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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドの働き方が変わる5つの魔法 ~受付嬢アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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8/25

【権限委譲】「自分でやった方が早い病」からの脱却 3/5

「その冒険者さんはどっちへ行ったの!?」

「ひっ、西門の方向です! 『猪の牙』っていう三人組のパーティーで……!」


エマの言葉を聞くや否や、アリサはギルドを飛び出した。

 王都の石畳を全力で駆け抜けながら、アリサの頭の中は後悔でぐちゃぐちゃになっていた。


(やっぱり、私が見ていないとダメだったんだ! コーチングなんて綺麗事だ、お金の計算みたいな重要な仕事は、エマちゃんにはまだ早すぎたんだ!)


息を切らして西門の近くの酒場に飛び込むと、運良く『猪の牙』の三人が豪遊を始めようとしているところだった。

 アリサは平謝りして事情を説明し、彼らも「なんか金貨が混ざってて多いとは思ったんだよ」と苦笑いして返してくれたため、事なきを得た。


しかし、ギルドに戻ってきたアリサの疲労はピークに達していた。物理的な疲れよりも、「人に任せることの恐怖」が心を重くしていた。


「アリサ先輩……っ、本当に、本当にごめんなさい……!」


エマはカウンターの奥で、目を真っ赤に腫らして泣きじゃくっていた。


「私、やっぱり受付嬢には向いていません……。先輩の足を引っ張るだけですし、あんな大きなミスをして……もう、辞めた方が……」

「エマちゃん……」


落ち込むエマを見て、アリサの喉元まで「大丈夫よ、明日からは大事なお金の計算は全部私がやるから」という言葉が出かかった。

 それが一番安全で、一番早く、そして一番ラクな解決策だからだ。


「……そこまでよ、アリサ」


いつの間にか背後に立っていたシレーヌが、鋭い声で遮った。

 シレーヌは泣いているエマに「顔を洗いに行ってきなさい」と優しく指示を出して奥へ下がらせると、アリサに向き直った。


「危ないところだったわね。今のあなたは『自分でやった方が早い病』の末期症状よ。あのままエマから仕事を取り上げていれば、彼女の心は完全に折れ、ギルドを去っていたでしょうね」

「でも、シレーヌ先輩! 私は先輩の言う通り、答えを教えずに『任せて』みました! なのにあんな大失敗をして……やっぱり、私には後輩を育てるなんて無理です!」


アリサが悲痛な声で叫ぶと、シレーヌは静かに首を横に振った。


「アリサ、勘違いしてはいけないわ。あなたが今回やったのは『権限委譲デリゲーション』ではなく、ただの『丸投げ(アブディケーション)』よ」

「丸投げ……?」


「ええ。仕事を任せることと、放置することは全く違うの」


シレーヌはアリサの手帳を開き、羽ペンで図を描き始めた。


「権限委譲の鉄則は、『段階的に任せること』と、『安全網セーフティネットを張ること』よ。いきなり【精算額の計算】から【現金の受け渡し】まで、すべての権限を初心者に与えて目を離すなんて、崖から突き落とすのと同じ。失敗して当たり前よ」


「安全網……」


「お金の計算という『致命傷になり得る作業』なら、なぜ【現金を渡す前の最終チェックだけはアリサが必ず承認する】というルール(安全網)を敷かなかったの? 彼女に考えさせ、計算させる(コーチング)までは良かったわ。でも、最後の責任チェックまで放棄したのが、あなたのマネジメントの失敗よ」


アリサはハッとして息を飲んだ。


確かに、私は「全部自分でやる(過干渉)」か、「全部エマちゃんにやらせる(放置・丸投げ)」の極端な二択しか持っていなかった。

 自転車の乗り方を教える時に、いきなり補助輪も外して、手も離して、下り坂に背中を突き飛ばしたようなものだ。それで転んだエマを見て「やっぱり私が漕いだ方が早い」と嘆いていたのだ。


「……私の、私のせいです。エマちゃんの能力が足りなかったんじゃなくて、私が『失敗しても致命傷にならない仕組み』を作ってあげられなかったから……」


アリサが悔しそうに拳を握りしめると、シレーヌは優しく微笑んだ。


「気づけたなら、まだ間に合うわ。失敗は後輩の特権であり、その後始末をするのが先輩の仕事。エマの失敗を『彼女のせい』にせず、『仕組みのせい』と捉え直しなさい。そして、次はどうすれば彼女が『安全に』失敗して学べる環境を作れるか、考えるのよ」


アリサは深く頷き、顔を上げた。

 もう、逃げない。「自分でやった方が早い」という甘い誘惑に打ち勝ち、エマを一人前の受付嬢に育て上げるのだ。


翌朝。

 少し目を腫らし、俯き加減で出勤してきたエマの前に、アリサは満面の笑みで手作りの「木製のトレイ」を二つ並べて見せた。


「おはよう、エマちゃん! さっそくなんだけど、今日から精算のルールを新しくするわ!」

「え……? アリサ先輩、私、お金の計算はもう……」


「お金の計算は、今日もエマちゃんにやってもらいます!」


アリサがキッパリと言い切ると、エマはビクッと肩を震わせた。

 しかし、アリサはエマの不安を拭い去るように、並べたトレイを指差して説明を始めたのだった。

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