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シュレーディンガーの居酒屋 〜観測が世界線を書き換える〜  作者: アイアイ
イマジナリー・ラインの観測
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19/24

17話 境界の門、開門 ― 二極の強襲


1. 【虚空の直談判】 ― 残り一回の契約、神獣は宇宙に吠える



それは、実数世界のいかなる望遠鏡も捉えることのできない、絶対零度の漆黒。


物質も、時間も、光さえもがその意味を失って凍りつく、次元の断層の最深部であった。


 つい先ほどまで居酒屋『パラレル・ライン』のコンクリートの地下室に佇んでいた、銀髪の少女の姿をした高位精神体の身体が、足元からサラサラとした青白い光の粒子へと崩れていく。


現実世界に仮初めの質量を留めていた彼女の肉体は、精神体化する質量と引き換えに、彼女が管理する固有の「異空間ストレージ」へと滑り込み、この地上から完全にその輪郭を消失させた。


肉体という不自由な枷を脱ぎ捨て、本来の傲岸不遜な精神生命の純粋状態へと先祖返りした彼女の意識は、次元の縫い目が最も薄くなった虚空の座標へと、一瞬にして跳躍を遂げていた。


そこは、無数の可能性の宇宙マルチバースの根底を厳然と統べる絶対意志――『カーネル』の領域。


 形もなく、色もなく、どこに中心があるのかすら定かではない。


ただ、無限の宇宙を記述する数式の羅列そのものが、圧倒的な質量を伴う霊的な気配となって、彼女の演算回路を木っ端微塵に押し潰さんばかりに満ち満ちていた。


常人であれば、その気配に触れただけで精神のメモリを焼き切られ、忘却の彼方へ霧散するであろう神の領域。


 そもそも「カーネル」という名すら、彼にとっては意味を持たない。


自分以外の矮小な存在が、自分という巨大なシステムを識別するために勝手に用いている呼称を、ただ演算の便宜上、受け入れているに過ぎない絶対の虚無。


だが、人間たちから『デジット』と呼ばれているその精神体は、その見えない虚空に向かって、傲慢に、けれど剥き出しの牙を剥くようにして精神の波動を叩きつけた。


『――おい、カーネル! 居留守を決め込むな。聞こえているのだろう。こちらの論理パケットを拾え!』


それは音声としての言葉ではない。


精神の波形を直接、神のシステムへと叩きつけるような、不可思議で鋭利な念話だった。


 一拍の、心臓が止まるほどに重い静寂。次の瞬間、彼女の脳髄を直接内側から激しく明滅させるような、無機質で、地鳴りのように冷徹な「音律」が虚空から返ってきた。


 絶対意志は、目の前の精神体を「デジット」とも、零が勝手にハメ込んだ「神獣」という安易なコードでも呼ばない。


ただ、個体を識別する純粋なシステムサインとして、その無機質な意思を返した。


『……拒絶。汝のアクセスログは、現時間軸における許容規定値を大幅に超越している。実数世界への速やかなる帰還、およびサーバーへの再接続を要求する……』


『うるさい、黙れ! 帰る前に、お前の堅物なシステムにねじ込まねばならん論理がある。……神崎真零。あの女に下される、次の任務についてだ!』


 彼女は目に見えぬ虚空を鋭く睨みつけ、精神の爪を立てるようにして強制的に念話を割り込ませた。


『今回の、別宇宙「スカラー」の領域へ赴く、あの迷子の科学者――乃亜の意識救出劇……これを、真零の「公式任務コマンド」としてシステムに強制カウントしろ!』


『……否決。当該事象は、特定個体の私情に属する重篤なエラーログである。マルチバースの均衡を保つカーネルの方針に非ず。システム資源の無駄遣いである』


『エラーなものか、この分からず屋のシステムめ!』


 彼女の念話が、怒りで青く爆ぜる。


『乃亜がスカラーの歪んだ理に完全に上書きされ、あの別宇宙の駒に成り下がってみろ。彼が観測し続けてきたこの世界の実数定数だって、根底からドミノ倒しみたいに歪むぞ。それはカーネル、お前ににとっても致命的なバグになるハズだ。真零の魂に刻まれた契約は、あとたったの一回……「残り1回」で満了を迎える。だったら、その最後の1回を、このスカラー強襲作戦に割り当てろ! 彼女に公式のバックアップと環境適応能力を付与し、その対価として、彼女の契約を綺麗さっぱり終わらせてやる!』


