ける墓蒔を見て、ユミズも思わず吹き出してしまった。
「『ラストワン』をここまで手玉にとるとは、なかなか大物ですね」
「…………」
「では、僕はこれで。ダンジョン、楽しんできてくださいね」
そんなことを言いながら。
試神と同じく立ち上がろうとしたユミズの腕を。
「ちょーーーっと待とうか、ユミズくん」
墓蒔が掴んだ。




