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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドの働き方が変わる5つの魔法 ~受付嬢アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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【権限委譲】「自分でやった方が早い病」からの脱却 5/5

「……見事な権限委譲デリゲーションだったわね」

 アリサの背後から、シレーヌが満足げに声をかけた。


「シレーヌ先輩! はい、エマちゃん、すごく成長してくれました。私がいなくても、もう立派にカウンターを回せています」

「あなたが『待つこと』の苦痛に耐え、彼女から仕事の機会を奪わなかった結果よ。これであなたの処理能力は、一人分から二人分へと倍増したというわけね」


シレーヌの言う通りだった。

 エマという強力な戦力が自立してくれたおかげで、アリサはようやく「筆頭受付嬢」本来の仕事である、ギルド全体の業務改善や高ランククエストの調整に専念できるようになったのだ。


「最初は、自分でやった方が絶対に早いし確実だと思っていました。でも、それだといつかギルド全体が回らなくなるんですね」

「ええ。プレイングマネージャーが最も陥りやすい罠よ。後輩を育てる時間は『コスト』ではなく、未来の自分の時間を生み出すための『投資』なの」


アリサは深く頷き、いつものように真新しい革張りのバインダーを開いた。

 銀色の羽ペンが、さらさらと羊皮紙に教訓を刻んでいく。


【私のためのお仕事魔導書メモ


新シリーズ第2の魔法:権限委譲(自分でやった方が早い病からの脱却)


後輩が遅くてイライラしても、絶対に仕事を奪ってはいけない!

答えを与える「ティーチング」から、考えさせる「コーチング」へ移行すること。


権限委譲デリゲーションは、丸投げではない。

すべてを任せて放置するのではなく、「致命傷にならない安全網セーフティネット」を先輩が作ってから任せること。


失敗は後輩の特権、仕組みを作るのが先輩の仕事。

失敗した時は「人のせい」にせず、「仕組みのせい」にして改善する!


「待つ時間」はコストではなく、未来への投資。


「ふぅ……よし、書けました!」

 アリサがインクを乾かしていると、カウンターの方から元気な声が聞こえてきた。


「アリサ先輩! 冒険者の方から、新しいダンジョンの地図の買い取り依頼が来ました! マニュアルの『特殊アイテム査定』の項目に沿って、基本価格の算出までは私がやっておきます!」


エマが、以前のオドオドした姿からは想像もつかないほどハキハキとした声で報告してくる。

 もう「これどうすればいいですか?」と答え(ティーチング)を求めるのではなく、「ここまでやったので確認してください」と自分で考えて動ける(コーチングの成果)ようになっているのだ。


「ありがとう、エマちゃん! 算出が終わったら赤色トレイに置いておいてね、後で最終チェックするから!」

「はいっ! 任せてください!」


頼もしい後輩の背中を見つめながら、アリサはふと、自分が初めてこのギルドに来た日のことを思い出していた。

 右も左も分からず、怒鳴られてばかりだった自分。でも今は、こうして誰かの成長を支えることができるようになった。


(私も、もっともっと頑張らなきゃ……!)


アリサが気合を入れ直して書類仕事に戻ろうとした、その時だ。


「……ううっ、終わらない……全然、完璧じゃない……っ」


ギルドの隅にある資料机で、一人の冒険者が頭を抱えて呻き声を上げていた。

 見れば、真面目で几帳面な性格で知られる弓使いの青年、ルークだ。彼の目の前には、丸められた書き損じの羊皮紙が山のように転がっている。


「ルークさん? どうしたんですか、そんなに目の下にクマを作って……」

「ア、アリサさん……。明日期限の『生態調査報告書』を書いてるんですが、何度書き直しても納得がいかなくて……。このままじゃ徹夜しても間に合いません……」


ルークの手元の報告書を覗き込むと、そこには魔物の毛並み一本一本まで緻密に描かれたスケッチと、辞書のように分厚い詳細な文章がびっしりと書き込まれていた。


「ええっ!? ただのゴブリンの生息数調査に、ここまで細かく書いているんですか!?」

「はい……! ギルドに提出する以上、100点満点の完璧な報告書じゃないと気が済まなくて……!」


アリサは思わず天を仰いだ。

 後輩の育成という壁を越えたと思ったら、今度は「100点を目指すあまり行動が遅れる」という、新たな厄介な病を抱えた冒険者が現れたようだ。


筆頭受付嬢の仕事に、終わりはない。

 アリサはバインダーを小脇に抱え、徹夜でボロボロになった青年を救うべく、歩き出した。


新シリーズ第2弾「権限委譲編」、最後までお読みいただきありがとうございました!


職場で後輩を持ったことがある方なら、一度は「ああもう、私がやった方が早い!」と心の中で叫んだことがあるのではないでしょうか。特に自分が優秀で仕事が早い人ほど、後輩のたどたどしい手つきを見るのは苦痛ですよね。

しかし、そこで仕事を取り上げてしまうと、後輩は「失敗して学ぶ機会」を奪われ、結果的にずっと先輩に依存し続けることになります。


今回のエマとアリサのエピソードのように、「赤色トレイ(致命傷になる前に先輩が止める安全網)」を用意して、その中であればいくらでも失敗していいよ、と言ってあげること。これが、本当の意味での「権限委譲(仕事を任せること)」の第一歩です。


さて、次回は第3シリーズ!

次回は、最後に登場した真面目な弓使い・ルークが主人公……ではなく、彼を救うアリサの奮闘記です!

「100点じゃないと提出できない」という完璧主義の呪いに縛られた彼に、アリサは「パレートの法則(80:20の法則)」と「完了は完璧に勝る」という魔法を伝授します。


「いつまでも資料の手直しをしていて、仕事が終わらない!」とお悩みの方にぴったりのエピソードになります。明日からも、肩の力を抜いて60点で駆け抜けましょう!

引き続きよろしくお願いいたします!

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