第108話 めんどくさいなあ、この人
「友情崩壊ダンジョンにもいるんですね、そんな危ない魔物」
「やっぱり、タタンも知らないか」
「ダンジョンには疎いですからね。詳しい人も周りにはいませんし、報告にもあがってませんでしたし」
試神はもちろん知らないが、昨日―――といっても日付が変わったあとだが、心殺もタタンに軽くだが状況報告はしていた。
だが、『詳細は明日きく』と言っていたように、詳しくは話していない。
せいぜい『ラストワン』とやりあい、彼の固有魔法を伝えたくらいだ。
絶命洞窟がダンジョンの一部という可能性や、魔石を使って異球が魔法を使おうとしている、というような話しはもちろんしていない。
してもよかったのだが、小説の設定のような話しをするのも気が引けたし、なにより心殺も疲れていたのだ。藤藤 墓蒔とやり合うのに、体力のほとんどを持っていかれた。
本当であれば報告はすべて後日に回したかったのだが、魔王室に侵入される可能性もあるため、ということで、その日のうちにタタンに連絡を入れている。
今日休んでいるのは、本当に疲れているためだ。
ダンジョン特化型固有魔法―――<ラストワン>
自身に完全、不死、無敵を付与する。
タタンもそれを聞いたとき、そんな魔法があるのかと感心したものだった。面白いことを考えると、素直に拍手してしまったほどである。
しかし―――なかなか厄介な魔法であることは確かだが、それくらいの固有魔法は脅威ではないということで注視はしていない。
事実、不完全とはいえ<ラストワン>を発動した墓蒔でも、心殺にかすり傷ひとつ負わせることはできなかったのだ。その程度の固有魔法、恐れるまでもないというのが大きな理由だった。
「ダンジョンは毎日リセットされるみたいだし、そんときに突然変異みたいに生まれるのかもな」
「だったら、なおさらいくのは危険な気がしますがね」
「……そうなんだよなあ」
ダンジョンは暇つぶしになりそうなことはわかったのだが、流石にあんなものを見て一人で潜ろうとは思わない。それならばタタンの部屋でテレビを見ていたほうがマシだ。
「もし行かれるのなら、せめてもう少し魔法をうまくなってから、自分を守れるくらいの魔法を使えるようになってからのほうがいいでしょうね」
「……そうなんだけどなあ」
異球にきてしばらく経つというのに、火を出す程度の魔法しか使えないのはさすがにまずいだろう。
無意識とはいえ、二回ほど宙に浮いてはいるものの、あれをカウントするのは試神は嫌だった。
「そろそろ本格的に魔法を使えるようにしなきゃとは思っているんだけど、どうも……この杖っていうのが合わんのよなあ」
「……合わないとは?」
試神が杖を手に取ると、指揮者のように左右に振ってみせる。
「俺の中で、魔法を使うことと杖を振ることが結びつかない」
「……はあ」
「郷に入っては郷に従えで、そういうもんと思えばいいんだろうけどさ。俺の中で、杖はあくまで出力装置なんだよ」
「ほう」
「魔法というパッケージ化されたものを、杖っていう出力装置を使って外部に具現化させる。これが俺の中の魔法なんだよ」
「へえ」
「だから魔力っていう材料を用いて、一から魔法を組み立てていくっていうのが経験ないから、杖をどう使えばいいのかあんま想像できんのよな」
「…………めんどくさいなあ、この人」
「なんか言ったか?」
「いえ、別に」
コホンとひとつ、タタンが咳ばらいをする。
「まあ、魔法の経験がないのは当たり前ですね。地球はそもそも魔法が使えないので、もし経験があれば驚きです。試神さんが持つそのイメージは、なにか地球で作られた作品から持ってきたのだと思いますが……」
一度言葉を区切り、少し、試神の持つ杖を見た。
「逆に、そこまでイメージが固まっているのでしたら、そっちの方向で固めるのがいいかもしれませんね」
「固める?」
「私はあまりパッケージ化された魔法というものに馴染みはありませんが、要は固有魔法みたいなある一定の能力で固定化された魔法ということでしょう? 需要としてはあり得なくもないので、そういう機能をもった杖……があるかはわかりませんが、それに近しい道具はあるかもしれません」
「本当か?」
「固有魔法と比べると当然、力は及びませんが、魔法に慣れるにはそっちがいいというのであるならば、探してはみましょう」
本当にあるかどうかはわかりませんがね、とタタンが念押しするが、それでも試神は十分だった。形も、杖に拘る必要なない。
「あとは、どうやって探すかですかね。千差さんにも協力をお願いして、広く探しましょうか」とタタンが顎に手を当てたとき。
「それ……ぼくが手配します」
事務所の隅から、声がした。
今まで自席でひっそりと、静かに読んでいた小説にスピンを挟み、顔を上げる。
「多分……大丈夫だと思います」
「……本当ですか?」
タタンが聞くと、うん、と返答が返ってくる。
「まだ確かめたわけじゃないのでそうとは言い切れないませんが……そんな道具があるって聞いたことがあります。それに、もしその情報が間違っていたとしても、タタンさんよりぼくのほうが……そっち方面の伝手は多い」
「なるほど。確かに、それはそうかもしれませんね」
腕を組み、タタンが試神を見る。それでいいか確認を取っているようだが、試神からしてみれば、誰が手配しようが関係ない。
「じゃあ、お願いできますか」
了解、ということなのだろう。
フランケンのような大男の頭がゆっくりと、縦に動く。
そして、今から手配をかけるのだろうか。小説を持ったまま立ち上がり。
「そうだ……神羅さん」と名前を呼んだ。
「ほかになにか要望があればきくけど……なにかある?」
「……要望」
「パッケージ化して欲しい魔法とか、貯められる魔力の量とか」
それは、ある。
だが、今からそれを決めるとなるとすぐに判断は無理だ。
特にパッケージ化する魔法は、すぐには決められない。
そもそも、どういう形になるかでも変わる―――
「―――あ、それなら」
「ん?」
一つだけ。
「見た目だけ、我がまま言っていいですか?」
もちろん。
ガブリンが、にこやかに頷いた。