『…………』



虚空が、まるですべての演算が停止したかのように、凍りついた静寂に沈んだ。


巨大な神のシステムが、彼女の提示した「世界の崩壊リスク」と「エージェントの契約満了」という二つの天秤を、人間の脳では数億年かかる速度で再演算しているのだ。


『……再演算。……秋月乃亜は例外的な観測価値を有する。……当該個体の完全消失は推奨されない』


 その緊迫した沈黙の隙間に、彼女の背後から、もう一つの静かで、けれどガラスのように透き通った念話が重なった。


『僕からも頼むよ、カーネル。僕というバグの存在を、その優しい主観で許容してくれた「父親(壱)」を、あちらの理に殺させるわけにはいかないんだ。僕のヒーローを、守らせてくれ』


レイイチの意識もまた、大空に青い翼を広げるようにして、彼女のすぐ隣へと並び立っていた。


 二つの強大な高次元精神体の意志が、宇宙の最果ての闇の中で、絶対的な神のシステムへと深く、深く、ねじ込まれていく――。







2. 【魔女の塵払い】 ― 地下室の調律、そして翠松町への道標



その頃、地上の居酒屋『パラレル・ライン』の1階では、夜の営業準備の静寂を切り裂いて、全く別の「理外の存在」がその暖簾をくぐっていた。


静まり返った店内に、カラン、と場違いなほどに軽やかで涼しげな鈴の音が響き渡る。


 カウンターの奥で、間もなく始まる夜の営業に備えてグラスを磨き、おしぼりを整えるなどの開店準備をしていた陽菜が、「おや?」と怪訝そうに顔を上げた。


そこに、いつの間にか滑り込むようにして座っていたのは、一人の妙齢の女性だった。


 厨房では、マスターが夜の仕込みの手を止め、鋭い視線をその背中に向けている。


見た目の年齢は20歳から22歳ほど。


瑞々しく滑らかな肌と、どこか異国の夜を思わせる、憂いを帯びた美しい容姿。


けれど、その身に纏う空気は普通ではなかった。


一瞬見ただけで、実年齢が優に500年を超えていることを直感させるような、悠久の歴史の深みと、嵐の前の凪のような圧倒的な静けさを湛えていた。


「いらっしゃいませ。……あの、恐れ入ります、当店はまだ開店前なんですけど……」


 陽菜が戸惑いと、本能的な警戒心を滲ませながら声をかけると、その女性は、子供がいたずらを思いついたかのように、ふっとお茶目に微笑んだ。


「ごめんなさいね。依頼を受けて、急いで飛んできたの。――ねぇ、ビットちゃん。お掃除の場所はここ(地下)でいいのかしら?」


「え……?」


 陽菜が困惑するより早く、奥の引き戸が静かに開き、ビットが足早に姿を現した。


ビットはその女性の顔を見るなり、敬意を込めて深く頭を下げた。


「――かがり様。急な要請にもかかわらず、これほど迅速にお越しいただき、心より感謝いたします」


「ビットちゃん、前に地球で会ったときは猫だったよね。『ビット』ってかわいい名前までついちゃってて。ふふ、今はその恰好なんだね。よく似合ってるよ、とっても可愛い」


魔女・沙藤篝さとう かがりは、ビットが今その身に宿している「美しい黒人女性の肉体」をじっと見つめ、すべてを察したように優しく、どこか楽しげに目を細めた。


 本来の名を持たぬ高位の存在であり、かつては四足歩行のしなやかな獣の器で気まぐれに実数世界を歩いていた彼女が、なぜ今回はこの器(肉体)を選び、人間の男が名付けた記号を大切に受け入れ、この居酒屋に留まっているのか――その胸の内にある愛着と変化のすべてを、大魔女は見通して微笑んでいた。


