【アサーション】角を立てずに「NO」と言う技術 5/5
酒場での見事な解決劇から数日後。
王都ギルド『暁の翼』のカウンターは、今日も多くの冒険者たちで賑わっていた。
「アリサちゃん、本当に助かったよ」
山積みの書類を抱えたカイルが、ホッとした顔でアリサのデスクにやってきた。
「『紅蓮の刃』の連中、あれから他の指名依頼も上手に断るか、後輩パーティーに斡旋してくれるようになったんだ。おかげでギルドへのクレームもゼロになったし、何よりギルド内の仕事の巡りがすごく良くなったよ!」
「よかったです! ザックさんたち、根は素直で良い人たちですからね」
アリサは嬉しそうに微笑み、手元にある革張りのバインダーを開いた。
そして、美しい銀色の羽ペンを走らせ、筆頭受付嬢としての新しい経験を『お仕事魔導書』にしっかりと刻み込む。
【私のためのお仕事魔導書】
新シリーズ第1の魔法:アサーション(適切な自己主張)
嫌な仕事を断る時、相手を怒らせず、自分も我慢しないための「第三の道」。
角を立てずに「NO」を伝えるには、**『DESC法』**を使う!
D(Describe・描写):相手の状況や客観的な事実だけを伝える。
E(Express・表現):相手を責めず、自分の気持ちや事情を伝える。
S(Specify・提案):ただ断るのではなく、相手のための「代替案」を出す。
C(Choose・選択):その提案で良いかどうか、最後に相手に選ばせる。
※注意:感情的になって「攻撃」しても、我慢して「受け身」になっても、結局チームの空気は悪くなる。対等な関係を恐れないこと!
「綺麗にまとまったわね」
背後からスッと伸びてきた手が、アリサの手帳を覗き込んだ。シレーヌだ。
「シレーヌ先輩! はい、アサーションの魔法、すごく役に立っています。これでギルドの人間関係はバッチリです!」
「ふふっ。コミュニケーションの第一歩としては合格よ」
シレーヌは優雅に微笑んだ後、ふと視線をギルドの入り口へと向けた。
「でも、人間関係の魔法は、相手が『話の通じる冒険者』ばかりとは限らないわ。特にあなたが『教える側』に回った時、本当の試練が訪れるのよ」
「え……? 教える側、ですか?」
「ええ。今日からこのギルドに配属された、あなたの『初めての直属の後輩』よ」
シレーヌが指差した先には、ギルドの重い木扉を必死に押し開けようとしている、小柄な少女の姿があった。
彼女は両手に抱えきれないほどの書類の束を持っており、足元がおぼつかない。
「あわわわっ! す、すみません、通してくださいっ……あっ!」
バサァァァンッ!!
少女は何でもない平坦な床で派手に転び、持っていた大量のクエスト依頼書を、吹雪のようにギルド中に撒き散らしてしまった。
「ひぃぃっ! ごめんなさい! 今すぐ拾いますぅぅ!」
涙目で床を這いつくばる少女を見て、アリサは思わず額に手を当てた。
「……彼女が、新人受付嬢のエマよ。今日からあなたが教育係として、彼女を一人前に育て上げなさい」
「わ、私が、あの子を……?」
「そうよ。自分でやった方が早いからといって、仕事を取り上げるのは禁止。……さあ、筆頭受付嬢のお手並み拝見といきましょうか」
シレーヌの楽しそうな声とは裏腹に、アリサの顔には冷や汗が流れていた。
角を立てずに断る方法は覚えた。けれど、「仕事ができない後輩」をどうやって育てればいいのか、そんな魔法はまだ知らない。
「エマちゃん! 待って、私が手伝うから……あっ、その書類は裏返しにしちゃダメっ!」
筆頭受付嬢アリサの新たな奮闘の日々が、幕を開けたのだった。
【あとがき】
新シリーズ第1弾「アサーション編」、最後までお読みいただきありがとうございました!
仕事で「それ、今私がやらないとダメですか?」と思うような急な依頼や、理不尽な要求をされた時。真っ向から反発すると喧嘩になり、かといって全部引き受けていると自分が壊れてしまいますよね。
そんな時、この「DESC法」の型に当てはめて言葉を組み立てるだけで、不思議と相手を不快にさせずに「NO」を伝えることができます。大切なのは「代替案(提案)」をセットにすることです。これだけで、相手からの印象は「断られた」から「別の方法を考えてくれた」に変わります。
さて、次回は第2シリーズ!
仕事ができない後輩・エマの登場です。ついつい「あーもう、私がやった方が早い!」と仕事を取り上げてしまう病(プレイングマネージャーの罠)から、アリサはどうやって抜け出すのでしょうか。
「権限委譲」と「コーチング」の魔法をお届けします。お楽しみに!
新シリーズ第1弾「アサーション編」、最後までお読みいただきありがとうございました!
仕事で「それ、今私がやらないとダメですか?」と思うような急な依頼や、理不尽な要求をされた時。真っ向から反発すると喧嘩になり、かといって全部引き受けていると自分が壊れてしまいますよね。
そんな時、この「DESC法」の型に当てはめて言葉を組み立てるだけで、不思議と相手を不快にさせずに「NO」を伝えることができます。大切なのは「代替案(提案)」をセットにすることです。これだけで、相手からの印象は「断られた」から「別の方法を考えてくれた」に変わります。
さて、次回は第2シリーズ!
仕事ができない後輩・エマの登場です。ついつい「あーもう、私がやった方が早い!」と仕事を取り上げてしまう病(プレイングマネージャーの罠)から、アリサはどうやって抜け出すのでしょうか。
「権限委譲」と「コーチング」の魔法をお届けします。お楽しみに!




