第104話 ありえるだろうよ
墓蒔がもう一度、形身代わりを心殺に見せる。
見せびらかす、のではなかった。
「なあ姉ちゃん、ひとつ質問なんだが、こいつに魔力を感じるか?」
「え?」
「魔力、もしくは魔法を感じるか?」
感じない。
心殺の答えはそれである。
形身代わりだけではない。
異物全般に言えることだが、魔力というものを一切感じないのだ。
だが、それが一体どうしたの言うのだ。
「これは俺様の考えなんだけどな」
墓蒔がそう、前置きをする。
「ダンジョンは生き物で、捕食活動を行うために零時になるとリセットする。そんでその搾りカスが異物だ。だとしたら、いったいなにを搾り取ったカスなんだろうか。いったい、なにを搾り取られたカスなんだろうか。」
心殺は答えない。
それが自分に向けられた質問ではないことくらいわかっている。
「それは、異物が魔力を一切感じないってことからわかんだろ? 魔力だよ。魔力を搾り取られたんだ。そんで、その搾り取られた魔力は、どこにいくと思う?」
「…………なるほど」
言いたいことがわかり、小言を漏らした。
墓蒔が「勘がよくて助かるぜ」と笑う。
「そうだよ。搾り取った魔力は集められて固められて、魔石となる。そんで、絶命洞窟に湧き出てくる。絶命洞窟が捕食活動を行わないのも当然だな。絶命洞窟は普通のダンジョンとは違い、捕食活動を行う役割じゃない。魔力を蓄える役割なんだから」
異物が排泄物だとしたら、魔石は脂肪のようなものなのだろう。
食べたものを分解し、余ったものを蓄える。
悪くない考えだと、心殺も思うが。
「だとしたら、世界中のダンジョンと絶命洞窟―――いえ、アシタガタリのある個所は、すべて繋がっていることになります」
友情崩壊ダンジョンと絶命洞窟は繋がっているわけではない。
絶命洞窟を歩いているウチに友情崩壊ダンジョンに出てしまった、なんてことはないはずだ。
友情崩壊ダンジョンのみならず、ほかで回収した魔力をどうやってアシタガタリのある個所まで送るというのだ。
そしてもう一つ。
「なんのためにほかのダンジョンは、魔力を集め続けているのです?」
「…………」
「ダンジョンが生き物で、生きるために捕食をしているのは良いとするのです。その理由が魔力を絞りとるためならば、なぜ絶命洞窟から魔石を―――魔力を取らないのですか?」
人間が脂肪を蓄えるのは、余ったエネルギーをいざという時に使えるようにするためだ。
ダンジョンもそれが同じならば。
捕食活動なんて行わなくても、エネルギーそのものである魔石を使用すればいいだけだ。
そのほうが手っ取り早い。
「『ラストワン』は知らないでしょうが、採掘した魔石はきちんと管理しているのです。絶命洞窟のどこにどのくらいの魔石が蓄えられているのか、創造根底館が把握しています。そして、その魔石が不自然に減ったことなど、一度もないのです」
ダンジョンが絶命洞窟に魔力を送っているのなら、当然その逆も可能だろう。
それなのに、減った記録がない。
貯めるだけで、使われたことがない。
そんなこと、ありえるだろうか。
「ありえるだろうよ」
考えを見透かしたように、墓蒔が言った。
「使ってないのは、まだ使う時じゃないからだ。だから今必死に来るべきに備えて、魔石を蓄えてんだよ。ダンジョンがリセットを繰り返すのも、必死に蓄えた魔力を―――魔石をガンガン消費されてるからだ。だからガンガン魔石を生むし、ガンガン人を食べる。ガンガン魔力を集めたくて、異物も人を呼ぶように変わっていくんだろ」
「その使う時とはなんなのです?」
「それは知らん」
墓蒔が両手をあげ、心殺が溜息を吐いた。
「―――だが」
と。
墓蒔が続ける。
「その魔石を使うやつは、なんとなくわかるぜ」
