第115話 ハクアイ
ほかに質問は、と訊かれるが、正直質問の内容はそこに集中しているので実際にパッケージ化する魔法が出て来ないと進まない。紙の厚さや装飾などは、これで満足だ。
質問がないとわかったのだろう。ユミズの顔が急に真面目なものになる。
「これは言うまでもないと思いますが、一応言っておきます。地球の方と伺っておりますので、齟齬があっても嫌ですしね」
地球の方。
ユミズにそういわれて、また召喚者であることを言うのを忘れていたと思う。
メールでのやりとりの時から言っていなかったので、最初からガブリンが伝えていたのだろう。
「魔法は有能ではありますが万能ではありません。魔法は、魔法ができることはできますが、魔法ができないことはできません。まずはそこをご理解ください」
頷く。
試神も、そのあたりはわかっているつもりだった。
パソコン……のようなものなのだろう。
一台あればなんだってできるような気になるが、実際はパソコンができることしかできない。
もっといえば、持ち主がしたいと思うことの大半は実現可能だが、思いつかないことを実現することはどうやったって不可能なのだ。
それこそ、魔法に―――異球でいうところの魔力に意思がなければ。
「今後、神羅さんの要望によってページに閉じる魔法が決まってくると思いますが、どういう魔法を使いたいかによって、当然紙の厚さは変わってきます。先ほど、一定時間で走る魔法なら0.1㎜で可能、と言いましたが、全ての魔法がその薄さで対応できるとは思わないほうがいいです。神羅さんが簡単と思うような魔法でも、処理の関係上、1㎜ほどの厚さが必要になる場合もあります」
これはウチの技術力の問題ですね、ユミズが小さく付け足す。
「可能な限り神羅さんの想いには答えますが、十全の回答はできないかもしれません」
「そこは大丈夫です。俺も無理を言うつもりはありません」
今すぐパッケージ化したい魔法がない時点でわかるように、そこまで必要性の高い魔法なんて試神にはないのだ。
もし極端に分厚くなるようならその魔法をやめるか、もしくはどうするば薄くなるか聞いて魔法を変えてしまえばいい。
「俺は、魔法はただの道具にしかすぎないと思っています」
「…………なるほど」
納得したのか、ユミズがビジネス用に固めていた顔を崩す。
「安心しました。……どうやらあなたは、普通の召喚者じゃないようですね」
「……そうですか?」
「もちろん、いい意味でですよ」
いい意味で、と言われても、試神以外の召喚者を知らないのでよくわからない。しかし、ユミズの顔と言い方からして皮肉を言っているようには見えなかった。
(普通の召喚者は、こんなもの使わないのだろうか)
試神が本を手に取り、開く。真っ白なページ。それを手でなぞる。
確かに、本を開いてページを破るなんて動作が必要なものより、もっと手軽に魔法が使える杖というものがあるのだ。
選ぶ云々の前に、そもそも思いつかないのかもしれない。
よほどのこだわりがなければ―――
「……こだわりか」
「はい?」
「あの……ユミズさん。可能であればこの本、もう少し重くできますか?」
「……重く、ですか?」
「ちょっと、俺には軽すぎます」
ちょっと貸してみ、と墓蒔が本を奪う。持ってみて驚いたのだが、重厚な見た目とは違い、かなり軽い。片手どころか二本指でも十分持てるほどだ。
それは技術力の賜物だと思うのだが。
試神には、少し気になった。
「重くすることはもちろんできますが……持ってて疲れません? 要望としては軽い方がいいという方が多いので、一番軽いものを選んできましたが」
「ですので、俺のこだわりです」
「……わかりました。重さの調整は可能です。どのくらいの重さがいいかメールでもいいので教えてください。そのあたりで作れないか工場と相談してみます」
いろいろ頼んでしまって悪い気もするが、ここで遠慮しても困るのは自分だ。
少しでも慣れたものに近づけたい。
「では、最後に」
神羅さん。
と、名前を呼ばれる。
「この本に、名前をつけてください」
「……名前、ですか?」
「一応それには本魔究竟等という名前がありますが、商品名みたいなものなので、その本はみんな同じ名前なんです。ですので購入者の方は、ほかの人と混ざらないように、それぞれ名前をつけていただくんです。そのほうが愛着がわきますし、自分のものって強く思うことができますしね」
パッケージ化する魔法が挟まり始め、一冊の本として完成すれば他と混ざらないだろうが、それまでは魔力の貯めてあるページが挟まっているだけにすぎない。同じものを使っている人がいれば、もうわからなくなってしまう。
今はまだ同じ厚さのページだけしかないので問題ないが、ページの厚さを自由にカスタマイズしたあとに混ざってしまえば、それはそれで大変だ。
「名前…………」
「なんでもいいですよ。長くても、短くても。ただ、ほかの人と被らないものが一番いいですね」
被らないほうがいい。
そういわれても、それが一番困ってしまう。
なんせ、異球の名前の付け方は独特だ。
被らないようにした結果、被ってしまう可能性もある。
「一応管理上つけるだけですので、そこまで難しく考えないでください。もしこの先、パッケージ化した魔法のページを新たに更新、発注する際、検索するときに見つけやすいようにするために使用します。なので、もし被っても使えないというわけではありません」
単に僕が探すときに間違えるかもしれないってだけです。
小声でユミズがはにかむ。
「あとで変更可能ですし、直感で決めちゃってください」
直感で―――
本の―――名前。
「それなら―――」
頭に浮かぶ名前が一つ―――いや、一人、あった。
ハクアイ。
「ハクアイでお願いします」




