第113話 0.1㎜
それに、使用感を答えなくてはいけないのだ。いつかは破らなくてはいけない。
だったら、ユミズがいるここでのほうが意見も言いやすいだろう。
試神はページの上、のどの付近を掴むと、ゆっくりと下に引いた。
ノートのページを破くような感じなのかと思いきや、こちらもメモ帳のようにぺりぺりぺりぺりと心地いい音がして、一枚ページが剥がれ落ちる。
ページの切り取り口を見ても、最初からそう作られているように綺麗な断面だった。
「……おい」
「ん?」
「なにやってんだよ、早く使えよ、試神」
「使うってなにが?」
「なにがって、魔法に決まってんだろ」
「―――あ、そっか」
剥がすことに夢中になって忘れていた。
慌てて魔法を使う……といってもなんの魔法を使えばいいのかわからない。
火でも出してみようか、そう思っていると。
「……残念ですが、時間切れですね」
「え?」
「もうそれはただの紙になっちゃいました」
ユミズが苦笑いを浮かべる。
こちら、回収しますねと言って試神からページを一枚受け取ると、丁寧に畳んでリュックに戻した。
「なにやってんだよ、もったいねえなあ」
「そんなこと言われたってさ、ユミズさんがやったように破いたら火が出ると思うじゃんか」
「思わねえよ」
墓蒔が呆れたように額を押さえる。
しかし、ユミズさんは破っただけで火がついたのだ。
そう思ったとしても仕方ない……と思う。
「今度はちゃんとやるよ」
また一枚、ページを引きはがし。
今度は、ちゃんと火を灯すことができた。
「な?」
「別にすごくもなんともねえけど?」
破れた箇所から燃え上がる火は、すぐに消えてしまった。
「……なんだ、案外すぐに魔力が切れちまうんだな」
墓蒔が言って、ページの魔力がなくなったのだとわかる。
「それは最薄のページですからね。貯められる魔力も少ないんです。厚ければ厚いほど当然魔力もたくさん貯められますよ」
そのページは0.1㎜です、とユミズが言った。
「厚さは0.1㎜単位で決められます。最大5cmまで製本可能なので、今は500枚……二枚使ったので498枚あるわけですね。もちろん厚さの違うページも一緒に製本できますので、0.1㎜を50枚、1㎜を20枚、2㎜を……なんて組み合わせも可能です。そこは自由に決めてください」
そんな厚さの違うページを混同させたら、捲りにくくて仕方ない気がする。
そもそも破いていくのだから捲るものでもない気がするが―――しかし、厚さの違うページを挟むとなった場合、目的の場所まで捲らなくてはいけない。
色付けすることで多少わかりやすくなるとは思うが、何種類も一緒にするのは避けたほうがいいかもしれない。
「……ちなみに、これは複数のページを同時に破くこともできるんですか?」
試神が訊くと、可能です、と返答が来た。
「特殊技術によって相当数のページを同時に破くことは可能ですが……さすがに0.1㎜を百枚、すなわち1㎝相当を破くのは難しいかもしれませんね。だとしたら最初から1㎝の紙を用意していただいて破った方がいいと思います」
「1cmが一枚の紙なら破れんのか?」墓蒔が訊いた。「百枚でも一枚でも、同じ厚さだろ?」
「厚い紙はそれだけ切れやすいように加工しますからね。要望があれば5cmが一枚のものも作れますが、それはもう本の意味がないでしょう」
確かに。
5cmといえば、製本できるサイズの最大値だ。それを一枚で終わらせてしまうくらいなら、普通の杖のほうがまだいい。わざわざこれを使う理由もないだろう。
しかし、とユミズが苦笑する。
「細かいページより厚いページを用意すればいいとは言いましたが、魔法を使うときは大抵突発的です。いつ、どのくらいの量を使うかわからないから細かいページを用意するわけなので、必要な量を必要なだけ用意しておくというのはかなり難しいですね」
お金だって、一円玉が一万枚あれば大抵のものはお釣りなしで買い物できる。しかし、そんなもの持ち運べないし、出すのも面倒だ。だから千円札や百円玉のようなものがあるわけで、それはいつ使うかわからないから、財布の中に入れておくのだ。
「0.1㎜のページがそこまで魔力を貯められないのは、そもそも取り込める魔力が少ないというのもありますが、魔力の量の調整しやすさに重きを置いているからなんです」
「……なるほど」
ホントに納得したのか、と墓蒔が不思議そうに顔を覗き込んだ。「俺様、まったく理解できねえけど。そんな微妙な調整なんかいらんだろ」
「世の中にはいろんな方がいるんです。その方には重宝されてますよ。普段使う分には大雑把でいいですが、その最後の調整に使う、という方が多いです」
「調整? 魔力の量がなにかの鍵になってる場所があるってことか?」
「さあ」ユミズが顔に笑顔を貼り付ける。「そこまでは、僕も知りません」
本音の見えない顔に、墓蒔もそれ以上追及を諦めたようだった。
さよけ、と言って、大きく伸びをする。「んで、試神。そいつは気に入ったのか?」
「―――ん? あ……ああ、まあ……そうかな」
「……どうやら、あまり気に入っていただけませんね」
歯切れの悪い回答にユミズも顔をしかめる。
試神が慌てて否定するも、本心ではいまいちなことがバレているのだろう。
「神羅さんの要望はできるかぎり叶えたいと思っていますので、なにか納得がいかないところがあれば遠慮なく言ってください」
「納得……」
ではないが。
「訊きたいことが何点か」
「どうぞ、なんでもお聞きください。この商品は、神羅さんのオーダーメイドに近いものになります。納得できないものを購入されても、困るのは貴方ですよ」
そう言われてしまってはぐうの音も出ない。




