【アサーション】角を立てずに「NO」と言う技術 4/5
「『S』と『C』……? 断るのに、何を提案するんだよ」
ザックが怪訝そうな顔で首を傾げた。
「ただ『出来ません』とシャットアウトするのではなく、相手が困らないための別の道(S:提案)を用意してあげるんです」
アリサは羽ペンで手帳を指し示しながら説明を続けた。
「例えば、『今の私たちには受けられませんが、ゴブリン退治が得意な信頼できる後輩パーティー(Cランク)をご紹介しましょうか?』というように。これが『S(提案)』です」
「なるほど……。それなら、村の連中も『突き放された』とは思わないか」
「はい! そして最後に『C(選択)』です。提案した結果、相手にどうしてほしいかを委ねます。『もし後輩パーティーでもよろしければ、すぐにギルド経由で手配します。いかがでしょうか?』と選ばせてあげるんです」
D(描写)、E(表現)、S(提案)、C(選択)。
この四つのステップを踏むことで、相手を尊重しつつ、自分の「断りたい」という要求を確実に通すことができる。
「すげえな……。これなら、俺たちも嫌な仕事を受けずに済むし、相手も不満を持たないってことか」
ザックが感心したように呟いた、まさにその時だった。
「おーい、ザック殿! いるかい!」
酒場の入り口から、恰幅の良い豪商がドタドタと足音を立ててやってきた。王都でも有数の大きな商会の主だ。
「げっ、ダミアン商会長……。また面倒な護衛依頼を持ってきたぞ」
ザックが顔を引き攣らせて小声で言った。
「あそこの護衛は、荷物の扱いが細かくてすげぇ気を遣うんだ。おまけに報酬も渋い。絶対にやりたくねぇ……」
「ザック殿、いいところに! 実は明日、隣街まで貴重な魔石を運ぶのだが、盗賊が出そうでな。是非とも、泣く子も黙る『紅蓮の刃』に指名で護衛を頼みたい!」
商会長はバンッとテーブルを叩き、強引に依頼書を押し付けてこようとした。
いつものザックなら、「ケチな商人の護衛なんかやってられるか!」と怒鳴り散らして大喧嘩になっているところだ。
しかし、ザックは横にいるアリサと目が合うと、ゴクリと唾を飲み込み、そしてゆっくりと立ち上がった。
(よし、さっき教わった魔法(DESC)を試してやる……!)
「商会長。ご指名いただき、大変光栄です」
ザックは努めて冷静な声を作り、相手を真っ直ぐに見た。
「ですが、明日はすでにギルドからの重要な討伐依頼が入っており、王都を離れることができません」(D:事実)
「せっかく商会長直々にご足労いただいたのに、お引き受けできず本当に申し訳なく思っております」(E:気持ち)
その丁寧な言葉に、商会長は目を丸くした。いつもならすぐに怒鳴ってくる暴れん坊の剣士が、礼儀正しく謝惑しているのだ。
「う、うむ……。そうか、先約があるなら仕方ないが……。困ったな、明日の出発は絶対なのだが……」
商会長が戸惑いを見せた瞬間、ザックは間髪入れずに次のステップへ進んだ。
「ですので、一つご提案があります。うちのパーティーに匹敵する防動力を持つ『鉄壁の盾』というBランクパーティーが、明日は空いているはずです。彼らは防御と索敵に特化しているので、魔石の運搬にはむしろ俺たちより適任です」(S:提案)
「ほう! それは頼もしいな!」
「もしよろしければ、この場で俺からギルドのアリサに手続きを頼み、彼らをすぐにご紹介できます。……いかがいたしましょうか?」(C:選択)
完璧なアサーションだった。
商会長はパッと顔を輝かせ、何度も頷いた。
「おお! それはありがたい! ぜひその『鉄壁の盾』を紹介してくれ! いやあ、ザック殿は強いだけでなく、気配りもできる素晴らしい冒険者だ。また何か大きな仕事があれば、真っ先に君たちに声をかけさせてもらうよ!」
商会長は上機嫌でアリサに手続きを頼むと、ホクホク顔で酒場を去っていった。
「…………す、すげえ」
残されたザックは、自分の両手を見つめて震えていた。
「俺、相手を一切怒らせずに、嫌な仕事を断ったぞ……! しかも、何故か前より感謝されて、株まで上がっちまった!!」
「見事でしたよ、ザックさん! これが、角を立てずにNOと言う『DESC法』の力です!」
アリサがパチパチと拍手喝采を送ると、ザックたち『紅蓮の刃』のメンバーは「やったぜリーダー!」「これでAランク昇格に集中できるぞ!」と大喜びでエールを掲げた。
「ありがとな、アリサ! お前のおかげで、これからは無駄な喧嘩をせずに済みそうだ。次にデカい獲物を仕留めたら、一番いい部位をギルドの食堂に差し入れてやるよ!」
晴れやかな笑顔を見せるザックたちを見届け、アリサは満足げに酒場を後にした。
相手を尊重しながら、自分の意見も守る。この「アサーション」の魔法は、ギルドをさらに良い場所にしてくれるはずだ。