「いいのよ、ビジネスなんだから。はい、これ、いつものやつね」


 篝は懐から、まるでどこかの清掃業者のような年季の入った「叩き」と「雑巾」を引っ張り出してみせた。


 彼女は魔法によって世界線を超える「渡り」を可能にする文字通りの大魔女であったが、同時に頑ななまでの「掃除屋」でもあった。


それ以外の戦闘や交渉といった依頼は、どれほど対価を積まれようとも一切引き受けない。


だが、その代わり「境界の塵払い」に関してだけは、彼女の右に出る者はマルチバースのどこを探しても存在しなかった。


「光栄でございます。さあ、こちらへ。いずれ訪れる本番の運用に向け、転送機と地下室そのものの調律をお願いいたします」


 ビットの案内に従い、篝はカウンターの脇を抜け、地下へと続く重い扉を開けた。


陽菜は動きを止めたまま、その背中を見送るしかなかった。


なぜなら、すれ違いざまに魔女の黒い瞳が陽菜の身体の奥底――さきほどリミッターを解除したばかりの、暴発寸前で渦巻いている高密度な「白い奔流」を、一瞬にして正確に透視していったからだ。


「あら……? あなたも魔法使い? んー、でも、なんか波長が違うね。……あぁ、なるほど。これは『霊力』だ。ずいぶんと分厚くて、お行儀のいい、綺麗な力」


 それだけ言い残して地下へ下りていった若い女。陽菜の背筋に、ドクン、と冷たい衝撃が走った。


(な、な、なにこの子。……なんで私の力のことがわかるの!?)


 額にじっとりと嫌な汗がにじみ、陽菜の全身が硬直する。


上京して以来、東京の誰一人として見破ることのできなかった長沢家の血脈を、目の前の女は、まるで道端の雑草の種類でも言い当てるように、あまりにも容易く口にしたのだ。


その頃、重苦しいコンクリートの地下室へと下りた篝は、剥き出しの配線や精密回路が並ぶ高次元転送装置の前で、おもむろに白く細い手を空間にかざしていた。


 彼女が雑巾で機械の表面をさっと拭い、叩きを空間にひと振りするたびに、目に見えない次元の塵――世界線が交差する際に生じる空間の細かな歪みや、航路の致命的なノイズが、まるで熟練の職人が煤を払い落とすように、サラサラと綺麗に消滅していく。


その、あまりにもあっけなく、けれど絶対的な「掃除」の光景を見つめながら、ビットは今回の救出作戦の背景を打ち明けた。


「篝様の魔法によって、翠松町へと続く航路の次元ノイズは完全に『ゼロ』へと調律されていきます……。これならば、来るべき作戦でスカラーの理に突入しても、空間の捩れに押し潰されることはありません。ですが……地上では、あのモノリスの出現に伴う騒動から生まれた過激な崇拝派が不穏な動きを見せており、非常に予断を許さない状況なのです」


「のあ……とかいう科学者のアバター奪還の話? 悪いけど、私、掃除以外の揉め事には一切関わらないからね」


 篝は機械のノイズを払いながら、事も無げに、実につまらなそうに言った。


500年以上を生き抜き、無数の世界と因果を渡り歩いてきた大魔女にとって、人間たちの小競り合いなど、知ったことではなかった。


だが、篝はビットの口から出た「モノリスの騒動」という単語に、ふと何かを思い出したように、悪戯っぽく唇を吊り上げた。


「あぁ、でもあれなら覚えてるよ。前に死んだはずの女の人が急に帰ってきたとかで、世界中の政府や軍、それに倫理の仮面を被った狂信的な宗教団体までが、ヒステリックになって金切り声を上げて大騒ぎしていたでしょう? あの時ね、たまたま私、退屈しのぎにこっちの地球に遊びに来てたんだけど……。世界中から湧き上がる人間の強欲な好奇心と、恐怖の波長が、もう、耳障りで耳障り。とにかくノイジーだったのよね。私の優雅な休暇が台無し」


