【アサーション】角を立てずに「NO」と言う技術 3/5
カイルからの情報によると、Bランクパーティー『紅蓮の刃』は最近、実力をつけてきたことで村人や商人から直接「指名依頼」を受けることが増えたらしい。
しかし、彼らは自分たちがやりたい高難易度の依頼以外を、すべて暴言と共に断り飛ばしているという。
アリサがギルドの酒場へ向かうと、赤い軽鎧を着た『紅蓮の刃』のリーダー、若き剣士のザックが、仲間とエールを煽っていた。
「ザックさん、少しよろしいですか?」
「あ? なんだよアリサ。俺たちは今、面倒な依頼を押し付けられそうになって機嫌が悪いんだ」
ザックは不機嫌そうに舌打ちをした。
「さっきもよ、西の村の村長がわざわざ来て『裏山のゴブリンを退治してくれ』とか抜かしやがった。俺たちは今、Aランクを目指してるんだぜ? 『そんな仕事、俺たちに持ってくるんじゃねえ!』って追い返してやったよ」
アリサは小さくため息をついた。
「ザックさん。その村長さん、泣きながらギルドにクレームを入れて帰りましたよ。『紅蓮の刃は恐ろしい不良パーティーだ』って」
「なっ!? 俺たちは正当な権利として断っただけだろ!」
「断ること自体は悪くありません。でも、ザックさんの断り方は『攻撃的』すぎます」
アリサは手帳を開き、ザックの前に置いた。
「自己主張には、三つのタイプがあります。一つ目は、自分の意見を押し殺して嫌な仕事も全部引き受けてしまう『非主張的(受け身)』なタイプ」
「そんなの、いつか過労で潰れちまうぜ」
「はい。二つ目は、相手の事情を無視して自分の意見だけを叩きつける『攻撃的』なタイプ。……今のザックさんたちです」
ザックがムッとして顔をしかめる。
「じゃあどうしろってんだよ! 俺たちがやりたくもないゴブリン退治を笑って引き受けろってのか!?」
「いいえ。そこで三つ目のタイプ、『アサーティブ(適切な自己主張)』の魔法を使うんです」
アリサは手帳に羽ペンで『D・E・S・C』という四つの文字を書いた。
「角を立てずに『NO』と言うには、伝える順番が大事です。
まずは『D(描写)』。相手の状況や客観的な事実を伝えます。
次に『E(表現)』。自分の気持ちや事情を、相手を責めずに伝えます」
アリサはザックの目を真っ直ぐに見つめた。
「ザックさん。ゴブリン退治を依頼された時、本当はどう伝えたかったんですか?」
ザックは少しバツが悪そうに視線を逸らし、ぽつりとこぼした。
「……俺たちだって、昔は村のゴブリン退治で世話になった。でも、今はAランク昇格試験が近くて、高難易度の魔物に集中したいんだよ。それに、今の俺たちの過剰な火力じゃ、裏山ごと燃やしちまうかもしれないしな」
「素晴らしい理由じゃないですか!」
アリサはポンッと手を叩いた。
「それをそのまま伝えればいいんです! 『ご指名ありがとうございます。ですが、私たちは現在Aランク昇格試験を控えており、スケジュールに余裕がありません(D:事実)』。『せっかく頼っていただいたのにお引き受けできず、大変心苦しいです(E:気持ち)』……こう言われたら、村長さんはどう思うでしょうか?」
「……まあ、頭ごなしに怒鳴られるよりは、納得するだろうな」
「その通りです。でも、これだけだと単なる『冷たいお断り』で終わってしまいますよね。そこで、相手との関係を良くするための次のステップ、『S(提案)』と『C(選択)』に繋げるんです」
アリサの言葉に、ザックたち『紅蓮の刃』のメンバーが、エールのジョッキを置いて身を乗り出した。