「使うやつ? 誰なのです」
「決まってんだろ。異球だよ」
―――異球がでっけえ魔法を使うために、魔石を貯めてんだよ。
「うはは。そう考えれば、ダンジョンと絶命洞窟が繋がってるのもわかんだろ? 異球っていう体の上なんだから、魔力を自由に移動できて当然だよな?」
絶命洞窟と友情崩壊ダンジョンは繋がっていない。
それは、単体で見た話しに過ぎない。
異球上ではその二つは。
いや。
すべてのダンジョンは、繋がっていると言ってもいいだろう。
「ダンジョンが生き物なら……異球もまた、生き物、ということですか」
「さてね。俺様の勘だと、異球は生き物っていうより、『意思がある物』っぽいんだけどな。生物というよりプログラムに近い感じ。なにかの条件を満たすために異球は動いてて、その条件を満たすために『ダンジョン』って言う化け物を体内に飼っているって気分だ」
「その考えで言うと、『魔法を使いたい』が条件じゃないのですか?」
「これも同じく『さてねえ』と返すぜ。姉ちゃん。正直なところ、今までの考えを人に話したことはないんだ。俺様の頭ん中だけで組み立ててたもんだから、細かいところまで考えられちゃいねえんだ」
そもそも、これが正解かっていう判断をしてくれるやつもいねえしな。墓蒔が笑う。
なかなか壮大な話しになってきているが、否定するほどの材料が心殺にあるわけでもない。
ダンジョンに足を踏み入れたことも今日が初めてであるし、絶命洞窟なぞこの目で見たことすらないのだ。そんなので十分に議論なぞできるはずもない。
ただ、気になるのは。
「では、異球が使いたい魔法とは、なんなんですか?」
「さっきも言っただろ。俺様は知らん」墓蒔がひらひらと手を振る「自分の体の上で好き勝手やる人間をどうにかしたいのかもしれないし、自分の体を―――異球の体積を増やしたいだけなのかもしれん。他の星を侵略したいのかもしれんし、遠い未来、隕石がぶつかろうとしてきたときに魔法を使って回避したいのかもしれん。そこは『いざというとき』のお楽しみだよ」
「……なるほど、なのです」
心殺に嘘を見抜く力も、そんな特技もないが、なんとなく嘘を言っているようには思えない。
そして。
異球が魔法を使うために魔石として魔力を蓄えている、という話しも、今考えた出まかせとも思えなかった。
なかなか興味深い話だった。
ダンジョンに興味はなかったが、少し調べてもいいかと思うくらい。
「では、そろそろ話しを戻しましょうか、『ラストワン』。それで結局、あなたはなにが言いたいのですか?」
「んあ?」
「異球が魔法を使おうと魔石を貯めてるから、なんとかしてほしいとでもいいたいのです?」
「まさか」
形身代わりを腰に付けて、両手を自由にする。
「その仮説通りなら、俺様は絶命洞窟に侵略できるぜ、って言いたいだけだ」
もし、絶命洞窟がダンジョンであるならば。
墓蒔の固有魔法は、発動可能だ。
「適当な奴ひとり連れてって、そいつが死んだ瞬間に<ラストワン>発動。そうすればどうなっちまうかなー?」と、墓蒔が挑発する。
「……なるほど。やっぱりあなたも創造根底館の敵、ということですか」
「んなもん最初からわかってたことだろ―――っていいたいところだけど、ちょっと違う。俺様は、遊びたいだけなんだよ。全力で遊べる奴を探してんの。……実をいうとさ、この固有魔法にしたこと、ちょっと後悔してんだよね」
「……後悔?」
「だってそうだろ? <ラストワン>を発動したら、遊ぶ暇なくみんな一瞬で死んじまうんだから」
「…………」
「せっかく縛りプレイしてまで楽しんだダンジョンも、<ラストワン>を発動したら一瞬で終わっちまう。じゃあ、創造根底館の奴らくらいしか、遊べるやつはいないじゃんか」




