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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドの働き方が変わる5つの魔法 ~受付嬢アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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22/25

【アンガーマネジメント】怒りの「本当の理由」を見抜く 2/5

「あなたがパーティーメンバーに怒鳴りつけた時。その燃え盛る怒りのフタの下には、一体どんな『本当の気持ち』が隠れていたんですか?」


アリサは自信満々に手帳を差し出し、イグニスに問いかけた。

 これまでの『アサーション』や『リフレーミング』と同じだ。相手に論理的な仕組み(魔法)を説明すれば、きっとイグニスも自分の心に気づき、冷静になってくれるはずだ。


「さあ、イグニスさん。本当は『自分を分かってくれなくて寂しい』とか、『仲間が怪我をするのが怖かった』とか、そういう気持ちがあるんじゃないですか? それを素直に……」


「……あ?」


イグニスの声が、地を這うように低くなった。

 先ほどまでシュウシュウと燻っていた熱気が、一気に爆発的な炎となって彼の全身を包み込む。


「寂しいだぁ!? 俺がそんな女々しい理由で怒ってるって言いてぇのか!!」

「ひゃっ!?」


ドンッ!! とイグニスがテーブルを叩き割らんばかりの勢いで立ち上がった。

 彼から放たれる圧倒的な魔力と熱風に、アリサは思わず手帳を落として尻餅をついてしまった。


「知ったような口を利くな! 俺の何が分かる! もういい、ギルドなんか辞めてやる!!」


完全に逆上したイグニスが、周囲の椅子を蹴り飛ばして出口へと向かおうとする。

 アリサの顔から血の気が引いた。


(どうして!? ちゃんと『氷山モデル』の仕組みを説明したのに! アサーションの時みたいに、上手くいくはずだったのに……!)


最近、ビジネススキルの魔法を使って次々とトラブルを解決してきたアリサは、無意識のうちに「自分はもう何でも上手く対応できる」と過信していたのだ。

 だが、現実は違う。激しく燃え盛る他人の『感情』は、教科書通りの理屈を押し付けただけで鎮火するほど、単純なものではなかったのだ。


「待って、イグニスさん……っ!」


アリサが焦って止めに入ろうとした、その時だった。


「――そこまでになさい、イグニス。あなたの無駄な熱気のせいで、私のハーブティーがぬるくなってしまったわ」


凛とした冷ややかな声と共に、ギルドの空気が一瞬にして凍りついた。

 いつの間にかイグニスの目の前に立ち塞がっていたのは、優雅にティーカップを手にしたシレーヌだった。


「シ、シレーヌ……」

 イグニスが顔を引き攣らせ、纏っていた炎が少しだけ揺らぐ。王都ギルドの影の支配者とも言える彼女には、血の気の多いイグニスでさえ本能的な恐れを抱いているのだ。


「アリサ。あなたは少し、頭でっかちになりすぎているようね」

 シレーヌはアリサに視線を向けず、静かに言い放った。


「怒り狂っている相手に、『あなたの本当の気持ちはこうでしょう?』と理屈で分析して暴くのは、傷口に塩を塗り込むのと同じよ。相手は自分の弱い部分(一次感情)を守るために怒っているのに、それを無理やり引き剥がそうとすれば、より激しく反発(爆発)するのは当然でしょう?」


「あっ……!」

 アリサはハッとして、自分の過ちに気づいた。

 私は彼に寄り添うふりをして、ただ「覚えたての知識(正論)」を押し付けて、彼をコントロールしようとしていただけだ。


「見ていなさい。アンガーマネジメントの本当の第一歩は、分析することではなく……『共感して、フタを外してあげる』ことよ」


シレーヌはイグニスに向き直ると、彼の怒りのオーラに全く怯むことなく、スッと手を伸ばして彼の肩に触れた。


「イグニス。今日のクエスト先は、強力な魔物が出る『嘆きの谷』だったわね。……あなたは、足の遅い仲間たちを逃がすために、一人で前衛に残って大魔法を使った。そうでしょう?」

「……ッ!」


イグニスの肩が、ビクンと大きく跳ねた。


「あのまま魔法を使わなければ、仲間が死んでいたかもしれない。あなたが一番恐れていたのは、自分の命ではなく『仲間を失うこと』だった。……本当は、誰よりも仲間想いで、仲間が傷つくのが怖くてたまらなかったのよね」


分析するのではなく、彼の行動の裏にあった「本当の気持ち」を、シレーヌが優しく言語化して、肯定してあげたのだ。


「違う……俺は別に……っ」

 イグニスは否定しようとしたが、その声はひどく震えていた。

 彼の手からボワボワと上がっていた炎が、嘘のようにスゥッと消えていく。


「必死に仲間を守ったのに、それを『危険だ』と責められたら、悲しくなるのは当然よ。あなたは、傷ついていたのね」


シレーヌのその言葉が落ちた瞬間。

 イグニスは糸が切れたようにその場に崩れ落ち、両手で顔を覆って、子供のように声を上げて泣き始めたのだった。

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