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異世界で目覚めた俺。スキルも魔法も使えなくて絶望する ~神羅 試神の転生召喚~  作者: ねすと
神羅 試神のダンジョン探索 ―― 第九章 ――

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第116話 今から本気を出す

「遊んでいるとは、どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味です」


 心殺の返事は簡素なものだった。

 タタンはキーボードから手を離し、腕を組む。先を促してもよかったのだが、おそらく心殺が打っている最中だろう。水を差すのも悪い。


 遊んでいる。

 その言葉から連想する言葉はたくさんあるが、『ラストワン』の人物像が曖昧なタタンは正確なイメージができないでいる。

 一応、ダンジョンから帰ったあとの試神から見た目は聞いているのだが、服装や性格を聞いただけだ。写真なんてものはないので、ざっくりとしたものしか浮かんでいない。それでも自由人だ、ということは話しをきいてわかったのだが、タタンの周りにはいなかったタイプなので余計に想像できない。


 ……創造根底館の中で一番の自由人といえば、フクロウさんなんでしょうが。

 しかし、彼の場合、自由人というよりかは幼いが故の無邪気さが際立っている面もある。それと自由さを同じにするのは無理があるだろう。

 七歳という無理やり作られた―――半固定化された年齢で生き続ける彼のその無邪気さが本物であるかは疑問であるが。


(あとの自由人といえば……私の知る限りでは、あの人くらいですねえ)


 今はもう後姿しか思い出せないが。

 いや、思い出したくもないが。

 創造根底館―――と、名が付く前の、果報拡散支援生甲斐所の―――所長。


(思えばあの人は、いつも遊んでばかりでしたねえ) 


 真面目なときがあったのかと疑問に思うほど、いつも楽しそうにしていた彼女。

 あれと同じタイプだとすれば―――

 ―――おそらく、仲良くできそうな人物ではないだろう。


 と。

 視界の端で画面が動いた。

 心殺がメッセージを送信したのだ。

 後ろにかけていた体重を前に戻し、マウスをスクロールする。


「ラストワンは、私を殺す気はありませんでした。怪我をしないのも当たり前です。向こうは傷つける気すらないのですから」

 改行。

「もちろん、戦うことを放棄したのではないです。争うことを止めたのでもありません。創造根底館の一人だから適うわけない、という理由で諦めたわけでもないです」

 改行。

「最初、彼と出会ったときは多少の殺意を感じましたが、固有魔法であるラストワンを発動したあとは、その殺意は全く感じませんでした」

 改行。

「おそらく、本気を出したのでしょう」


 本気を出す。

 その感覚がタタンにはわからず、首を傾げる。


 徐々に力を出す、という無駄なことをする意味がわからなかった。


 そんなことをして、死んだらどうするのか。

 なぜ最初から全力で挑まないのか。


「今から本気を出す」なんて言い訳をする暇があれば、最初からそのコンディションに持っていけばいいのに。


 そう思えてしかたない。

「『ラストワン』を発動しておそらく彼は、本気で―――遊ぶことにしたのでしょう」


 本気で……遊ぶ。


 その意味をつかめず、さらに首を傾ける。全力で遊ぶという意味だろうか。

 小さい子が、体力の続く限り走り回るような―――

「それに近しいかもしれません」

 タタンの『遊ぶ』イメージを伝えると、肯定がかえってきた。


「彼は子どもです。体つきでいえば青年といってもいいかもしれませんが」

 改行。

「いえ、精神年齢も子どもではなく、もっと成熟しているのかもしれませんが、大人になることを拒んでいるかのように、ラストワンは幼さを保っていました」

 改行。

「いうなれば、フクロウさんと同じタイプの子どもでしょうか。無邪気さを武器にできるタイプの人間です」


 無邪気。

 すなわち、邪気が無い。


 それはある意味、とても恐ろしいことだ。

 平気で虫を殺せるように。

 遊びで物を壊せるように。

 平然と嘘をつけるように。

 行動に悪意が入らないというのは、無邪気さを忘れた側の人間からすると理解できないことかもしれない。


「今回、私の目的はラストワンを殺すことでした」

 改行。

「いえ、本当の目的は神羅さんを回収することですが、その元凶を絶つという意味での目的がそれです。ラストワンがいなくなれば、その後ゆっくり探せますし」

 先ほどの書き込みを補足するかのように、少し早めに続きがきた。

 試神を探すことを目的としなかったことをタタンが怒るのかと思っているからだろうか。


 ……そんなこと、いちいち指摘はしないんですがねえ。


 改行。

「ですが、あの人の目的は違います。目的はただひとつ、ダンジョンに入って面白いことがしたい。これだけです。<ラストワン>の発動も、彼は縛りプレイのご褒美と言っていましたが、本気でそんなこと思っていないのでしょう。発動しようがしまいがかまわない。純粋に、面白いものが見たい、経験したい。それだけなんです」

 改行。

「それゆえに、非常に質が悪い。私の目的はゴールがありますが、ラストワンは目的があるだけで到達点がありません」


 心殺はラストワンを殺すだけでいい。

 だが、墓蒔は。

 ラストワンは。


 面白いものを探して、続けるだけだ。


 純粋に。

 貪欲に。

 無邪気に。

 全力で、走る回るだけだ。


 そして。

「その『面白いもの』は、今回、私でした」


 アイアンメイド。

 いったいどこが彼のお眼鏡にかなったのかわからないが、とにかく気に入られてしまった。


 遊び相手として、選ばれてしまった。


「殺さなかったのは、そのためでしょう。私を殺してしまったら、その遊びは終わってしまう」


 遊びを続けることが目的なのに、それがなくなってしまう。


「だから彼は、私を傷つけなかった。全力で遊び、本(・)気(・)を(・)出(・)す(・)こ(・)と(・)を(・)本(・)気(・)で(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。だから私は無傷で帰還できたというわけです」


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