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灰燼(かいじん)の設計者  作者: 蒼牡蠣
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第15話:重力結界と、地盤の共振

ハイランド平原の西側。

見渡す限りの泥濘が広がる湿地帯の中央で、帝国軍の主力部隊が完璧な陣形を敷いて待ち構えていた。


彼らの足元だけが、魔法によって岩のように硬く変質している。

さらに陣地の上空には、目に見えない強烈な「重力結界」が展開されていた。


「進め! 敵の結界を破れ!」


味方の先鋒部隊が泥に足を取られながら突撃するが、敵陣まであと五十メートルの地点に踏み込んだ瞬間、目に見えない巨大な力で地面に叩きつけられた。


「ぐ、あぁっ……! 体が、重い……!」


重力結界。術式自体は空中に展開されているため、物理的な破壊が極めて困難な環境魔法。

鎧の重さが数倍になり、兵士たちは這い蹲ることしかできない。そこへ、敵陣から一方的な魔法の雨が降り注ぐ。


私は後方からその惨状を見つめながら、静かに時間を測っていた。


「レイ。味方の被害が拡大している。準備はできているな」


エレン中佐の冷たい声。

私は手に持っていた起爆装置の安全ピンを引き抜いた。


「条件は揃いました。敵は重力結界を維持するために、足元の地面に対して強烈な『下向きの力(圧力)』をかけ続けています」


私はあらかじめ、味方の工兵部隊と地属性魔術師を使って、敵陣の真下にある地下水脈に大量の水を注入し、地下の砂の層を限界まで飽和状態(水浸し)にさせていた。


「地下水で飽和した砂層に対して、上から強烈な圧力がかかっている状態で、特定の『振動』を与えるとどうなるか」


私は起爆装置のスイッチを押し込んだ。


ズドォォォォォンッ!!


敵陣の地下深く、四方に配置しておいた小規模な爆薬が一斉に起爆する。

爆発の威力自体は地表には届かない。だが、その「物理的な振動」が、敵陣の真下の地盤を激しく揺さぶった。


直後。

敵陣の足元を固めていた岩のように硬い地面が、突如として「液体」のようにドロドロに崩壊し始めた。


「な、何だ!? 地面が、溶けて……!」


「結界の出力を上げろ! 足場を固め直すんだ!」


敵の魔術師たちがパニックに陥り、さらに重力魔法の出力を上げる。

だが、それが致命傷となった。


「液状化現象です」


私は淡々と事実を口にした。


水分を大量に含んだ砂地盤が、地震などの振動を受けると、砂の粒子が浮き上がり、地盤全体が液体のように振る舞う物理現象。

敵が重力結界で自分たちに「下向きの力」をかければかけるほど、彼らは自らの重さで液状化した泥の底へと急速に沈んでいく。


「ぎゃあああっ! 沈む、助け――」


重装甲冑を着込んだ敵の精鋭部隊が、文字通り底なし沼と化した大地に次々と飲み込まれていく。

上空の重力結界は、術者たちが泥に沈んだことで制御を失い、完全に霧散した。


「全軍、突撃。泥に沈んだ敵の頭を踏み潰せ」


エレン中佐の無慈悲な号令が下る。

重力結界から解放された味方部隊が、身動きの取れない敵軍を一方的に蹂躙していく。


魔法による足場の固定と、重力結界。

論理で構築された敵将ユリウスの完璧な布陣は、地球の重力と土壌の物理法則という「より巨大な論理」の前に、跡形もなく飲み込まれた。


私は泥濘の底に消えていく敵兵たちを見つめながら、静かに踵を返した。

盤面の主導権は、完全にこちらが握った。

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