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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドの働き方が変わる5つの魔法 ~受付嬢アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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【権限委譲】「自分でやった方が早い病」からの脱却 4/5

「お金の計算は、今日もエマちゃんにやってもらいます!」


アリサがキッパリと言うと、エマは「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げて後ずさりした。


「む、無理です! またギルドに損害を出してしまったら……私、怖くて計算盤に触れません……っ」

「大丈夫。絶対にギルドに損害を出さない『魔法のトレイ』を用意したから」


アリサは二つの木製トレイをカウンターに並べた。

 一つは『赤色』のトレイ。もう一つは『青色』のトレイだ。


「いい? エマちゃんは計算が終わったら、お金と書類をまずこの『赤色のトレイ』に置いてね。これは『未承認トレイ』。ここにあるうちは、まだ間違っていても大丈夫なお金よ」


「間違っていても、大丈夫……?」


「そう。そして私が、赤色トレイの金額と書類をパッと確認ダブルチェックするわ。もし合っていたら、私がこの『青色のトレイ(お客様お渡し用)』にお金を移す。お客様には、青色トレイからお金を渡してね」


アリサはエマの目を真っ直ぐに見て、力強く頷いた。


「もし間違っていても、赤色トレイの段階ならお客様の手に渡る前だから、いくらでもやり直せるわ。これが、エマちゃんのための『安全網セーフティネット』よ。……だから、安心して失敗してね」


安心して、失敗していい。

 その言葉に、エマの強張っていた肩の力がフッと抜けた。


「……はいっ! 私、もう一度だけ頑張ってみます!」


さっそく、朝のラッシュが始まった。

 昨日の失敗で自信を喪失していたエマだが、「間違えてもアリサ先輩が止めてくれる」という安心感からか、昨日よりも計算盤を弾く手が少しだけスムーズになっていた。


「アリサ先輩! スライムの粘液十瓶と、薬草五束の精算です!」

 エマが『赤色のトレイ』に、計算した銀貨と銅貨をジャラッと置いた。


アリサは自分の書類仕事の手を三秒だけ止め、赤色トレイの中身と依頼書に視線を走らせた。

 ……銅貨が二枚、足りない。


(あ、間違えてる。……よし、私がサッと銅貨を足して青色トレイに移せば、三秒で終わる)


再び「自分でやった方が早い病」が顔を出しそうになったが、アリサはグッと堪えた。

 ここで私が直してしまったら、エマは自分の計算ミスに気づけない。「失敗から学ぶ」というコーチングの機会を奪ってしまう。


「エマちゃん。スライムの粘液の『買取アップキャンペーン』の計算、もう一回だけマニュアルを見て確認してくれる?」

「えっ? あっ……! 今週は銅貨二枚分、ボーナスがつくんでした! すみません、すぐに足します!」


エマは慌てて銅貨を追加し、再び赤色トレイに乗せた。

 今度は完璧だ。アリサはニコッと笑い、お金を『青色のトレイ』へと移した。


「バッチリ! じゃあ、お客様にお渡しして!」

「はいっ! お待たせいたしました、本日の精算金になります!」


冒険者が笑顔でお金を受け取り、帰っていく。

 自分で計算し、自分のミスに気づき、そして無事に仕事をやり遂げたエマの顔には、昨日までのような怯えは一切なく、パッと花が咲いたような達成感が満ちていた。


(……すごい)

 アリサは自分のデスクに戻りながら、密かに感動していた。


私が全部やれば、エマの一連の作業は十秒で終わっただろう。

 でも、エマにやらせて、私が三秒だけ確認する仕組み(安全網)を作ったことで、私は自分の仕事をしながらでも、確実にエマを育てることができている。


権限委譲とは、丸投げすることでも、過保護に奪うことでもない。

 『最後の責任』だけを先輩が持ち、それ以外の『考えるプロセス』を後輩にすべて任せることなのだ。


数日後。

 エマの計算スピードと正確さは、見違えるほど向上していた。

 赤色トレイでアリサが「ストップ」をかける回数は日に日に減り、今では十回に一回程度になっている。


「アリサ先輩! Bランククエストの精算、終わりました!」

 エマが自信満々に赤色トレイにお金を置く。


アリサはパッと確認し、そのまま青色トレイへと移した。

「完璧よ、エマちゃん。……ねえ、もうこの赤色トレイのチェック、普通のクエストなら外してもいいんじゃない?」


「えっ! ほ、本当ですか!?」

 エマがパァッと顔を輝かせた。


「うん。エマちゃんならもう、一人で青色トレイ(お渡し)まで任せられるわ。高額なクエストの時だけ、今まで通り赤色トレイを使ってね」


「はいっ! ありがとうございます、アリサ先輩!」

 エマは深々と頭を下げ、嬉しそうに冒険者の列へと戻っていった。


自分の手から、また一つ仕事が離れていく。

 少しだけ寂しいような、でもそれ以上に誇らしいような、不思議な気持ちだった。

 アリサのデスクの上の書類の山は、エマが自立してくれたおかげで、いつの間にか綺麗に片付いていた。


「……見事な権限委譲デリゲーションだったわね」

 アリサの背後から、シレーヌが満足げに声をかけた。

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