↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で目覚めた俺。スキルも魔法も使えなくて絶望する ~神羅 試神の転生召喚~  作者: ねすと
神羅 試神のダンジョン探索 ―― 第八章 ――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
101/153

第96話 発動条件なんだよ

「――もういいよな」


 吐きながら言った声が掠れてしまっている。果たしてそんな声で相手に聞こえるか怪しいものだったが、後ろをついてきた墓蒔は「そうだな」と、普通の声で言った。


 顔にはうっすら笑みさえ浮かべている。もともとその形で固まっているかのような顔だが、そんなわけないのだろう。

 笑う余裕さえある、ということなのだろうか。


 大したものだった。

 あれだけ走ったというのに。

 滅茶苦茶に無茶苦茶に、駆け抜けたというのに。

 

 墓蒔は、息一つ乱していなかった。


「ついてきてる様子はねえな。うまくまけたみたいだ」


 後ろを見ても、真っ暗なので直前まで近寄らなければわからないだろう。しかし。物音はしないのでおそらく大丈夫。

 

 見つける度に曲がった角。もう正しい道なんてわからなくなってしまったが、そんなこと考えてる余裕なんてなかった。


 肩で息をしていた試神は最後に大きく息を吐いて、それからへなへなと座り込む。

 それを見て、墓蒔が吹き出した。


「よく、そんなを荷物を持って走れたもんだ」


「何度投げ捨てようかと思ったけどな」


「大したもんは入ってねえんだから、捨てればよかったのに」


「捨てるなら、ここじゃなくてゴミ箱に入れるよ」


「うはは」


 墓蒔は軽く笑って。

「お前さ、なにしてんの?」

 笑ったまま、真顔になった。


「……なにって、なんだよ?」


「そのまんまの意味だよ」


 あまりの物言いに口を尖らせる。光源を失った試神から見れば、墓蒔はうっすらと輝いてみえた。


「なんで俺様を助けたのかってこと」


「……………………」


「俺様、お前のこと突き落としたんだぜ?」


 トン、ってな。ジェスチャーつきで墓蒔が説明する。


「やっぱり、わざとだったのか……あれ」


「当たり前だろ。冗談で突き落とすかよ」


「なんでだ?」


「その前に、俺様の質問に答えて欲しいな」と墓蒔が言った。「なんで、助けたの?」


 墓蒔の顔はにやけているが、面白そうではなさそうだった。

 面白くなさそうに、笑っている。


「別にパーティーメンバーだからって、助けなきゃいけない義理はないんだぜ?」


「…………」


 試神はしばらく黙っていたが、やがて諦めたように言った。


「お前を見つけたからだよ」


「は?」


「出口を探している途中で、お前を見つけたから。それ以外に理由はない」


「……なにそれ」


「残念ながら、真実だ」


 穴から落ちて、知らない場所にいて。

 助けも呼べない状況になって。

 とりあえず誰かいないかと、勘を頼りに歩き出して。


 そこでさまよっているとき、光を見つけたのだ。


 誰かいる。

 期待に胸躍らせながら近寄ってみると、それが墓蒔だというのが分かった。


 引き返そうかな、と思ったのは事実だった。

 足を止め、息を殺し、気付かれていないか様子を伺ったのは確かだった。


 そして、見てしまったのだ。


 墓蒔が殺されそうになっているところを。


「俺は、目を汚したくない、脳を黒に染めたくない」


 だから。

「死ぬなら、俺の見えないところで、知らないところで勝手に死んでくれ」


「…………」


「俺の手の届く範囲で死ぬようなら、何度でも助けようとするよ。あくまで俺が怪我しない範囲で、だけど。……知っちゃったら、知らんぷりはできないからな」


 見て見ぬふりをすることはいくらでもできたが。

 それで墓蒔が死んでしまったら、それは傷になってしまう。


 見捨てたという傷が、助けられたかもという傷が、なにかできたかもという傷が。

 心に傷が、残ってしまう。


 時が経てば勝手に消えるかもしれないが、それを待ってはいられない。


 だったら、助けたほうが楽なのだ。


 それが人として正しい行為だとしたら、いつかこの記憶を思い出したときに、少しでも誇らしい気分になれるのだとしたら。


 それは十分、やる価値がある。


「お前は、恨んでねえの? 俺様のこと」


「恨む?」


「ムカつかねえの、っていってもいいかもしんねえけど」


 恨む。

 ムカつく。

 

 試神だって人間だ。突き落した人を前にしてなにも思わないほど、感情を捨ててはいない。

 当然、思った。腹が立った。


 だが。

「俺は、自分を汚したくないんだ。一通り相手を恨んで呪って蔑んだら、許すことにしてんだよ」


「…………」


「負の感情をずっと持ってても、いいことはないしな」


 理解できるか? そう意味をこめて墓蒔に目線をやると、彼は首を横に二回、振った。理解できない、ということだろう。だが、それでいい。


 わかってもらおうなんて、思っちゃいない。


 これは自分ルールのようなものなのだ。

 理解されなくても、粛々とこなすだけだ。


 機械のように、淡々と。

 心を、感情を、新陳代謝させて綺麗にする。


「―――さ、俺は答えたぞ。今度はこっちの質問だ。なんて、突き落としたりしたんだ」


 墓蒔が肩をすくめる。まさかこのまま答えないつもりかと思ったが。


「発動条件なんだよ」


「……あん?」


「ラストワン。それが俺様の固有魔法の名前。その発動条件が、パ(・)ー(・)テ(・)ィ(・)ー(・)が(・)俺(・)様(・)一(・)人(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)と(・)き(・)に(・)の(・)み(・)発(・)動(・)可(・)能(・)ってものでな。それを使うため、お前に退場してもらう必要があった」


 だから、突き落とした。

 仲間を殺して、自分一人に―――パーティーメンバーが、自分のみになるために。


「……固有魔法に、発動条件なんてあるのか?」


「ないやつのほうが多いんじゃね? でも、俺様はあえてつけてる。そのほうが面白いって理由でな」


 理解できるか? そう目線に乗せて訊かれた気がしたので、こちらも首を振って否定してやった。


「それでいいよ、俺様もわかってもらおうとは思ってない。でもま、そういう理由なわけだ」


「ふーん。なるほどな。理解はできんけど、納得したわ」


 ……納得? と、墓蒔は首を傾げる。


「俺を突き落として、一人になったから、そのラストワンってやつが発動したんだな?」


「……んあ?」


「ラ(・)ス(・)ト(・)ワ(・)ン(・)が(・)使(・)え(・)る(・)様(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)、(・)あ(・)ん(・)な(・)ラ(・)ス(・)ボ(・)ス(・)み(・)た(・)い(・)な(・)奴(・)と(・)戦(・)っ(・)て(・)た(・)ん(・)だ(・)ろ(・)う(・)?(・)」


「…………ふーん」


 なるほど、と墓蒔が思う。


 そういえば、なぜ助けたかの前に、訊かなければいけないことがあった。


 なぜ、お前は逃げたんだ? と。

 あれはお前の仲間だろう? と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。