第109話 ふーん。で?
「―――っていうのが、昨日の話しなんだよ」
「ふーん。で?」
「ガブリンさん……って言っても、お前にはわからないと思うけど、その人が『アテがある』って言ってた人に訊いてみたら、すぐに連絡をくれたんだ。しかも、俺の要望ばっちりのものがあるから紹介したいって。多分、連絡を入れてから二時間経ってないくらいだと思う」
「ふーん。で?」
「俺の要望……見た目の我がままってのは、『本』の形がいいってことなんだけどさ。杖じゃなくて、普通の……まあ、A4のノートサイズで、厚さは五センチくらいのものがいいって、条件を出したんだ。あんまり厚いと持ち運びに難が出てくるだろうから、多分そのくらいが限界だろうなって思って。いやー、まさかこんなすぐ見つかるとは思ってもみなかったね」
「ふーん。で?」
「見つかってからは俺が対応することになって、数回業者……なのかメーカーなのかわからんけどメールでやりとりをしてさ。なんか社会人してるなって思ったね。メールじゃなくて電話派の人間だったけど、電話でなくてよかったとマジで思ったわ。メールの文面でさえ緊張して、タタンに何度も確認とったってのに、あれを咄嗟にしゃべれとか言われても無理だと思う。丁寧語にするだけでも緊張すんのに、その中に失礼がないように気を付けるとか、頭混乱してわけわかんなくなる」
「ふーん。で?」
「とりあえずスペックはいろいろ見せてもらったけど……正直俺じゃよくわからんからタタンに見てもらって、とりあえず問題ないんじゃないかってことで、それで進めてもらうことにしたんだ。俺としてはパッケージ化する魔法の方にもっと興味というか感心があったんだけど……それはちょっと時間がかかるらしい。まあ、俺もなんの魔法がいいか考える時間が必要だから、そこはありがたかったかな。急いで決めて変な魔法にしても困るし」
「ふーん。で?」
「とりあえず社内に在庫があるってことで、見せてもらうことにしてさ。最初はメールに写真を添付してもらったんだけど、俺の要望ばっちりで驚いたね。辞典みたいな厚さの本で、深い赤色をした無地の本。角度とか変えて何枚も写真を送ってもらったんだけど、大きさとかわかりにくいし……重さとかも一応測って送ってくれんだけどさ。やっぱり実物をみたいってことで、アポとって落ち合うことにしたんだよな」
「ふーん。で?」
「アポを取るってことも初めてだし、それが遊びとかじゃなくて仕事だと思うとかなり緊張してんだよな。胸のあたり触ってみるか? ドキドキが伝わってくると思う。本当なら創造根底館で会いたかったんだけど、向こうが外がいいってことでできなかったんだよな。なんか来たくない理由でもあったのかな? それにさ、タタンに会議室とかあるかって一応訊いてたんだけど、『多分外で会おうって提案されると思いますよ』って言われてて……ばっちり当たったとき驚いたね。あいつに予知能力でもあるのかと思ったわ」
「ふーん。で?」
「メールでも緊張して電話もあんましたくなかったのに、こうやって外で会うとか本当手汗がやばいんだよな。今日は在庫を見せてもらうだけだけど、ちゃんと応対できるかすげえ不安。本当は誰かについてきてもらいたかったんだけど、今日は全員都合が悪い……というかタタンしか出勤してなくてできなかったんだよな。さすがに会社を空にするわけにはいかないから、ついてきてくれとは言えなかったけど」
「ふーん。で?」
「その約束の時間まで、あと僅かってところなんだ」
「ふーーーん」
藤藤 墓蒔は深く、深く頷いてから。
「で?」
「『で?』ってなにがだよ」
「そこになんで俺様が連れてこられてんだよ! まったく関係ねえじゃねえか!」
「いいだろ別に、それにお前、暇だろ?」
「そういう問題じゃねえよ! 商談だったらお前一人でやれや!」
「商談じゃねえよ。ただ、在庫を見せてもらうだけだ」
「じゃあ猶更、俺様要らねえじゃねえか!」
「別にいいじゃんか、それにお前、どうせ暇だろ?」
「暇だけど暇じゃねえんだよ! というかその流れだと会話のループに入ることになんぞ!」
友情崩壊ダンジョン前、多死悲喜交々、共有スペース。
ベンチとテーブルが一体になっているものが等間隔に並んでいるものの一つに、試神と墓蒔が並んで座っていた。
時刻はお昼を過ぎたあたりなのだが、遅いお昼なのか、お弁当を広げている人もちらほら見える。アーケードのようになっておらず傘を差すスペースもないため、雨の日は無理だろうが今みたいに晴れていれば気持ちがいいことだろう。
当然……なのか。
試神と墓蒔の周りには、人がいない。
昨日と同じよう、遠巻きに観察しているだけだ。
「というかなんでお前は俺様を連れてきたわけ?」
「ん?」
「姿を見つけるなり有無を言わさず手ぇ引っ張って連行しやがって。ここにそのタタンとかいうやつがいるのかと思ったぞ」
そんなわけないじゃんか、と試神が言うが、実際のところ、墓蒔にはそれくらいしか連れて来られる理由が思いつかなかったのだ。
一昨日のことを知った上司が―――部下を殺されそうになったことを知った上司が、わざわざ挨拶に来た。
そう考えても不思議ではないだろう。
なにせ試神だけではなく心殺も……創造根底館の職員を二人も、相手にしたのだから。
ケンカを売られたと思われても仕方ない。
それに一番の問題は。
今日はまだ、ダンジョンに潜る前だったこともあり、<ラストワン>を発動してはいないことだった。
タタンどころか、再戦をと意気込んだ心殺がいたとしても、抵抗すらできず殺されていただろう。
命人形・形身代わりはまだ残っているが、向こうもそのあたりは対応してくるはず。残りの異物でも、それは変わらないはずだ。
言葉を発する前に滅される。
今の墓蒔は、驚くほど無力なのだ。
実際、腕を掴まれた試神にすら満足に抵抗ができなかった。
そんな状態で連行されようものなら……。
冗談じゃなく、死を覚悟した瞬間でもあった。
「さっきも言ったけど、あいつは会社だよ。パソコンを持ってきてここで電話会議もどうかと思ったんだけど……まあセキュリティ面もあるし、あいつはあいつで仕事があるだろうしな。仕方ない」
「その仕方ないで、俺様も見逃してくんねえかね」
立ち上がろうとした墓蒔の腕を。
「まあまあ、もうちょっとゆっくりしてけよ」
試神がにこやかに掴んだ。
「ここまで来たんだ。一緒に付き合えよ」
「だから! なんで俺様なんだよ! 俺様がなにしたんだよ!」
「簡単だよ。お前が、俺の視界に入ったんだ」
「……はあ?」
なんの冗談かと思い試神の顔を見れば。
思いのほか、試神は真面目な顔をしていた。
「タタンから聞いたよ。お前、味方殺しの『ラストワン』って呼ばれてんだって?」




