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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドの働き方が変わる5つの魔法 ~受付嬢アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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【権限委譲】「自分でやった方が早い病」からの脱却 1/5

「あわわわっ! ゴ、ゴブリンの討伐証明書は……えっと、耳が五つだから、銅貨が……ひ、ひぃふぅみぃ……あれっ!?」


王都ギルドの窓口で、新人受付嬢のエマがパニックを起こしていた。

 手元のそろばん代わりの計算盤を弾く手が震え、魔物の素材と書類がカウンターの上でぐちゃぐちゃに混ざり合っている。


「おいおい、新人ちゃん。ただのゴブリン五匹の精算だぞ? もう十分も待ってるんだが」

「ひぃっ、申し訳ありませんっ! 今すぐ計算し直しますからぁっ!」


冒険者の呆れた声に急かされ、エマはさらに焦って計算盤を床に落としてしまった。

 ガチャン! と派手な音を立てて散らばる木玉。エマは半泣きになりながらカウンターの下に潜り込んだ。


「あーもう、ごめんなさい! 私が変わります!」


見かねたアリサが、横からサッと滑り込んできた。

 アリサはエマの書類を素早く回収すると、価格早見表を見ることもなく一瞬で暗算を済ませる。


「ゴブリンの耳五つですね。規定報酬と合わせて、銀貨一枚と銅貨五枚になります。お待たせいたしました、次の方どうぞ!」


流れるような手さばきで、アリサはエマが詰まらせていた冒険者の列を、あっという間に捌いてしまった。

 十分後。ようやく列が途切れると、アリサは大きく息を吐き出し、エマに振り返った。


「エマちゃん、大丈夫?」

「あ、アリサ先輩……っ、ごめんなさい、私、また迷惑を……」


エマは申し訳なさそうに肩をすくめ、ポロポロと涙をこぼした。

 入職して一週間。エマは真面目で一生懸命だが、とにかく要領が悪く、焦るとすぐにパニックになってしまうのだ。


「ううん、気にしないで! 最初は誰だってそんなものよ。私がカバーするから、エマちゃんは焦らずゆっくり仕事を覚えてね」

「はい……っ。ありがとうございます、アリサ先輩」


エマを慰め、アリサは自分のデスクに戻った。

 しかし、そこにはアリサ自身の『筆頭受付嬢としての仕事(他ギルドとの連携書類や、高ランククエストの査定など)』が山のように積まれている。


(……よし、気合を入れなきゃ! エマちゃんの分の書類処理も私がやっておいた方が、ミスもないし絶対に早いもんね!)


アリサは羽ペンを握り直し、猛烈な勢いで二倍の仕事量をこなし始めた。


――それから、さらに数日が経過した。


「エマちゃん、そこの処理は私がやるから置いといて!」

「あっ、先輩、この依頼書の分類なんですが……」

「ごめん、今手が離せないから、それもこっちに回しておいて! 私が後で一気にやるから!」


ギルドのカウンターでは、完全に『アリサの一人舞台』が出来上がっていた。

 エマが少しでも戸惑う素振りを見せると、アリサは「私がやった方が早い」と仕事を取り上げてしまう。その結果、エマはカウンターの端でただオロオロと立っているだけになり、アリサのデスクには書類の山が雪崩を起こしそうになっていた。


「……ふぅ。これで今日の分は、全部終わりっ!」


夜のギルド。

 誰もいなくなった執務室で、アリサは背伸びをして凝り固まった肩を回した。疲れ果てて目は虚ろ、声はガラガラだ。


「随分とボロボロね、筆頭受付嬢」


背後から、冷たいお茶の入ったマグカップが差し出された。シレーヌだ。

 アリサはありがたく受け取り、ゴクリと喉を鳴らした。


「シレーヌ先輩……お疲れ様です。いやあ、新人教育って本当に大変ですね。エマちゃん、なかなか仕事を覚えてくれなくて」

「そうね。今のままでは、彼女が一人前になる日は一生来ないでしょうね」


シレーヌの厳しい言葉に、アリサは「えっ?」と顔を上げた。


「一生来ないって……そんなことありません! 彼女は真面目ですし、私がちゃんとフォローしていればいつかは……」

「いいえ。彼女の成長を止めている『一番の障害物』は、他でもない、あなたよ」


シレーヌは、アリサのデスクに積み上がった「エマの代わりに処理した書類の山」をトントンと指先で叩いた。


「あなたは今、恐ろしい病に感染しているわ。『自分でやった方が早い病』という、優秀なプレイヤーほど陥りやすい不治の病にね」

「自分でやった方が早い、病……」


「ええ。確かに、今のあなたがエマの仕事を奪って処理した方が『その瞬間は』早いわ。でも、それを繰り返せばどうなる? エマは失敗から学ぶ機会を永遠に奪われ、『指示待ち人間』になる。そしてあなたは、増え続ける仕事量に押し潰されて過労で倒れる」


図星を突かれ、アリサは言葉に詰まった。

 実際、最近のアリサは自分の仕事すら満足に回せておらず、睡眠時間を削ってなんとかギリギリでギルドを回している状態だったのだ。


「自分が倒れるだけならまだいいわ。問題なのは、あなたの処理能力の限界が『ギルド全体の限界』になってしまうことよ」


シレーヌはアリサの手帳を勝手に開き、羽ペンでササッと二つの言葉を書き込んだ。


【ティーチング(教える)】

【コーチング(引き出す)】


「アリサ。あなたがこれまでやってきたのは、単なる『ティーチング』、あるいは『仕事の代行』よ。後輩を育て、自分の手から仕事を離す(権限委譲する)ためには、もう一つの魔法……『コーチング』を身につけなければならないわ」

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