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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドの働き方が変わる5つの魔法 ~受付嬢アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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24/25

【アンガーマネジメント】怒りの「本当の理由」を見抜く 4/5

翌日の午後。

 アリサが手配したギルドの個室(面談ブース)には、重苦しい沈黙が漂っていた。


テーブルの片側には、気まずそうに俯くイグニス。

 反対側には、昨日彼と大喧嘩をして出て行った三人組のパーティーメンバーたちが、警戒心むき出しで座っていた。


「……アリサさんに『どうしても話がある』って頼まれたから来たけどよ」

 リーダー格の剣士が、腕を組んでイグニスを睨みつけた。

「おいイグニス。また俺たちに説教して、魔法をぶっ放すつもりなら、今すぐ帰るからな」


その挑発的な言葉に、イグニスの眉間がピクッと動き、テーブルの下で握られた拳からボワッと赤い熱気が漏れ出した。

(カチンときた。また俺を悪者扱いしやがって……!)


怒りの感情(二次感情)が、脳を支配しようとした瞬間。

 イグニスの隣に座っていたアリサが、テーブルの下でそっと彼に合図を送り、指を一本ずつ折り曲げ始めた。


――『いいですかイグニスさん。怒りの感情のピーク(頂点)は、長くは続きません。カッとなったら、とにかく頭の中で【6秒】だけ数えてください。それが、怒りの炎をやり過ごす最初の魔法です』


(1……2……3……)


イグニスはギュッと目を閉じ、アリサに教わった通りに心の中でゆっくりとカウントを数えながら、深く、深く深呼吸をした。

 もし昨日までの彼なら、一秒で「ふざけるな!」と怒鳴り返し、交渉は決裂していただろう。


(4……5……6!)


目を開けた時。

 イグニスの拳から漏れていた熱気は、嘘のようにスゥッと消え去っていた。6秒の冷却期間を置いたことで、反射的な「怒り」の衝動が収まり、理性が戻ってきたのだ。


「……すまなかった」

 イグニスの口から出た静かな謝罪に、身構えていた三人は「えっ?」と目を丸くした。


「昨日、俺が勝手に大魔法を使って、お前らを巻き込みそうになったこと。そして、酒場で怒鳴り散らしたこと……本当に悪かった」


イグニスは頭を下げた。

 そして、アリサから教わったもう一つの魔法、『自分の本当の気持ち(一次感情)を伝えるアサーション(Iメッセージ)』を実践すべく、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「昨日の『嘆きの谷』で、お前らが魔物の群れに囲まれた時……俺は、お前らを失うのが、死ぬほど『怖かった』んだ」

「……え?」


いつも強気で暴れ回る『焔の魔術師』から出た「怖い」という弱々しい言葉に、三人は息を飲んだ。


「俺は不器用だから、お前らみたいな大切な仲間を失わないためには、大魔法で一掃するしか思いつかなかった。結果的にお前らを危険な目に遭わせたのに、お前らから『危険だ、短気だ』って拒絶されて……俺はすごく『悲しかった』」


怒りというフタを取り払い、その下にあった「恐怖」と「悲しみ」。

 自分の弱さを隠さずに見せたイグニスの言葉は、攻撃的な棘を持たず、スゥッと真っ直ぐに仲間たちの心へと染み込んでいった。


「悲しくて、どうして分かってくれないんだって焦って……その結果、全部『怒り』に変換して、お前らを傷つける言葉をぶつけちまった。……俺は、本当はお前らともう一度、一緒に冒険がしたい」


静まり返る面談ブース。

 イグニスの『本当の気持ち』を聞いたリーダーの剣士は、ハッとして自分の手を見つめた。


「……そうか。お前、俺たちを助けようとして必死で……」


剣士の目から、敵意が完全に消え去っていた。

 相手が「自分のために怒っていた」のではなく「自分たちを失うのが怖くて必死だった」と分かれば、受け取り方は180度変わる。


「……俺たちの方こそ、悪かった。お前が一人で残って盾になってくれたのに、助かった途端に文句ばかり言って。お前を傷つけていたのは、俺たちの方だ」


リーダーが頭を下げると、残りの二人も「ごめん、イグニス」「俺たち、イグニスがそんな風に思ってくれてたなんて知らなくて……」と次々に謝罪を口にした。


「いや、俺の方こそ……」

「今度から、危ない時は連携して逃げようぜ。お前の魔法のタイミングも、ちゃんと話し合って決めておけば安全だろ?」


差し出されたリーダーの右手を、イグニスは少し照れくさそうに、しかし力強く握り返した。


「……ああ。よろしく頼む」


壊れかけていた絆が、再び強く結びついた瞬間だった。

 アリサは胸を撫で下ろし、嬉しそうにその光景を見守っていた。


アンガーマネジメントは、「怒らないための魔法」ではない。

 怒りと上手く付き合い、怒りの下にある「自分の本当の気持ち」に気づき、それを正しい言葉で相手に伝えるためのコミュニケーション術なのだ。


面談ブースの外では、いつの間にか様子を見に来ていたシレーヌが、小さく満足げに頷き、静かに自室へと戻っていった。

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