「……まさか、あの不自然なほどの急速な世界の熱狂の収束は……」


ビットがゴクリと息を呑むと、篝はパタパタと装置の裏側の埃を払う動作のまま、まるでお天気の話でもするかのように、お茶目に微笑んだ。


「うん。あんまりうるさいから、魔法でちょいっとね。人間の関心を強引に別の方へ逸らして、世界中の認識を書き換えて騒ぎを収めちゃったの。『モノリスなんて人知を超えたものが出現したんだから、死人が一人生き返るくらい不思議じゃないよね』って、みんなが脳内で勝手に納得して、諦めるようにね」


さらりと告げられた、人知を遥かに超えた規格外の事実。


誰かを憐れんで救うためではなく、ただ「世界のノイズが自分にとって不快だったから」という、あまりにも理外で絶対的な理由だけで行われた世界規模の精神改変。


さしもの高次元の存在であるビットも、一瞬だけ全演算回路が完全にフリーズしたように、言葉を失って立ち尽くした。


「……ま、そんなわけだから、その崇拝派?とかいう子たちの術がどれだけ小賢しくても、私にはみみっちくて関係ないお話。それよりも、翠松町、ね。あそこは、色んな人の強い想いが混ざり合う、とても優しい、けれど……とっても危うい街」


篝はすべての塵を払い終えると、道具を仕舞い、ビットの瞳を真っ直ぐに見つめて、確かな道標を告げた。


「もし翠松町へ行ったら、『ヴァイオラ』と『闇雲』という子を訪ねなさい。二人を頼れば、きっとあなたたちの大きな力になってくれるよ。……あと、その周りにいる何人かもね。私の名前を出せば、どんな無茶な願いだって聞いてくれるハズだから」


「ヴァイオラ様、と、闇雲様……」


 ビットはその音節を、一文字も零さぬよう深く演算回路の最優先セクターへと刻み込んだ。「ありがとうございます、篝様。完璧なお仕事でした」


「いいのよ。私はただの、お掃除係だから」


 篝は満足げに微笑むと、役目を終えた影のように、輪郭を朧気にしながら、再び空間へ溶けるように姿を消した。


その後に残された地下室と転送装置は、驚くほどに透明で澄み切った、翠松町へと真っ直ぐに繋がる完璧な「航路」の座標を指し示していた。







3. 【未来からの落とし子】 ― 試運転テストの怪異



篝が去った直後の地下室。


 カーネルとの壮絶な交渉を終えた彼女の意識が、現実世界へと帰還した。


彼女の精神がトリガーとなり、異空間のストレージに保管されていた肉体が呼び出され、空間に満ちる光の粒子を急速に吸引しながら、再びその場に完全な質量を持って、人間たちから『デジット』と呼ばれる銀髪の少女の姿を「再受肉」させる。


「通したぞ……! カーネルの頑固なシステムをねじ伏せた! 奴、今回のスカラー強襲を公式任務コマンドとして承認しやがった! 零の魂に縛られた最後の『残り1回』の契約、この作戦の成功をもって、綺麗さっぱり完全満了させてやる!」


彼女が現実の肉声で勝ち誇ったように叫ぶ。


 その隣には、驚天動地の方法で合流を果たしたレイイチの姿もあった。


彼は、器を保管する異空間を持つデジットとは違い、その都度、肉体を生成せねばならない。人間が多く住む地上では物質を吸収する際に周囲を破壊してしまうため、東京湾の遥か洋上――完全に人目を避けた荒天の海上で、周囲の膨大な海水と大気成分を媒介にして、猛烈な水竜巻のごとき暴風を起こしながらその肉体を急ピッチで「セルフビルド」していたのだ。


地上では「突如として海上に巨大な謎の竜巻が発生した」と気象台が大騒ぎしている中、彼は海上でばっちり受肉を完了させると、自らの『身体を透明にする能力(不可視化)』を発動。


