第99話 もちろん
駅に向かって歩いていく試神の背中を目で追っていく。
途中、ポケットから携帯を取り出すと、そのまま耳に当てていた。自分でかけたのか、それともかかってきたのかはわからないが、相手はあのタタンからだろうか。
少しだけ、冷や汗をかく。
……危なかった、と墓蒔が息を漏らす。
創造根底館のタタン。
顔と名前だけしか知らないが、詳細な情報も、固有魔法も一切知らないが、三年前、突然創造根底館の館長に就任した天才。
話しを聞くにどうやら前の所長であった生害 死良に半ば強引に押し付けられたらしいのだが、そんなことはどうでもよかった。
タタンに、『アシタガタリ』を任されるだけの能力があった。
それだけしか重要なことはない。
(……どうやら、普通の青年っぽいんだけどねえ)
墓蒔も、少しくらいは創造根底館について調べたことはある。
ほとんど情報は出て来なかったが、顔と名前だけは簡単にわかった記憶がある。
逆にそれ以外……そこで働いている職員の数や固有魔法は一切わからなかった。
友情崩壊ダンジョンで出会った『アイアンメイド』についても、どこかに記載があったわけではなく、別のところから仕入れた情報である。
「職員であれなんだから、タタンってやつはもっと厄介なんだろうな」
さすがに、今、創造根底館のトップとやり合うことは避けたい。
アイアンメイドは助けられなくてもいい、というようなことを言っていたが、着信やチャットの数を見るにタタンというやつはどうもそうじゃないようだ。
確か、18歳とどこかに書いてあった記憶があるので、同年代として親近感があるのかもしれない。
「俺様も18歳ってことで、油断したりしてくんねえかなー」
そうすればもしかしたら、殺せるかもしれない。
「……まあ、それはあとのお楽しみにとっておきますか」
今は別に、相手をしなきゃいけない奴がいる。
そのために、わざわざこうして残っているのだから。
やり残したことがある。
殺り残したことがある。
「まだかなー、まだかなー」
試神の背中が小さくなっていく。
一回、こちらを振り返ったような気がしたが、ほかの人に紛れてすぐわからなくなった。
ほかの人も、帰るころなのだろう。
駅に向かう人の数が増えていく。
『ラストワン』と『創造根底館の職員』の邂逅というイベントが終わったのだから、そのせいもあるのだろう。観客からしてみれば試神と仲良く出てきたように見えたので肩透かしをくらったかもしれないが、プロレスをやっているわけではないのだ、別に客を喜ばせる義理はない。
「まだかなー、もうちょいかなー」
うきうきになりながらも。
駅に向かう人の中に、お目当ての人物が混ざっていないか確認する。
アイアンメイド。
あの姿を見逃さないように、ニヤニヤと、周りを観察する。
「ダンジョンって、普通は入口以外から出入りはできないはずだから、ここで待ってれば最悪見つけられるはずなんだがなあ」
それも、創造根底館の職員なら可能なのだろうか。
普通も常識も通用しない、あの規格外の連中なら……。
もしそうだとしたらお手上げだが、そうじゃない場合、ここで―――友情崩壊ダンジョンの入口の前である多死悲喜交々の前で張っていれば、出てきたかどうかわかるだろう。
「早く来い、早く来い」
ダンジョンにもぐりたい気持ちをこらえ、その時を待つ。
墓蒔にしても、このパターンは初めてだったため、もしかしたらダメなんじゃないかと少しばかり不安であったが。
予想通り。
そのときが、来た。
―――パーティーメンバーが一人になりました。
墓蒔の頭の中に声が響いてくる。
聞きなれた、男とも女とも肉声とも合成音ともわからない声。
「……やっとか」
殺す以外に一人になることがなく、本当に発動できるか不安であったがなんとかなったらしい。
試神が離れ、パーティーから抜けて、墓蒔一人になった。
発動条件が、満たされた。
頭の中に、誰とも知らない声で、質問が一つ投げて、寄こされる。
――ラストワンを発動しますか。
「もちろん」
是しかないだろう。




