第114話 これが俺の理想だ
「……ページを破って魔法を使う、という使い方は理解できました。まだちゃんと使えてないですが、感覚的にはアリかな、という気がしています。ですが、俺的には、パッケージ化された魔法が気になってるんですよ。だから、その辺りを訊きたいです」
「確かに……そこはまだでしたね」
「というか、お前さ」墓蒔が口を挟む。「パッケージ化パッケージ化っていうけど、そんな固定化した魔法がいいのか? 固有魔法って考えもあるけど、それでもある程度の自由度はあるとは思うぞ」
「うるさいなあ。そっちのほうが慣れてんだよ」
慣れてる? 墓蒔が首を傾げる。
「……ほら、ゲームとかだと、自分のレベルだとあとどのくらいの魔法が何回使えて……とか、ダメージがどのくらいで、とか決まってるだろ? あっちのほうが馴染みがあるんだよ。確かにいくらか不確定要素はあるけど、大きく変わることはないしさ」
「アナログじゃなくてデジタル的な魔法が欲しいのか?」
「そんな感じ」
試神がページの一枚に触れる。質感的には普通の紙と全く変わらないそれを一枚捲った。
「俺が欲しいのは『早く走れる魔法』じゃなくて『100mを6秒で走れる』魔法なんだよ。いつ、だれが、どうやって、どんな状況でも、安定して同じ魔法が出せる。これが俺の理想だ」
確かに込める魔力の量で魔法が変化するのは理解できる。
そのほうがいい、という状況が存在するのもわかる。
だが―――それだと安定しない。
同じ魔法を使っても、同じ結果にならない。
おおむね同じ魔法にはなるだろうが、それは汎用性があるだけで正確性を犠牲にしているだけだ。
その点で言えば、さっきユミズが言った『0.1㎜単位の調整』は試神には合っていた。ページ一枚に貯められる魔力も一定であるならば、そのページで使った魔法の再現性は高くなる。
「なるほど……ようやく少しイメージがつきました」と言いつつ、ユミズが腕を組む。「正直、神羅さんのいうパッケージ化する魔法があまりイメージがわかなかったのですが……魔法を手早く、楽に使いたいというよりは、再現性を強く求めているということですよね」
破くだけで魔法が使える。
それは確かに楽でいいかもしれない。
けれど、そんなものだったら杖でも可能だ。
杖に貯められた魔力を使って魔法を使うのと、なんら変わりない。
「だとしたら、この本の売りの一つであるパッケージ化する魔法は、神羅さんの要望にばっちり合うと思いますね。同じ魔法を使い続ける、それはこの本の得意なことの一つです」
「なあ、でもよ。それっていわゆる固有魔法に近いもんなんじゃねえのか?」
「近いとは思います。ですが、そこまでのものは求めてないのでしょう?」
ユミズの目が試神に向く。
正直、固有魔法というものを理解しきれていないのもあるが―――。
「特別なものはいらないです。普遍的なもので、十分です」
ユミズが大きく頷く。
「わかりました。……やはり、メールではうまくコミュニケーションができませんね。こうやって会わなければ、話さなければ見えない部分もある」
「……すいません、説明が下手で」
とんでもない、とユミズが言った。「再現性を求めるとは、なかなか面白いとは思いますよ。この本の一般的な使用者は、神羅さんのように再現性と手軽さを重視しますから」
「手軽さ?」
「例で言うと、掃除の魔法とかですね。工場などの機器の清掃などに使われるパターンがあります。人が入りにくくて掃除がしにくいというのもありますが、それ以上に機器を停止させる手順や、どこを、どの方法で、どういう順番で掃除するか、というのに苦労している人が多いんです。工業機器なんで一歩間違えば命にかかわりますからね。それに、『綺麗になる』なんて、人によって変わってしまうのも問題です。本人は綺麗になったと思っても、他人から見ればまだ汚れているかもしれない。それは手で掃除しようが魔法で掃除しようが同じです」
魔法なんてものは、技術と勘の集合体のようなものですから。ユミズが言った。
「もちろんマニュアルを使って教育しているところもありますが、それがあっても人によって結果が変わってしまう。そういうとき、この本を使って掃除の魔法を固定化しておいて、終業時などにそのページを破いて魔法を発動させる。そうすれば毎日、誰がやっても同じように綺麗になるわけです」
誰がやっても結果の変わらない。
再現性の高い魔法。
「そういう使い方は、神羅さんも共感するんじゃないでしょうか」
「ええ」
深く頷く。
そういう使い方がいいのだ。
そういう使い方でいいのだ。
「ちなみにだけどさ」と、墓蒔が手を上げる。「さっきこいつが言った『100mを6秒で走れる』魔法をページに閉じ込める場合、厚さは0.1㎜で収まんの?」
「可能だとは思いますよ」
「本当ですか、ユミズさん」
「実際は工場に確認が必要ですが、おそらく問題ないと思います。パッケージ化する魔法は自由度がない分、圧縮が可能ですからね。よほど複雑な魔法でない限り、実現可能かと思います」
「そのときの発動方法は、やっぱり破かなくてはいけないですか?」
「いえ、パッケージ化した魔法が決まったときに改めてお伝えするつもりでしたが、そのあたりは自由に決められます。ページに触れる、該当のページを開く、合言葉を用意しておいてそれを言う、など。もちろん破くことでも使えますが、そのページは特注品ですからね。いくら再利用できるとはいえ、お金を考えると避けた方がいいでしょう」
それを聞いて安心した。
一回一回破かなくてはいけないのかと思っていたところだ。
「神羅さんは、どうされたいですか? 本に触っている間だけ使用したいなどあれば、言ってください」
「だったら……そのページを開くと、その魔法が使えるようにしたいです」
わかりました、とユミズが頷く。「そのように調整しましょう」