誰の目にも触れぬよう完全に姿を消したまま東京の街を駆け抜け、この地下室へと何食わぬ顔で実体を持って戻ってきたのである。


「完璧なタイミングです。デジット、それにレイイチ」


 空間の最終調整を終えたビットが、新調された制御パネルにその指先を走らせる。


次の瞬間、彼女の美しい褐色の身体もまた、装置の駆動エネルギーと完全に同化するように、サラサラと眩い光の粒子へと還っていった。


彼女の肉体そのものが、この地下室の空間全体を覆う巨大な演算回路として機能し始めたのだ。


「篝様の手によって、翠松町へと続く航路の次元ノイズは完全に『ゼロ』に調律されています。……これより、今後の本格的な作戦運用に向けた、高次元転送装置の試験テスト起動を行います」


ズウウン、と地底から響くような重低音とともに、地下室にかつてない純白と深青の極光が爆ぜる。


 デジットの放つ『神隠し』の異能と、粒子化して空間を満たすビットの回路。


純粋な高次元のエネルギーだけが激しく共鳴を起こし、何もない空間の真ん中に、バリバリと空間を引き裂くような音を立てて、実験的な「境界の裂け目」がその禍々しい口を開けた。


実数世界と虚数世界の狭間が、試運転の出力でありながらも正確に穿たれていく。


あとは今後の準備段階を経て、司令塔である壱や他の人間メンバーが揃ってから、この門を本格駆動させてそれぞれの戦地へ跳躍するだけ――その、航路の安定性データを最終確定しようとした、まさにその刹那だった。




キィィィィン――と、鼓膜を鋭く刺すような、おぞましい高周波の警報音が地下室に鳴り響いた。




テスト起動で安定していたはずの転送の光の「向こう側」から、あり得ない方向へのエネルギーの逆流――凄まじい因果の逆流タイムパラドックスの突風が吹き荒れ、地下室のコンクリートの壁を激しく叩きつけたのだ。


ビットの制御パネルがパチパチと制御不能なエラーログを吐き出し、過負荷で派手な火花を散らす。


「!? 馬鹿な、あり得ません! まだ誰も跳んでいない、ただの試験起動のゲートなのに……何者かが、境界の向こう側……はるか遠い時間軸の先からこちらの座標を逆探知して、この転送ゲートを無理やり力技でこじ開けてくる……!?」


空間そのものと化しているビットの、驚愕に引き裂かれた声が地下室に木霊する。


 完璧に制御されていたはずの光の裂け目が不自然に歪み、のたうち回り、指示された座標ではない「未知の時空」と強引に直結していく。


一階の厨房で、異変を察知したマスターが手を止め、カウンターにいた陽菜が「マスター、地下が変です!」と顔をこわばらせる。


そして――その地下室の光の深淵から、一つの影が、泥濘から這い出るようにしてこちら側の現実へと滑り込んできた。


逆光の、目を焼き切るような眩しさの中に浮かび上がるのは、誰も想像し得なかった、けれど圧倒的な、世界を押し潰すような存在感を放つ人影。


デジットの瞳が驚愕で灰色に跳ね上がり、レイイチの全身の回路がバチバチと激しい拒絶のノイズを上げる。


高位の存在である彼らの超感覚が、その乱入してきた影が纏う「この時間軸に存在してはならない、あまりにも巨大な未来のノイズ」を感知し、本能的な恐怖とともに猛烈な警鐘を鳴らしていた。


光の向こう側から、因果を、時間を、あらゆる物理法則を容赦なく踏み越えて強行介入してきたその未知の存在は、ゆっくりと、けれど確かな質量を伴って、地下室の冷たいコンクリートの床へとその足を踏み下ろした。


まばゆい極光の嵐が、嘘のようにゆっくりと収束していく。


その激しい光のベールの向こうから、完全にこの「現実」へと受肉したその人物の輪郭が、世界の命運を塗り替えるかのように、静かに浮かび上がろうとしていた。







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